第27話 静かな森



「……今日は森がやけに静かだな」


 勇猛なるオーク種ゾゾバ族の戦士ジャジャンは、今日の夕餉となる獲物を探しながら眉をひそめた。


 集落で待っているメスや子供たちのためにもたくさんの肉を持ち帰らねばならないのだが、かれこれ数時間近く探してもラット一匹見当たらない。


 森に何かよくないものが近づいているのかもしれない。


 ジャジャンは獣の第六感でそれを悟る。


 獲物は無いが、集落に戻って防御を固めるべきだろうか?


 ジャジャンは自問する。


 野生の勘に従って戻るべきか……しかし何事も無かった場合、今夜の夕餉がなくなってしまう。


 しばし悩んだ後、ジャジャンは集落に戻ることに決めた。


 取り越し苦労だとしても、ただ自分が族長に怒られるだけのこと。非常事態や冬に備えて乾燥させた肉の備蓄はいくらか残している。


 今日獲物がとれなかったからと言って、一族が飢えることはないのだ。


 そう考え、急ぎ足で集落に戻る。


 やがて集落が近づいてきたとき、ジャジャンの鋭い嗅覚が、血の匂いをかぎとった。


 ドクンッ!


 ジャジャンの鼓動が高鳴る。


 緊急事態だ。ジャジャンは腰布に差し込んでいたお手製のこん棒を抜き、臨戦態勢を整えると、集落へと駆け込んだ。


 集落の中心には留守番をしていたメスや子供たちが円を描くように集まっていた。


 その円の中心には人間のオスとメスの二人組、そしてその目の前に血だらけで倒れている族長の姿……。


「お前たちの族長は我が騎士が殺した!力に従えオークたち!お前たちはこれより我が傘下に加わるのだ」


 踏ん反りがえった人間のメス(いや、額に角があるということは知らない種族だろうか?)が、流暢なオーク言語で勝利を宣言した。


 オークにとって力は絶対だ。


 しかし、族長がイコールで最強の個体というわけではない。


 ジャジャンはこん棒を握りしめ、円の中心に躍り出る。


 踏ん反りがえっているメスに対して、かつて学んだ大陸言語で語り掛けた。


「”我はゾゾバ族最強の戦士ジャジャン!我が一族を従えたくば我と戦え”」


 角の生えたメスは驚いたような表情を浮かべた。


「”へえ、大陸言語がわかるのね……殺すには惜しいわ”」


 角の生えたメスは大陸言語でそう言うと、背後に控えていた人間のオスに声をかける。


「”殺さない程度に痛めつけなさい我が騎士”」


 メスから指示を受け、前に出てきたのは奇妙な木彫りの仮面をつけた人間のオスだった。


 別の種族なので判別は難しいが、おそらくそのオスはかなりの高齢だろう。


 しかしその隙の無い歩みと、全身から溢れ出る威圧感。


 見ればわかる。


 このオスは戦士だ。


 ジャジャンは最大限の警戒をもってこん棒を握りしめた。


 人間の戦士が剣を構え、その切っ先をジャジャンに向ける。


「”オークの戦士ジャジャンよ。一騎打ちといこうか”」


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