第一章 その7 『その眼差しの見つめるもの』
練習後、乃花とわへいはリューリに呼び出されカーリング場の二階にあるラウンジに集まっていた。
その場には公立高校カーリング部の部長と、私立学園カーリング部の部長も同席していた。
さらに。
「ハナちゃん、わへいクンありがとうねー」
先に来ていた大和小玉がわへいに抱きつきそうな勢いで立ち上がるが、リューリの視線で思い留まる。
小玉は目標を素早く乃花に変更すると乃花を抱き締める。
「ほら、小玉。はしゃがない!小学生かい!?お前は」
「ごめんなさ〜い」
全く反省した様子もなく、小玉がぺろりと舌を出す。
解放された乃花はキャスケットを被り直すとわへいの隣に座った。
リューリから練習後に話があると言われた時、乃花としては自分の抑えていた気持ちがリューリにバレ、いよいよ
小玉の他に
その隣にはやはり
乃花の記憶に元オリンピアン、
「機屋さん、皆を集めてくれてありがとうね。私から主旨を説明するわね」
竹村が説明を始め、時折武蔵がフォローを入れる。
話を要約すると、
その意見交換会は一ヶ月後に開かれ、軽井沢の観光協会まで交えたものであると言う。
乃花は話を聞きながら、そもそもこの話を自分達に聞かせる竹村や武蔵の意図に思いを巡らせる。
そして、乃花は時折、率直に質問をぶつける。
「それは、どの程度まで意見をしてもよろしいのですか?」
その質問に竹村、武蔵両コーチが顔を見合わせる。
「もちろん、君が思い付くすべて意見してもらって構わない」
「分かりました」
短いやり取り。
小玉は暇そうに足をぷらぷらさせているが、目を細めリューリや乃花、わへいの顔を観察する。
リューリは終始無言、わへいは戸惑いながらも真面目に聞いていた。
スポーツを行う場合、様々なタイプの選手が育つ。
それは人間の
何かを極めようとするプロフェッショナルの集団は、その中で個人個人が様々な役割へと特化する傾向にある。
ある者は個人技を極め、ある者は広い視野を持って集団を纏め、管理していく。
この両者に優劣はない。
そして個性を認め、適切に人員を配置、集団運営する事を適材適所という。
カーリングを競技として捉えた場合、
リューリはカーリングを競技として捉え、カーラーとして技量を高める事に興味がある。
今回の話が技量を高める為の一流選手の講義であればリューリには得るものがあっただろう。
一方、乃花はリューリより視野が広い。
戦術面のみならず、カーリングと地域の結びつき、もっと言えばそこからカーリング界の抱える課題まで考えを広げる事が出来た。
また経験の浅いわへいは、乃花からの指導やその置かれている環境(自宅が元々ペンションだった)により、乃花と同じような視野を持つ。
彼の場合はそこに持って生まれた性格もあり、集団の中で自らの役割を理解し、潤滑油として働く事が多い。
「では、開催は一ヶ月後ですがよろしくお願いします」
竹村コーチの一言で場は解散となる。
リューリ、乃花、わへい。
三者三様それぞれの反応を見せながらラウンジを後にし、各部長もぺこりと挨拶をして帰宅する。
その場には竹村、武蔵両コーチと小玉だけが残された。
「なぁ、小玉。今回どうしてあの三人に声を掛けた?」
武蔵がその太い腕で顎をゴリゴリ擦りながら小玉に尋ねる。
「なんとなく、ですよん。コーチ殿」
小玉は
「なんとなくねぇ。でも。確かに面白いわ。私はあの乃花って子、気になるかな」
「若い頃の
「ううん。私よりもっと大人よ。あの子。私が高校生の頃は
「いま、この町もカーリング界も息詰まるような話ばかりだ。それを払拭してくれる、何かこう起爆剤が欲しいんだ。これが起爆剤になるとは思わん。だが、導火線に火をつける、そんな事に繋がってくれたらいい…ってお前等、話を聞けよ」
「竹村コーチィお腹が空いたよん。皆の飲み物買ってお金無くなっちゃったよん。奢ってぇー!」
「それじゃ今日は武蔵コーチに奢ってもらいましょ。いつものラーメン屋だけどイイ?」
「熱烈歓迎だよ~」
「って事で
「それは最後までNo、って聞いてねーな。ってか机片付けるの手伝えや」
竹村コーチと小玉の姿は既になく、止む無く武蔵は一人で長机を片付ける。
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