くせ毛

まただ。


最近よくある気がする。

絶対その服じゃない服の方が

似合うのに…。ということ。


そういう人は、必ず浮かない顔で出てくる。

だから私はお客さんが出てくる前に

もっと似合いそうな服を探す。

それが最近のマイブームになっている。



試着室は、自分の見た目と心に

1人で向き合うことを強いられる最たる場所だと思っている。

なんだって、人が1人立てるだけほどのスペースに自分と鏡しかない状態で閉じ込められるのだから。


でも気になることに、

お客さんは、私が選んだ服を見せる前にその服を手に取り、あたかもこれを探していました、というような顔で

「あ、それ…」

という反応をする。


どういうことなのだろう。


カウンターのなかで本を読み、

おやつを食べながら

ぼーっと考える。

左手に文庫本を持ち、

右手はくせ毛を探している。


集中したいときに

自然と髪の毛を触ってしまう人がいる。

あれのくせ毛捜索版。

もともとくせ毛だが、

そのなかでもよりちりちりになっている

毛がみつかると嬉しい。

少し痛いのを我慢して、

抜いてそのちりちり具合を

確かめることもある。


こんな私がパーマをかけて、アフロにしたらどうなるんだろう。


いけないいけない。

余計なことを考えすぎた。

あの学生に似合うセーターを考えなくては。


あの人が試着室に持って行ったセータを

思い出す。


カラフルで

ところどころパッチワークされているような

分厚めの生地に、

大きいポケットがついている

ポップなデザイン。


かわいい。

本当にかわいい。

気に入って仕入れた時の記憶が

鮮明に残っている。


でも…。

賢そうで無駄がなく、洗練された

空気をまとっている背の高い人が着ると

セーターが居心地悪そうな顔をしそうだ。

(セーターに顔があったらの話だけれど…)


遊び心があるけれど、

シュッとみえるような

あたたかいセーターが

確かあった気がする……。

きっと彼女にはそういうのが似合う。



探しに行こうとするけれど

本の続きが気になりすぎて動けない。


仕方ない。

こういうときは頑張らないって決めている。

それがちんちくりん。のルール。


まだまだ試着室から出てことを祈る。



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