第7話「一人災害のリージア」


 ◇ ◇ ◇


 巨大な攻城矢が二十四発。酒場をぶっ貫く!!

 酒場の階段を歩いていた野盗。

 酒場の入口を封鎖していた野盗達。

 その胴体や頭部に、幅三十センチ大の風穴がこじ開く!

 内臓と鮮血で作られたクラッカーだ。

 音の代わりに悲鳴で、糸束の代わりに血と肉片が酒場を彩る。

「ヒェァアアアアアッ!」

 攻城矢が脅威的な力で、盗賊共を外へと引き抜く。

 一人なんて、勢い余って天高く打ち上げられた。

「……な、何だぁあああっ!?」

 首領が建物毎ひっくり返る衝撃に、腰を抜かして悲鳴をあげる。

「おいで、ナナマキさん」

 ぶっ壊された宿屋。天井が落っこちる衝撃が、村全体に響いた!

 砂塵が村の半分を覆い、木っ端や小物が振り注ぐ。

 視界が落ち着くのを待った。大した時間でもない。

 意外な事に、宿屋はまだ建っていた。

 東側の壁を除けば、全壊したが……。

 俺は滅びの光景を、地表から十メートルより見下ろす。

 ナナマキさんの頭部。騎乗席に座って。

「もう大丈夫。ナナマキさん。ありがとう」

「シュカカカッ」

「はははっ、そんなに殺したかった? ならさっさと殺っても良かったな」

 俺のお願いを聞いてくれた彼女に、労いの言葉をかける。

 俺を守り、盗賊共を皆殺しにする。

 それがナナマキさんへの、お願いだった。

 オマケに宿屋をぶっ壊したのは、ビックリしたけどな。

「愛してるよ。ナナマキさん」

「カカカッ!」

 勘違いされやすいが、ナナマキさんは協力者だ。

 俺の我が儘に協力要請は出来ても、強制は出来ない。

 命と金を賭ける事だけ、家族として協力し合っているだけだ。

 今回はナナマキさんも、コイツらを殺したがってて良かった。

「さぁって、ショータイムだ」

「シュカカカッ!!」

 村を見渡せば、大凡の現状が掴めた。

 倒壊した宿。ナナマキさんを見上げる、家の中の村人共。

 村の各所に生き残っている。見張りだろう野盗共。

 宿屋の廃墟から這い出る、元ライダー二名。

「ッチ……アイツら。ここで裏切るなら、お前らで手を汚せよ」

 奴らめ。俺が暴れる寸前、武器を捨てて伏せやがった。

 まぁ、ライダーのよしみだ。

 降伏するなら見逃してやろう。

「おっと、忘れちゃマズイな。ナナマキさん」

「カカカァ……」

 ナナマキさんが、倒壊した建物に巻き込まれている胴体を退ける。

 倒壊物が吹き飛ぶと、胴体の下には宿屋の親子。

 宿屋のおっさんは、フレンダちゃんに覆い被さって守っている。

 二人共、怪我は無さそうだ。

「オラァッ! 巻糞頭ァッ。出てこいやぁ!」

 咆哮が殺気と共に、村中を駆ける。

 同時にナナマキさんが、家屋さえ両断する刃渡りの剣尾を振り上げた。

 超重量が振り上げられる音は、意外にも鈍い。

 だが続く剣風は暴風よりも速く、酒場跡に叩き込まれる!

 響き渡る地響き。

 村が一瞬、地面から浮く程の脅威的な怪力!

 その地響きから逃げ出す野盗首領が、瓦礫から這い出て来た。

「ごほっ、ごほぉっ……そ、その怪獣。見覚えがあるぞ」

「お、生きてた生きてた」

「『一人災害ディザスター・ワン』」

 村中に散っていた生き残りも、野盗団の頭目の言葉に反応した。

「俺は『神殺し』の瞬間を見たぞ、本物なのか?」

「『導火線スパーク』ッ!? 死んだんじゃ」

「人類最大戦力が死ぬ筈がねェ……はは、本物のバケモノだ」

 次々に呼ばれる、俺達を指す忌名。

 指名手配書に書かれた、聞き飽きた二つ名ばかり。

「『国定殿堂騎手ウォー・ライダー』……リージアッ!」

 首領が、俺を呼ぶ。

 ソイツは死んじまいそうな位、震えていた。

 その無様さに、心の底から萎える。

 コイツだけは殺すつもりで居たが……ここまで無様だと、芸術点たけぇな。

「アンタみたいなのが、村に居るなんて聞いてねェ」

「何で俺のプライベートを、お前に教えなきゃいけねぇんだよ」

 お前らのパパなら、来世で探してくれ。

 手綱を絞る。ナナマキさんに、コイツの両足をへし折って貰おう。

 賞金首なら、金になるしな。

 殺すのはそれを確認してからだ。

「ま、待ってくれっ。何かのっ……ま、間違いなんだっ!」

「あん?」

「アンタが……そんなバケモノを連れてるなんてっ!! そう、知らなかったんだ!! 知ってたら襲わなかったっ!!」

「…………」

「そうだっ!! 金はあるっ。アジトには幾らでも……金はあるんだっ!!!」

「………………………」








 ふぅん。

「そうか。全部くれるのか?」

「あ、あぁっ! 何でも……くれてやるっ」

 何かペラペラ言ってたが、もう興味が無い。

 ただ俺の気は、変わった。

「フヘヘヘッ。それなら……」

 野盗共が村人に好き勝手したのは、村人より強かったからだよな?

 なら野盗共よりも強い俺達が……。

「お前を殺して、財宝もいただくわ」

 コイツらに好き勝手やらなきゃ、帳尻が合わねぇか。

 振り上げたナナマキさんの剣尾が、昼と夜の境を切り裂いて軌跡を残す。

 強引に突き破られた地盤が両断されて、二つに割れる。

 濛々と砂塵が舞い散る中、地面に鮮血の花が咲いた。

 もうそれっきりだ、興味はない。

 だがまだ、やる事はある。

「テメェらぁあっ!! 全員、怪獣釣りの餌肉に変えてやっから待ってろよぉ!!」

 雷鳴にも似た怒声が、ビリビリと大気を伝って響き渡る。

 村中に散っていた生き残りが悲鳴をあげた。

 逃がしはしない、俺は英雄ではないから。

 俺達は殺意ある暴走特急として、野盗の残党を探して村を練り歩く。

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