第25話 装備



「それで……言い訳はあるのかしら? 我が騎士」


 鍛冶屋から出た後、エミーリアは片方の眉を吊り上げて隣を歩くローガンを見上げた。そんな彼女に、ローガンは少しばつが悪そうに苦笑する。


「私がスミスに正体をあかした件に関して……ですかな?」


 そのとおりだと、エミーリアはため息をついた。


「腕の良い鍛冶屋なら他にもあるでしょう? 姿をひそめなくてはならないこの時期に、なぜ知り合いがいる可能性がある鍛冶屋を選んだの?」


 その問いに、ローガンは言葉を選ぶように、思考を整理しながらゆっくりと返答する。


「優れた戦士は武器を選ばないと言いますが、それは違うと私は考えております。確かに優れた技術を持つものが棒切れを持っていてもそれなりに戦えるでしょう……しかし、同量の技量を持つもの同士の戦いであれば……やはり勝敗を分けるのは装備の差なのです」


 技術があれば装備はなんでも良いと言いきれれば格好の良いことだ。いかにも大衆が好きそうな英雄のセリフだろう。


 しかし、歴戦の戦士であるローガンは、時に装備というものが命を左右するということを痛いほどわかっている。


 装備を言い訳にするのは二流だが、装備を整える事を馬鹿にするものは、二流ですらない三流以下の存在であると。


「準備は万全にすべきです。魔王へ至るという困難な道の途中で私が倒れることに比べれば、万全の装備を整えるため、スミスに正体がバレる事は必要なリスクだと考えました」


 黙ってローガンの話を聞いていたエミーリアは、納得したとばかりに微笑む。


「……正解よ我が騎士。アタシにとってもっとも回避すべきことはアナタを失うこと。それに比べれば、それ以外のリスクなんてあってないようなものだわ」


 エミーリアにとって”竜殺し”のローガンは魔王へと至るための切り札だ。


「オークを切り伏せるのに、その剣で十分なの? 別に一週間待ってもいいのよ」


 彼女の提案に、しかしローガンは首を横に振った。


「必要最低限といったところでしょうか。オーク程度でしたら問題ないでしょう。先ほどとは違う事を言うようですが、魔王への道は遠く険しいと存じます。のんびりしていたら先に私がくたばってしまいますからな」


 少しおどけたように言ったローガンに、エミーリアは小さく笑った。


「ふふ……そうね。魔王になるまえにアナタの寿命がきても困るもの」


「場所はお任せしてもよろしいのですか?」


 オークの集落をローガンは知らない。エミーリアにあてがないのなら、目立つことを覚悟でもう一度ギルドへと足を運ぶ必要があるかもしれない。


 しかし、そんな心配は杞憂だったようで、エミーリアは得意顔でうなずいた。


「ええ、たぶん人間以外の種族についてなら、アナタよりアタシの方が詳しいわ」


 それから、何か思いついたようにいたずらっ子の表情をして、エミーリアはローガンに語り掛ける。


「行きましょうか。アナタが死なないうちに……ね」


 パチリとウィンクをして歩き出すエミーリア。


 ローガンはやれやれと小さく一礼して、エミーリアの小さな背中に続くのだった。


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