第9話 クラスのギャルの見てないところで

 とりあえずその生徒会長の事は一旦忘れて、俺達はトレーとトングを片手に並べられたパンを見ていく。俺には見た記憶も無いし、莉々香は学校とは違う姿だからな。ギャルバージョンだったら目立つからもしかしたら気付くかもしれないけど。



「どれにしよっかなぁ〜?」


「いつものは? ほら、あのカスタードとチョコチップ入ってるデニッシュ」


「それは今日は無いの。いつもそれが置いてある場所は新商品に変わってるみたい」


「新商品? どんな?」


「チラシで見た感じだと、デニッシュにはデニッシュなんだけど、トッピングがブルーベリーとクリームチーズに変わってる感じかな?」


「え、それ買おうぜ。絶対美味いやつじゃん。つーか俺がチーズ系好きなの知ってるだろ?」


「あ、いっちゃんからそう言ってくるの珍しいね。いいよ。じゃあ買おっか。今持ってくるね」



 莉々香はそう言って他の客を避けながら目的のパンがある場所まで歩いていく。俺はと言うと、カートを押してるからそこまで動けない。他の客の迷惑になるからな。

 だから近くにあるパンをボーッと眺めていると、何故か妙に視線を感じる。

 最初は莉々香かと思ってそっちを見るけど、莉々香はウキウキとパンをトレーに次々と乗せているから違う。なら誰だ? と思ったところでその視線の主がわかった。

 ……生徒会長だ。生徒会長がじーっと俺の事を見ている。一瞬目が合った時には逸らしていたけど、こっそり伺うとまた見ている。いったいなんなんだ? 接点なんて無いはずなんだけどな。



「いっちゃんお待たせ!」


「ん? やっとか──ってなんだその量!? パンの山になってるぞ。それ全部食えるのか?」



 戻ってきた莉々香のトレーの上はパンの山。乗せすぎてトレーがほとんど見えない程だ。いくら好きだとは言ってもこれはさすがになぁ……。絶対食べきれなくて悪くなるパターンだな、コレは。



「大丈夫! 日持ちするやつもあるから火曜日まではお弁当はパンです!」


「ま、まじか……」


「もちろん♪ それじゃあ会計してくるね。あ、でも今レジ混んでるからいっちゃんは先にお米をカートに入れて置いてもらってもいい? いつものね」


「りょ〜かい」



 レジに並ぶ莉々香を見届けてから俺は米がある棚へとカートを押していく。



「えっと、いつものいつもの……あった。これの10キロだったな」


「ねぇ」



 いつも食べてる米を見つけた俺はしゃがんでその米を抱え、そのままカートの下に置いたところで頭上から突然の声。俺の視界に映るのはブーツを履いた足とスカートの裾。そのまま顔を上げると、そこにはさっきの暴食生徒会長が腕を組んで立っていた。

 近くで見ると綺麗な顔立ちをしていて、可愛いと言うよりは美人系。細身でスラッとしてはいるけど、出るところは出ている。莉々香程じゃないけどな。

 ただ、組んだ腕に乗っている胸の上にさっき食べていたパンくずがこぼれているのが残念ポイントだ。



「ねぇ、聞いてる?」



 返事をしないでいると再び声をかけられた。一応周囲を見渡すけど他には誰もいない。つまり俺に声をかけたのは間違いなさそうだ。この人も米を買いに来たのか。



「あ、すいません。邪魔でしたね」



 軽く頭を下げてすぐにその場から立ち去ろうとするけど、そこで更に声をかけられる。



「待って。貴方、うちの高校の一年生の真峠くんでしょ? 私は生徒会長の久我。久我くが美羽みう。二年よ。ちょっと貴方に聞きたいことがあるの」


「…………」



 なんで俺の事知ってるんだ?



「なんで知っているのかが気になるのね? 大した事じゃないわ。だって私は生徒会長なんですもの。それに貴方のクラスは派手な子が多いでしょ? だから地味な人は逆に目立つのよ」



 地味で悪かったな。



「……そうですか。確かに俺は真峠です。それでその久我生徒会長は俺に何を聞きたいんですか?」


「貴方……最近この辺で噂になってる青鬼って知ってるかしら?」


「聞いたことはありますね。会ったことは無いですけど」


「……そう。聞きたいことはそれだけよ。じゃあね」



 そう言って立ち去る生徒会長。……いったいなんだったんだ?







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