第31話 力に従え

 静かに頭を垂れるジャジャン。


 ローガンは剣を引くと、刃に付着した血液を懐から取り出したボロ布で丁寧に拭い、鞘に収めた。


 ローガンが ”守護者の鎧” を解除すると、背後に控えていたエミーリアがジャジャンの前まで歩み寄る。


「面をあげよオークの戦士ジャジャン」


 エミーリアの言葉に、ジャジャンはゆっくりと顔を上げた。


 びっしりと大粒の汗で濡れた彼の顔には、なにか覚悟の色が見えるような気がした。


 エミーリアはそんな戦士を見下ろして、ゆっくりと問いかける。


「戦士ジャジャン、あなたはアタシの騎士に負けた……敗北を認めるかしら?」


 ジャジャンは深くうなずく。


「あア、完敗ダ。戦士として、敗北を認めよウ」


 少し聞き取りづらい、それでも確かな大陸言語でジャジャンは敗北を認めた。


「あなたは一族で最強の戦士、間違いないわね?」


「そうダ」


「オークは力こそ絶対であると聞いたのだけれど、それも間違いないかしら?」


「あア、間違いなイ」


 エミーリアはジャジャンの言葉にニヤリと口角を釣り上げる。


「ならば戦士ジャジャン……いいえ、ゾゾバ族のオークたちよ、我が軍門に下りなさい。偉大なる竜王の末子、このエミーリア・L・ドラゴ・エレオノーラが魔王となるためにその力を振るうのよ」


 堂々たる声音で高らかにそう言うと、エミーリアは周囲のオークを見回してセリフを続けた。


「オークよ!力に従え!!」


 エミーリアの言葉に、場はしんと静まり返った。


 そして、周囲で見ていたオークたちが1匹、また1匹とその場で膝をつき忠誠の意を示す。


 やがて、その場に立っているのはエミーリアと、背後で控えているローガンだけになった。


 オークたちの様子を見たローガンも満足げに微笑むと、その場に跪き、エミーリアに忠誠の意を示す。


 エミーリアは堂々たる姿で傘下に下ったオークたちに支持をだした。


「我が騎士と勇敢に戦った戦士ジャジャンを次なる族長とするわ!ジャジャン、来るべきときに備え、兵を増やして」


「はっ、仰せのままニ」


 深々と頭を下げるジャジャン。


「オークには他の部族もいるでしょう?その併合をお願いしたいんだけど……できるかしら?」


「無論でス。我が王の期待に答えてみせまショウ」


「いい子ねジャジャン。期待しているわ」


 そしてエミーリアはくるりと身を翻して歩きだす。


 その先には、いつの間にか2頭の馬をこちらに引き連れてやってきたローガンの姿。


 ローガンにエスコートされ、ひらりと馬に飛び乗ったエミーリアは頭を垂れるオークたちに告げた。


「季節が巡る頃、様子を見に来るわ。アタシの期待に答えてね?」




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