第3話 帰ってくる話

「ったく、おせーな!来ないならこっちから行くぞ!」


イナさんはグッと足に力を込めると力強く床を蹴り、僕との距離を詰めてくる。


まずい!


考えろ、考えろ、考えろ!


基本的な戦闘力は僕が圧倒的に劣っている。


だから、純粋な戦いで勝つことは不可能。


でもたがらって、僕には奇襲出来るようなスキルも魔法も無い。


それなら…


「これしかな―」


イナさんは上半身を左に捻り、左から右へタオルを振る。


ドンっという鈍い音ともにイナさんの振るタオルが、僕に命中する。


タオル… だよな。


ただの布が鉄のような重さを生んでいる。


何て力だ。


いや、正確には力を上手く伝導させているって感じか。


流石、Sランク冒険者だ。


僕は呆気なく吹っ飛んだ。


「イナちゃん、やりすぎよ! アレンさん、大丈夫ですか!?」


流石にルリルも心配したようで僕に駆け寄ってくる。


「大丈夫… 直に命中した訳じゃないから」


僕はイナさんの攻撃を何とか模擬刀で受けることが出来たようだ。


ヒビの入った模擬刀を眺めながら上体を起こす僕を見て、ルリルは驚きの声を上げる。


「凄い!あの速度のイナちゃんの初撃を受けれる人久しぶりに見た!」


ルリルは僕の手を握り目を輝かせてそういった。


「てめぇ…… こりゃどういう事だ?」


一方で、ルリルとは対象的にイナさんは眉間に皺を寄せ訝しむような目付きで僕を見る。


「一目でアタシの動きを見切ったってのか?」


「いいえ、僕なんかにそんなこと出来ませんし、見切ったとしても僕のひ弱な体ではとてもイナさんの速度には追いつけません」


「あぁ? じゃあなんでアタシの攻撃を受け止めてんだよ?」


イナさんはズンズンと僕の目の前まで迫ってくる。


「だから…… その、予測したんです」


「は?」


イナさんは少し顎を突き出し視線を上にあげて考える。


「そりゃ、どういうことだ? まさか初対面のアタシの攻撃パターンを予測したってことか?」


僕は無言で頷く。


ルリルや周りにいたメイド達もみなザワザワとし始める。


「正確にはこの状況におけるイナさんの初撃の最終到達地点がどこになるかを予測したんです」


「そうなると、てめぇはアタシが動く前からその模擬刀をどこに持っていけばいいか予測してたわけだ。そして予測が出来ていたからアタシの手に触れることも出来たと」


イナさんは顎を触りながらそう呟く。


「え、そうなの!?」


ルリルは嬉しそうな声を上げる。


「はい。イナさんの性格的に圧倒的な力の差を見せつけようとすると思ったので、一撃で決めようとするかなと考えました。そしてイナさんの体型的に体を捻じる動きをするかなと、そして動く瞬間僕の腹部に意識がいったように見えた気がしたので、急所であるみぞおちにくるかなって。だとするとそこら辺で手に触れると思って………… あれ?」


何か変なことでも言ってしまったのだろうか。


みんな口を開けて呆然としている。


するとイナさんが僕の肩にポンッと手を乗せて


「お前……… 何かキモイな」


と言われた。


しかしその後すぐにイナさんは少しだけ口角をあげ


「だが、おもしれぇ。戦いの中で相手の性格診断するやつなんて見たことねぇ」


イナさんは僕の手を取って立たせてくれた。


良かった! 僕を認めてくれたみたいだ。


ホッとしたような様子の僕を見てイナさんは笑顔で


「まぁ、でもウチでやるには力不足だ。帰んな」


と言って、ポンポンと肩を叩いた。










「え!ちょっとイナちゃんどうして?」


ルリルはイナさんの腕を掴み問いただす。


「あのなぁ、アレンとか言ったっけ、確かにこいつの才能は目を見張るものがある。けどなぁ―」


イナさんは鋭い目付きで僕を見つめる。


「お前、基礎が全くなってねぇんだよ」


僕の心臓がドキッと跳ね上がる。


「まず剣の持ち方からしてなってねぇ、吹っ飛ばされた時の受け身も未熟だ。アタシは魔力のことはよくわかんねぇが、相手が鍛錬をしているかどうかすぐにわかる。てめぇは戦闘を舐めてる。大方、魔力やスキルの無い自分には戦闘は無理だからと諦めて、基礎訓練を怠ったんだろう。そんな奴がSランクでやっていける訳がない。無駄死にするだけだ。帰んな!」


イナさんはクルッと僕に背を向けると、そのまま無言で歩き始める。


僕は俯いて、ただ黙ることしか出来なかった。


「でも、アレンさんはイナちゃんの手に触ることが出来たんでしょ!?」


ルリルの問いかけにイナは振り返ることなく答える。


「うるさいぞルリル。ウチのパーティーの決定権は姉さんにあるが、姉さんも基礎のできてない奴を採用するほど生易しい人じゃないだろ。姉さんもアタシと同じ結論を出すさ」


「そんな……」


僕は俯くルリルの肩に手を当てる。


「僕は大丈夫だよルリル。そもそも僕みたなスキルも魔力もないやつが、Sランクの人達とやってくなんてありえない話だよ。キミが僕を評価してくれただけでも十分さ。それにイナさんの言っていたことも本当のことなんだ。僕は自分が魔力もスキルもないことを理由に、基礎訓練から逃げたんだ。冒険者失格さ」


そう言って僕はメイドやイナさんの方に向けて頭を下げると、出口の方へ向かった。


大人しく1から出直そう。


といっても魔力もスキルもない僕は誰かと組めるのだろうか…


「僕はもう冒険者できないのかな……」


僕はそう呟き扉の方向に視線を向ける。









「あれ、開いてる」


僕が入る時に閉めたはずの扉が空いていた。


そして


「誰が、お前さんと同じ結論を出すって? イナちゃ〜ん」


その声はイナさんのいる方向から聞こえる。


振り返るとそこにはイナさんの頭に手を乗せるエルフのお姉さんの姿があった。


「あ、姉さん!いつの間に!?」


「お姉様!」


エルフのお姉さんはイナさんやルリルに満面の笑みで手を振る。


メイド達は急いで列を作り深々と頭を下げる。


それは僕やイナさん、ルリルの時とは比べ物にならないほどに深く深く。


イナさんやルリルは少し発汗し、唾を飲み込む。


一瞬で屋敷全体に緊張が走る。


数十メートル離れている僕でも感じる、圧倒的なオーラ。


外に漏れ出す魔力だけで屋敷の床や壁がギシギシと軋んでいる。


「次元が違う……」


無意識のうちに僕の口からそんな言葉が零れていた。


「やっほ〜、今日は珍しくその日のうちに帰ってこれたんだよね〜。そしたら何か面白そうなことになってんじゃん☆」


エルフのお姉さんは笑顔を崩さずそう言った。


<あとがき>

できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!


すいません!次回は水曜日になりそうですorz


投稿時間は20時です!


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