第3話 役割分担

 折角の異世界転生だ。憧れの冒険者になってあちこち旅してみたい。

 俺も真白も気持ちは同じだ。


「問題は、スキル構成をどうするかだよな」


 剣と魔法のゲーム的ファンタジー世界である。当然魔物もいる事だろう。冒険者になるという事は、そういうのと戦うという事である。


 俺と真白は恋人同士。これから先、末永く二人でやっていく予定だ。

 だからまぁ。


「折角二人で転生したんだし、役割を分担した方がいいよね」


 以心伝心、真白が言った。


「その方が色々と都合はいいよな。真白を危険な目に合わせるわけにはいかないし、前衛は俺がやるよ。とりあえず、まずは無難に剣術スキルか?」

「ちょっと待ってよ! あたしも前衛やりたいし!」


 むぅ! と眉を寄せて、真白が異議を唱える。

 怒った顔も愛らしい……。なんて思ってる場合じゃない。


「ダメだって。女の真白に危ない真似させられるかよ」

「でたでた! 刹那はすぐそうやって男とか女とか言う!」

「だってそうだろ! 人間は、男の方が力も強くて頑丈に出来てんだ。なら、男の俺が前衛をやるのは当然だろ」

「それって地球の話でしょ? ステータスとかある世界で男も女もないし! ていうか、地球で生きてた頃だってあたしの方が力強かったし。あたし剣道部だし、刹那より前衛の適性あると思うけど?」

「うぐぐぐ……」


 それを言われると俺も辛い。真白は運動神経抜群で、スポーツ万能。部活も中学の頃から剣道をやっていて、かなりの腕前だ。


 対する俺は万年帰宅部の陰キャオタク。体力は勿論、前衛に役立ちそうな経歴なんか一つもない。……ていうか俺、そんなんでよく真白と付き合えたな。


「魔法使いとかやればいいじゃん。刹那だってそっちの方が好きでしょ?」

「それはそうだけど……」


 真白の言う通り、好みで言えば断然魔法使いだ。棒切れ振り回して泥臭く殴り合うよりも、華麗な魔法でド派手に戦いたい。


「じゃあいいじゃん。けってー!」

「ダメだって! 遊びじゃないんだぜ? 俺は……もう真白を死なせたくないんだよ!」

「あたしだってそうだよ! だから、適性のあるあたしが前衛やった方がいいんだよ。適材適所! 二人仲良く力を合わせて、ね? あたしってすぐ熱くなっちゃうし、心配性の刹那が後ろで指示したり魔法で援護してくれれば、色々安心でしょ?」

「そうだけどさぁ……」


 俺だって真白の言い分が正しいって事は分かってる。剣と魔法の危ない世界で生き抜く為には、お互いに得意な事をやった方がいい。でも俺、心配だよ! 真白は結構無鉄砲な所がある。前衛とか似合い過ぎて逆に危なくないか?


 そんな心配をする俺に、真白はキラキラと目を輝かせて、上目遣いでおねだり攻撃をしてくる。


「お願い、折角異世界転生したんだし、あたし、どーしても前衛やりたいの。ちゃんと刹那の指示を聞いて危なくないようにするから、ね?」


 そんな風に言われたら、ダメだなんて言えるはずない。

 可愛い彼女のお願いを叶えるのは、出来る彼氏の義務なのだ。


「わかったよ……俺もまぁ、魔法使いの方が好みだし」

「だよね。そんじゃ、ちゃちゃっとスキル覚えてこよっか」


 そういうわけで、俺達は取説を頼りに街に散った。


 †


「おかえり~。どうだった?」


 待ち合わせの場所に戻ってくると、上機嫌の真白が聞いた。


「呆気なかった。お金払っておでこに触られて、エイ! だぜ」

「どこもそんな感じだったね。なんか肩透かし。もうちょっと修行っぽい事するのかと思ってたのに」

「楽でいいけどな。真白はなに覚えたんだ?」

「とりあえず戦士ギルドの人のおススメで、剣術と解剖学と戦技かな。あと戦闘呼吸って奴」

「解剖学って、なんに使うんだよ……」


 物騒なスキルに、思わず顔をしかめる。


「生き物の身体の構造を理解して弱点を見極めたり、解体が楽になるんだって」

「マジか」


 名前の割には有能なスキルじゃないか。


「戦闘呼吸ってのは?」

「スタミナが回復してバテにくくなるんだって」

「あぁ。俺が覚えた魔力呼吸の戦士版みたいなもんか。俺はあと黒魔法と白魔法と魔法増幅ってのを覚えて来たぜ」

「黒魔法が攻撃で、白魔法が回復みたいな感じ?」

「そんな感じだったな」


 ジョブがないので両方覚えられるのはありがたい。その分、スキル上げは大変そうだが。真白を援護する為には、どちらも外せないスキルだろう。

 ちなみに、戦技というのは戦士系の技を使う為のスキルらしい。


「じゃあ次は装備だね」

「あんまり高くないといいけどな」


 インベントリーの中の硬貨を眺めて肩をすくめる。

 四つのスキルを覚えた事で、女神様から貰った軍資金は三割程減っていた。


 冒険者がどれくらい儲かるのか分からないし、今後の生活もあるので、出来るだけ節約しておきたいところである。






【黒木刹那・人間】


 ライフ 40

 マナ  60

 スタミナ40


 STR 4

 VIT 4

 DEX 6

 MAG 6

 AGI 5

 LUC 6


 スキル 黒魔法10/白魔法10/魔力呼吸10/魔法増幅10

 タレント ??? 


【天野真白・人間】


 ライフ 60

 マナ  40

 スタミナ60


 STR 6

 VIT 6

 DEX 4

 MAG 4

 AGI 5

 LUC 5


 スキル 剣術10/戦技10/戦闘呼吸10/解剖学10

 タレント ??? 

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