第13話 獲物





「ふむ、少しずつ戻ってきた……かな?」


 あれから数分後。敵の返り血に塗れた仮面の男……ローガンは刃に付着した血をボロ布で拭っていた。


 しばらく実践から離れていたため、彼の剣技は酷く錆びついていたが、ここの数日の実践を経て、再び戦の感が戻ってきたように感じている。


 錆びてボロボロになった刃を丁寧に研いでいくように、実践を経るたびに少しずつ自身が研ぎ澄まされていく感覚。


 数十年感じていなかったその感覚に、ローガンは軽い陶酔を覚える。


 あぁ、たとえどんな上等な酒を飲もうと、これほどまでに甘美な感覚は味わえないだろう。


「……終わった? いい加減腰が痛くなってきたわ」


 馬車の中から可愛らしい少女の声。


 ローガンは馬車の入り口にかけよると、片膝をついて頭を垂れた。


「すべて片付きました我が主。お待たせして申し訳ございません」


 馬車からゆっくりと姿を現した竜族の少女エミーリアは、退屈そうにあくびをした後、ぐっと伸びをする。


 本来はエミーリアまで馬車の中にいる必要はなかったのだが、本人の希望でローガンと共に馬車の中で待機していた。


 高い買い物とはいえ、馬車の中は快適とは言いずらく、エミーリアは少し不満げだった。


「釣り……ねえ」


 ちらりと背後を見るエミーリア。


 そこには、ローガンの雇った護衛の死体が二つ。そして買ったばかりの馬車にはおびただしい量の血が付着している。


「随分とコスパの悪い釣りだこと」


 シニカルに笑うエミーリア。


「しかし、成果はありました。ならば無駄ではないでしょう」


 そしてエミーリアは釣りの成果……手足をへし折られ、地面に転がっている2人の男の元へと歩み寄った。


「随分と痛そうね、人間」


 嘲るようなエミーリアの言葉に、話しかけられた男は顔を上げ、彼女をにらみつける。


「質問はシンプルよ。”漆黒のダナン”に会いたいのだけれど……場所をしっているかしら?」


「けっ!知らねえな。失せな亜人のクソガ……」


 男のセリフは途中で遮られる。


 エミーリアの隣で待機していたローガンの剣が閃き、男の喉を掻き切ったのだ。


 驚愕の表情を浮かべたまま絶命する男と、その隣であまりの出来事に唖然としているもう一人の男。


 生き残っている隣の男の元に、エミーリアは一歩歩み寄り、にっこりとほほ笑んだ。


「残念だわ。あなたのお友達は素直になれなかったみたい……あなたは、素直に答えてくれるかしら?」


 ガタガタと恐怖に震える男。


 エミーリアはしゃがみこみ、男の頬にそっと手を添えた。



「ねえ、”漆黒のダナン”について教えてくれる?」





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