第21話 駆け出し冒険者は電気羊を狩りに行く

 評価レベルが6にもなれば、受けられる依頼の幅も増える。


 今後旅をする事を考えれば、色んな場所や魔物と戦って経験を積むのは大切だろう。いくら熟練度やステータスが高くても、経験不足で不慣れな状況や未知の敵を前に実力を発揮できなければ意味がない。


 今回俺達がやってきたのは、エイブンの西に広がる魔物の森だ。まぁ、そんな名前の森はあっちこっちにあるそうだけど。


 少し遠いけど、野宿の練習をするつもりで受けた。


 不安だったけど、エイブン周辺は治安がいいし、魔物も弱いし、聖域の魔法もあったので、なんか普通のキャンプみたいだった。


 暗くなったら適当に人目につかなそうな場所を探して、焚火と携帯コンロを用意してキャンプ飯。虫だって、虫よけポーションを用意していたので困らなかった。毛皮のベッドロールを敷いて、二人並んで異世界の星空を眺めて、眠くなるまでロマンチックだね、なんてお喋りして。


 で、買っておいたテントに潜り込んで普通に寝た。むしろ、いい雰囲気になり過ぎて危うく一線を超えてしまいそうになった事の方が困った。俺も真白もそういう盛りなので、油断するとすぐにいい雰囲気になってしまう。そんな時はクラス2の白魔法の鎮静カームが役に立つ。


 これを唱えればどれだけムラムラしていても一発で賢者モードだ。俺なんか、毎日のようにお世話になっている。可愛い彼女と一つ屋根の下で暮らすのは、色々と苦労があるのである。


 今回の遠征の目的は、真白の要望である敷物をゲットする事だ。


 真白にはナイショにしていたんだが、実は俺はゴリゴンさんに頼んで裁縫スキルを授けて貰っていた。相変わらず怖かったけど、彼女の為に縫いぐるみを作れるようになりたいと相談したら、喜んで裁縫スキルの手解きをしてくれて、ゴリゴンさんの発明した魔法の縫いぐるみのレシピまで分けてくれた。ゴリゴンさんは口は悪いし顔も怖いけど、そんな事は気にならないくらいいい人なのである。


 まぁ、ゴリゴンさんの裁縫スキルは凄過ぎて、レシピを分けて貰っても作れるようになるのはかなり先になりそうだったけど。でも、ゴリゴンさんの気持ちを無駄にしたくないので、いつか絶対作れるようになりたい。


 ちょっと生産スキルが過剰な気もするが、年を取ったら冒険者稼業なんか続けていられないだろうし、将来の事を考えれば、それでいいような気もしている。


 別に勇者になって魔王と戦うわけじゃないのだ。

 異世界を旅して、降りかかる危険から真白の身を守れるだけの力があればそれでいい。


 依頼の内容は、魔物の森に生息する電気羊グルーチョの素材の納品だ。


 電気羊グルーチョ。羊モンスター。稲妻みたいな形の角がトレードマーク。黄金色の綺麗な羊毛は、擦り合わせると静電気が貯まりやすいぞ。外敵に襲われると身を寄せ合って発電し、貯めた電気を角から発射するので要注意。ロボットじゃないよ。Byモンスター図鑑。


 まぁ、そんな感じのモンスターである。電撃の魔法を使うので、その手の武具やマジックアイテムの材料になる。今この地域は夏の手前ぐらいの季節で、もう少しすると羊の毛が生え変わるらしい。


 羊狩りをするにはベストのタイミングという事で、依頼が出ていた。脅威レベルは6。こちらもガブリンのように、群れている事を前提とした数値で、単体なら1。身を寄せ合って強力な電撃を放つ以外は、ちょっと大きな羊程度の戦闘力だと聞いている。


 本当は裁縫スキルで可愛い柄のカーペットでも作ってやれればよかったんだけど、生憎習いたての裁縫スキルじゃ大した物は作れない。ただし、鍛冶でインゴットを作るように、素材を扱う事は出来る。普段野外で敷物として使っているベッドロールは毛皮製だ。同じような感じで、電気羊の毛を刈った後の皮を必要だけ頂いて、残りは納品してしまえば一石二鳥である。


「ナイスアイディアだよ。カーペットなんかより、絶対気持ちいいもん。床いっぱいに毛皮を敷き詰めちゃうなんて、お金持みたい」


 木々の間に身を隠し、遠巻きに電気羊の群れを観察しながら、真白が呟く。


「それだけの数を狩れればな。調子に乗ってキャンプ道具とか色々揃えちゃったし、結構納品しないと赤字だぞ」


 電気羊の素材の納品は、期間限定の常設クエスト。納品する品目や量は特に定められていないので、狩った分だけお金になる。変な時期に狩られてもしょうがないという事で、この時期に一気に狩るらしい。


「平気だよ。こいつらが相手なら三層を攻略する為に覚えたスキルが役に立ちそうだし。ていうか刹那も、そのつもりでこのクエスト選んだんでしょ?」

「まぁ、それもある」


 クールぶって俺は言った。今のは中々決まってたんじゃなかろうか?


 ガブリン窟は階層が下がるごとに出現するガブリンの種類が増える。二層ではアーチャーとソルジャー。三層ではそこに魔法使いのガブリンマジシャンとガブリンヒーラーが加わる。魔法を使う相手とはまだ戦った事がない。遠距離攻撃を使う相手も増えるという事で、三層にチャレンジする前に、もっと色んな経験を積み、ステータスやスキルを育てておきたかった。


 電気羊を相手にするのは、ガブリンマジシャンと戦う予行練習も兼ねている。


「魔法抵抗を取ったからって油断するなよ。電撃を受けたら麻痺して動けなくなる事もあるって話だし」


 魔法抵抗は文字通りのスキルだ。魔法によるダメージや各種デバフに対して抵抗力がつく。荒事をやるなら必須スキルと言っていいと思うけど……。こいつを上げるには他人の使った魔法を受けないといけない。


 幸い真白には魔法使いの彼氏がいるので、俺の魔法スキル上げも兼ねて、比較的無害なデバフ系の魔法で真白の魔法抵抗に関してはスキル上げをしている。俺も同じスキルを取っているけど、普段から真白がタゲを取ってくれているので、上げる機会はあまりなさそうだ。素のMAGが高いので、ある程度の抵抗力はあるが。


「そしたら刹那に治してもらうもん」

「だからなぁ……」

「そうじゃなくて。食らわないようにするけど、食らっちゃう事もあるでしょ? でも、あたしは刹那の事を信じてるから平気なの。刹那こそ、あたしは魔法使えないんだから気をつけてよね?」

「……そしたら、真白にポーションを飲ませて貰うさ」


 格好つけたけど、多分俺は耳まで赤くなっている。


 ポーションは便利なアイテムだ。ライフ、スタミナ、マナ、状態異常といった各種回復ポーションに、バフ系の強化ポーション。投げつけて使う爆発、氷結、酸ポーション。暗視、魔物避け、虫よけ、臭い消しのようなお役立ち系も充実している。


 不意のピンチで魔力が切れたり、猛攻を受けて魔法を妨害されるような状況もある。俺と真白が分断されて、回復やバフがかけられない時もあるだろう。そういった諸々を想定して、幾つか用心のポーションをインベントリーに忍ばせている。俺的には煙幕ポーションが頼もしい。これがあればピンチになっても逃げられる。


 本当、二層で死にかけた事で俺達はしっかり反省して勉強したのである。


 早い内にああいう目に会ったのは、長い目で見ればよかったのかもしれない。

 なんて、生き延びられたから言える言葉なのだろうけど。


 電気羊たちは、お互いに付かず離れずの距離を維持して、足元の葉っぱをむしゃむしゃしている。数はざっと三十ちょっと。


 俺達が欲しいのは毛を刈った後の皮だけだ。羊毛と角、余分な皮は納品してしまっていい。肉は納品クエストの指定外だけど、買い取っては貰えるだろう。ダメなら料理ギルドに持っていくだけだ。


「最低でも四匹は欲しいな」


 多分、それくらい狩らないと赤字になる。


「最大は?」

「七匹かな。それ以上はインベントリーに入らないだろ?」

「持って帰れれば、それ以上狩っちゃってもいいんだ?」

「出来るもんならな」

「ふっふっふ。羊ちゃん達には悪いけど、あたしの新兵器の実験台になって貰うだわさよ」


 真白が悪い顔をする。

 だわさって、なにキャラだよ。

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