第二十一話 『一旦休むか』
俺はまだこの世界にきて一日程だから、この世界の常識には疎い方だ。
しかし、この世界にだってリンゴが地面に落ちる様に、地球と同じようにれっきとした物理法則は存在するんだ。
(いやいや、何であんな勢いで落ちてきたのに骨折すらしてないんだよ!)
冥皇が直地した地面はひび割れており、そのひび割れは冥皇から離れるにつれて小さくなってはいるものの、半径二、三メートルの範囲まで広がっている。
そのひび割れを見れば、地面が受けた運動エネルギーがいかに強大であったかが分かることだろう。
俺は、葉山は背に庇いながら前に立つ。
「まあ、何故お主らにマーキングが付いてるのかは、捕まえてから聞くとするかのぉ。それに、彼女、葉山といったかの、ルチアーノの奴に洗脳しとけと言われていた勇者じゃないか。これは運が良え、ここでまず確実に一人洗脳出来るわ。」
なんか重要そうなことをベラベラ話しているが、その言葉の考察は後回しだ。
だって、俺には今考察出来る程の心の余裕が無いのだから。
(あいつはヤバい。)
俺は心の中の何処かで、最終手段として冥皇と今戦うということを入れていた。
しかし、本能で理解した。
冥皇には勝てない、そう心から実感した。
『キヨハラ様!ハヤマ様とオイラを連れてダンジョン内に転移して欲しいのさ!』
何故、と聞く余裕は無い。
クルトの言うことだ。
何かしら理由はあるのだろう。
《次元転移を発動します》
俺たちは、瞬時にダンジョン内に転移する。
「ほっほっほ、その転移スキルは厄介じゃのぉ。」
そう言いながら、冥皇は進行方向を変えてダンジョン内にいる俺達に向けて超高速で走ってくる。
「おいクルト、なんか手はないのかよ!」
『もう大丈夫なのさ。』
そう言うと、クルトは安心した様に俺の肩にちょこんと座った。
「お、おい、何が大丈夫なんだよクルト!まだ目の前に冥皇がいるじゃないか!」
冥皇はダンジョンの目の前まで来た時、いきなり急ブレーキをかけて止まった。
あの勢いから一気に止まる姿も、地球出身の俺からすれば物理法則に喧嘩売っている様にしか見えない。
「これは、困ったのぉ。」
冥皇は、ダンジョンの入り口でいきなりパントマイムを始めた。
まるで、ダンジョンの入り口に壁があるかの様に。
「冥皇の奴、何やってんだ?」
俺は、その意味不明な冥皇の行動にポカンとしてしまう。
『オイラが、ダンジョンの管理権を使って、冥皇がこのダンジョンに侵入することを禁止したのさ。』
クルトは、パントマイムを続ける冥皇を見つめながら話す。
『オイラは、キヨハラ様がいざって時にこのダンジョンで死なない様に、ミリエル様からこおダンジョンの管理権を預かっているのさ。その管理権を使って、冥皇、正確には冥皇の魂に付着しているスキルのエネルギーを進入禁止にしたのさ。』
「なるほど。つまり、俺達がダンジョン内に居る間は冥皇も手出し出来ないって認識でいいか?」
『問題無いのさ。』
クルトの説明を飲み込む余裕はあまり今無いが、冥皇が攻撃して来れないことさえが分かれば問題無い。
「よ、良かったぁ~~。」
葉山はへなへなと力なく膝から地面に膝をついた。
まあ、この時の葉山にとっては命の危険と対面するのは初めてだろうし、仕方がない。
そんなことを考えている俺だって、今も冷や汗が止まらないのだから。
だが、切り替えていくしかないだろう。
「二人共、想定外過ぎる事態が起きたが、俺達の方針は変わらない。強くなる、せめて冥皇に勝てるくらいには。」
『冥皇に勝てるくらいって、無茶なこというのさ。まあ、賛成なんだけどもさ。』
クルトも、俺の意見に肩から賛同の言葉を送ってくる。
「私も賛成だよ。クルト君から事情を聞いた時にはまだ私の現状を実感出来ていなかったけど、死の危機に直面して、私も覚悟を決めないとって思ったの。まあ、少し決断が遅いかもしれないけど。」
葉山も自嘲気味に頷いてくれる。
やっぱり、葉山は心が強いな。
訳も分からないこの状況でも前を向こうとしているんだから。
「じゃあ、一旦休憩したらダンジョンに潜るぞ。」
冥皇は諦めたのか、はたまた小紋のところへ向かったのか既に居なくなっていた。
登場も退場もあっけなかったな。
次あいつに出会う前までに、俺は強くならないといけない。
せめて葉山やクルト、一応小紋くらいを冥皇から守れるくらいには。
そして、今の俺には強くなる方法がある。
このダンジョンをループし続けるという方法が。
「まあ、今は休むか。」
冥皇の「マーキング」って言葉とか、冥皇に葉山達の洗脳を命令した奴についても考えないといけないな。
問題は山の様に出来てしまった。
だが、今は体を休めようか。
~あとがき~
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