第5話 裏路地

 煌びやかな表の通りとは対照的に、薄暗くどんよりとした空気が漂っている。


 道ばたにはボロボロの服を着た、ガリガリの男達が力なく座りこんでいる。みな一様に眼に生気が無く、土気色の肌は死人を思わせた。


 そんな薄暗い路地を、エミーリアは何も気にならないとばかりに我が物顔で歩く。


 隣に控えるローガンは、エミーリアを襲う狼藉者がいないかと周囲に目を光らせながら、すぐに剣を抜けるように臨戦態勢を整えていた。


「我が騎士、何か当てはあるの?」


 エミーリアの問いに、ローガンは周囲に気を配りながら返答した。


「はい、私の知り合いに情報屋がおります。ソイツから情報を聞き出すつもりでいます……まだ生きていればの話ですが」


 なにせローガンが現役だったのは遙か昔。情報屋なんて危ない商売をしている男が、まだ生きているなんて保証はどこにもない。


「……しかし、裏路地に来るのは数十年ぶりですが、ここは昔のままですな」


 周囲を見回す。


 街の表通りは、時を経てより華やかに変わっていった。


 それこそ、数十年前とは比べものにならないほどに。


 だがこの場所は違う。


 誰の手も入らず、国も見ようとしない掃きだめ。何も変わらない、ただ絶望と貧困だけがこの場所にはある。


 ローガンは小さく息を吐き出したその瞬間、隣を歩いていたエミーリアの右手が稲妻のように閃き、二人の側を通りすぎようとしていた少年の腕を捻り上げた。


 悲鳴を上げる少年を、エミーリアは冷たい声で威圧する。


「下等種族ごときが……このアタシに対して良い度胸ね」


「我が主、どうかなさいましたか?」


 ローガンの問いに、エミーリアはふんと鼻をならす。


「ちんけなスリよ。コイツ、すれ違い様にアタシに手を伸ばしてきたの」


「なるほど……私が側にいながら申しわけございません」


「許すわ。ちょうどアンタからは死角だったしね」


 そんな会話をしていると、なにやら二人を囲むように路地裏から人相のわるい男たちが現れた。


 男たちはジロリと二人を見ると、意地の悪そうな笑みを浮かべながら嘲るように言う。


「大人しくしてりゃあ財布をスるくらいで見逃してやったものを……来る場所を間違えたなお二人さん。もうお前らは助からねえぜ?」


 エミーリアは捻り上げた少年の手を話すこと無く、つまらなそうにあくびをする。


「そう、このガキの仲間ね……我が騎士、力の差を教えてやって」


「御意」


 ローガンは一歩前に出て、ゆっくりと腰のロングソードを抜き、構える。


 周囲を取り囲む男たちの数は6人……武装をしているのは2人。先の野党どもとは違う。きっとこの男たちは暴力を生業としている人種ではない。


 飢えと貧困で徒党を組んだ素人の集まりだ。


 ならば剣を使うまでも無いかもしれない……。


 ちらりと背後にいるエミーリアに視線を向ける。しかし、彼女から返ってく来たのはシンプルな一言だった。


「殺しなさい」

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