第5話 時に話を戻そう

 という事で、僕が転移能力に目覚めた切っ掛けは理解してくれただろ?


 この街にやって来て早々、僕らも魔王の襲撃に遭った。タイオウとミサキの力も借りて手短に襲撃を防ぐと、僕らは一躍ヒーローになった。けど魔王の襲撃は依然として続いているようで、そのために僕達はここに来ている訳。


 僕はキリコに話を割愛しつつ、ことのあらましをアンドロタイトの草原で伝えた。


「これまで何回こっちに来たの? あたしを置いて」


 キリコは怒りを隠さず尋ねると、ミサキが質問に答えた。


「五、六回ぐらい、その内の二回は私とイッサのデートみたいなものだった」

「殴るぞ?」


 と言いつつ、キリコは右拳を力強く握りしめていた。


「とにかく、話にも出た最寄り街に向かうぞ。時間もないし」


 現状の僕はとにかく時間がない。

 ここに来る前、母さんに見え透いた嘘をついて強引に来ているぐらいだし。

 すると僕の焦燥感に気づいたのか、タイオウが明るい表情で早速向かおうとしていた。


「賛成賛成、じゃあみんな行こう!」


 タイオウが駆け出したのを機に、僕達も駆け出し、時速二百キロの速度まで加速する。


「……ねぇ、イッサとデートって例えばどんなことしたの?」

「キスとか、手をつないだりとか、デートって言ってもモンスターの襲撃の合間のほんの一時の安らぎだったから」


 移動中、女子たちが独自のクラスタでやり取りしている。

 僕は彼女達の間ではどんな男に映っているのか、不安だった。


「お? 待ってたぞタイオウ!」


 街の入り口には町民が総出で僕達を待ち受けていた。

 その内の一人、タイオウと関係性を持った女戦士のリャンがタイオウに飛びつく。


「今日はまだ魔王の襲撃に遭ってない?」

「大丈夫、先日の襲撃以降は大きなものはなかった。それよりも、一発どう?」

「喜んで、じゃあ兄さん、俺ちょっと彼女としけこんで来るね」


 タイオウ……比較的、無法地帯のここだから出来ることであって。

 お前の行為は日本だとアウトだからなぁ、困ったもんだ。


「イッサさん」


 タイオウの問題行動に悩んでいると、この街の冒険者の一人が声を掛けて来た。


「今日はミサキさん、タイオウさんのみならず、新しい方を連れて来てくださったようですね、お名前とかお聞きしてもいいでしょうか?」


「彼女の名前はキリコ、怒ると怖いから気を付けよう」


 そう言うとキリコは耳ざとく僕達の話を聞いていて。


「ちょ、ちょっと! 誰が怒らせると怖いよ! 出鱈目吹き込まないでよデュラン!」


 ――だから、その名前は禁句だって。

 デュランの名を耳にした冒険者達が、あからさまに困惑している。


「デュラン? 今デュランと申されましたか?」

「そう、何を隠そうそこにいる彼は極黒の騎士団のリーダーのデュ!」


 キリコの口を急いでミサキが塞いだが……もしかして、もう手遅れだったりする?


「……あの、つい先日は小僧だとか、冷やかし野郎だとか言ってす、すみませんでした!」


 この街に最初やって来た時のアレか。


「それは確かにそうだ、人間を見掛けで判断するのは愚かなことだよ」

「このお詫びは、腹を掻っ捌いてッッ!」

「思考が過激すぎない? もっと穏やかにいこうよ」

「じゃあどうすれば、そうか、今度の魔王の襲撃の際に自爆魔法使って」

「君人生辛いの? 辛かったら話聞くけど?」


 とにかく、例え見え透いた嘘だろうと、ここは。


「僕はデュランじゃない、佐伯イッサだ。デュランは僕の憧れの人だから、見比べないで欲しい」

「ええと、りょ、了解? しました」


 わかってくれたようで何よりだ。


「イッサさんがデュラン様だとすると、ミサキさんは至高の召喚士であるイザベル様だとして、タイオウさんがイッサさんの弟だから電光石火のローグ様ってことか、じゃあキリコさんは誰なんだろう?」


 キーリーコー!! お前のせいで僕達の素性がバレバレだよ!


「それで? 魔王の襲撃って、そんな頻繁に遭ってるの?」


 キリコは正体がバレたことを埒外にして、早速指揮を執ろうとしていた。


「はい、これまでは襲撃の勢力も弱かったのですが、イッサさん達が来て以来目つけられてしまったみたいで、魔王の勢力も今はこの街を集中的に襲っている状況かと思います」


「街を捨てることは選択肢にないの?」


 キリコの言う通り、魔王の襲撃が集中しているのなら、いずれこの街は全滅する。

 僕達が四六時中入られればそうはならないけど、無理だもんな。


「キリコ、ちょっといいか」


 他に聞かれたくないことがあったため、キリコを近くに呼びよせ、小声で話した。


「ここは駅ビルから転移できる場所の最寄りの街だから、出来れば街としての機能は残しておきたいんだ。それに、いくら街の戦力が増強されたからって、魔王がそんなことを理由に戦力を集中させると思うか?」


 きっと、この街には何か隠されているんだよ。

 僕達にはわからない、何かが。

 例えばハルピュイアの隠し財宝のように。


 キリコにそのことを小声で伝えると、彼女は「誰か、地図頂戴」と、冒険者の一人に地図を持ってこさせた。


「この地図は正確なの?」

「10年以上前のものになりますが、概ね合ってるはずです」

「魔王の襲撃は決まって北西からなのよね?」

「え、ええ、襲撃のタイミングは偶発的ですが、北西からやって来ます」


 キリコはその情報を頼り、ポケットから赤ペンを取り出して地図の一部を〇で囲った。


「……ここ、この街の北西にある山の麓に偵察を出したいわ。誰か適任者いる?」


 モンスターが襲撃して来る北西部の山の麓か。

 モンスターの根城だったりするのか? 行ってみないことにはわからないけど。


「襲撃だ―!! 魔王軍の襲撃隊が来たぞー!!」


 敵さんは僕らの都合など考えてはくれない。

 しょうがない、僕達の正体がバレつつある今、あまり目立ちたくないけど!


「デュラン、私が雑兵を蹴散らすから、いつも通り、大将首を討ち取って来てね」

「キリコ、僕の名前はイッサだって言っているんだよ」

「はいはい、とりあえず――」


 キリコは聖なる闘気を纏うと、その場で中空に飛翔し、敵を前方に捉えた。


 彼女は聖なる闘気を増幅させ、まずは聖なる風で敵を足止めする。聖なる風に触れた敵の一部は、モンスター細胞が死滅し、灰と化す。キリコは残ったモンスターに向けて、持て余した聖なる闘気を無数の槍に変え、それをモンスターの群れに叩き込んだ。


「こりゃすげぇ! これは王族の中でも極一部の者にしか使えないとされる聖闘気じゃねぇか。とすると、キリコさんの正体は極黒の騎士団を公私共に支えたヒューグラント王国の姫君、ライア様か!」


 もう、僕達の正体はバレバレなんだな。

 先が思いやられる。


「デュラン! 大将首が逃げたわよ!」

「わざと逃したろキリコ! 後で説教でもしてやるからな!」


 魔王軍の大将首はキリコが言った通り、逃げ帰っていた。

 ここで逃すとさらなる被害に繋がりかねない。


 だから僕は目測を定め、精神を集中させ、魔法で造った得物を片手に。


っ!」


 二キロ先の敵に刹那の間で詰め寄り、敵の背中から刃を入れ一閃した。


「おおおお……極黒の騎士デュラン、その二つ名は彼が剣を振るった時に分かると言われているが、敵までの軸線が真っ黒に焦がされている。そういう意味だったのか」


 今回の件で、少なくとも僕達はこの街の人間に正体がバレてしまうんだろうな。

 時に話を戻すとしよう。


 僕はアンドロタイトに行く途中、二人の地球人から目を付けられている。一人は母さん、もう一人は担任の中嶋教諭。僕の正体がこの街の人間にバレタみたいに、二人にまで正体がバレるなんてことはないよな?


 そうなった時、僕はどうすればいいんだろうな。

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