帚木(ははきぎ)

 ある雨の夜、源氏の所に頭中将とうのちゅうじょうが訪ねてきます。彼は源氏の妻葵あおいの上の兄で、左大臣の子、御曹司です。

 源氏と頭中将は、左馬頭さまのかみ藤式部丞とうしきのぶじょうを交えて、理想の女性とはどんなものかを語り合います(「雨夜の品定め」)。

 左馬頭は良識があって、でしゃばらない謙遜している女がよいと言います。

 頭中将は「中流の女性」が一番よいといいます。実際に彼は「常夏の女」という、中流の女性を内縁の妻としたことがあったのでした。二人の間には女児までいたのですが、頭中将の正室(右大臣の娘)が嫌がらせをした結果失踪してしまいます。頭中将はその女性が今も忘れられず、思い出すと悲しいと語ります。


 翌日、方違え(外出する際、その方角が陰陽道的に凶だった場合、一旦別の方角の場所で一夜を明かし、目的地が悪い方角にならないようにするという風習が貴族にはありました。めんどくさい)のために源氏は紀伊守邸を訪問します。そこで彼は、紀伊守の継母で、伊予介の後妻であった「空蝉」を目にします。空蝉は、もとは上流貴族の娘で、宮仕えの道もありましたしたが、父の死によって後ろ盾を失い、受領階級の伊予介の妻となっていたのです。結果として中流階級の女性となった空蝉に、源氏は興味を抱き、強引に一夜を共にしてしまいます。


 その後、空蝉を忘れられない源氏は、空蝉の弟小君を自分のもとで仕えさせ、小君に手紙を届けさせますが、空蝉は受け取らず、小君を叱ります。その後も源氏は空蝉に想いを寄せますが、彼女は『竹取物語』の「かぐや姫」のように彼を拒絶します。



登場人物

光源氏・・・主人公。藤壺のことが忘れられない。妻、葵の上とは不仲。

頭中将・・・葵の上の兄、源氏の義兄、左大臣の子。源氏とは親友でライバル。中流階級の女性がよいと主張する。

右大臣・・・左大臣のライバル。娘の弘徽殿こきでん女御は桐壺帝のきさきで、桐壺の更衣に嫌がらせをした。娘の一人を頭中将に嫁がせている。

空蝉・・・伊予介の後妻。方違えで訪問してきた源氏と一夜の関係を交わす。その後は源氏を拒絶する。


かぐや姫・・・『竹取物語』の主人公。月から来た絶世の美女。五人の貴公子から求婚を受けるがすべてそっけなく拒絶した。

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