第33話 予言クラッシュ

 さて、どうしたものかな。

 ボク、とっくにおばあさまの予言、ぶち壊しちゃったんですよね。

 また君臨者を狩って回ればオール200目指せるけどさ。わたしにそんな気ないの、言わずもがなだよね。

 もうひとりの守護者だかはどうなんでしょう?

 よし。

 わからない事があったらアカレコりましょー。

 ボクは意識を越次元させて、あれこれキーワードを組み替え組み替え……ほしい情報が来るように計算する。

 ホントだ。前にわたしが言った通りだよ。

 ね? これ、結構めんどくさいんですよ?

 でもまあ、答えはすぐに出たよ。

 もうひとりの守護者……ブレイブ・ジャスティスはすでにステータスがオール200に達している。

 こちらの状況はわかってないらしいけど、やる気満々ですね。

 ふーむ。

 ボクもう、予言とか興味ないんですけどね。

 何なら殺されて喰われても構わない。

 それはそれで、面白いし、何よりラクだし。

 でもまあ、今やこの身体は一人だけどレイだけのものでは無いし。

 あっちは殺る気満々だし。

 とりあえず、殺り合うしか無いみたいだ。

 そんなわけで、演算中……演算中……。

 なるほどなるほど。おばあさまは、こうして未来を予知していたわけだね。

 …………ふむ。

 ブレイブは、首都郊外の街道に来るみたいね。

 っていうかここ、ボクが転移した地点じゃないか。

 ……ははぁ。

 ブレイブも同じようにボクにまつわる因果律を演算して、未来を見たのか。

 ボクがなんとなーく、あのスタート地点を思い浮かべた思考。彼はそれをキャッチした。

 で、ブレイブはとりあえずそこに手がかりを求める……ってのをボクが予知した結果がコレですね。

 

 ホント、何でもわかるね。知力:200。

 でも、その知力に溺れてしまえばろくな事にならないだろうね。

 いや、溺れた連中からすれば、ろくな事なんでしょうけど?

 レイもエルシィも、真理とかわけわかんないこと、最初から興味ないですから。

 必要な情報だけが得られればいい。

 どんどん、エルシィのことがきたよ。

 ボクの中で処理しきれなかったわたしの情報が順調に流れてきている。

 ああ、最近の生理がいつだったのかとかも思い出してきた。

 ぇ……ちょっ、

 はいはい、新作武器作るのが特にめんどくさそーな顔してた時期と大体符合してるね!

 レイさん、最っ低!

 本当に最低だな! ボクはレイに憤りを覚えた。

 でもまあ、何もかも一緒になったんだし、いい加減割り切ろうよ。

 隠したくても隠せないんだもん。

 フィクションとかで二人の人間が合体って話はそれなりに見てきたけどさ。リアルにそれするってことは、こう言う事だよ。プライバシーゼロ。

 そうですね。レイさんがエルシィのこと、割と前から嫌いでなかったこととか、丸わかりですし。

 そうそう。

 早いとこ、この生活様式に慣れよう。

 

 あれから何年も経ってないはずだけど。

 この景色、懐かしいな。

 それなりに原始的で、それなりに文明的な、緑と茶色の世界。蒼穹の空。

 でも、つぶさに見ると、緑と茶色にも濃淡様々だなって思う。

 そして。

 前方から、一人の男が歩いてきた。

 ブレイブ・ジャスティス。

 これからボクと喰い合う事になる、宿命のオトコ。

 さて、どんな奴だろうーー。

 

 あっ。

 遅いよエルシィ。

 今さら、彼がボクをエルシィに送り届けた時の記憶が流れ込んで来た。

 

「あんた、は」

 ボクに割りと似た顔立ち、髪型の。

 地球でボクを撃ち、ボクと一緒に死んだはずの。

 そうだ。

 どうして、その可能性に思い至らなかったのか。

 ブレイブは、ボクに手をかざすと【分析】のような魔法光を放ってきた。

 いや、これはボクを読むものではない。

 ボクに、読ませる情報だった!

 

 ぁ、ぁぁ……。

 ボクは、ブレイブ・ジャスティス……いや、レイMARK Ⅱのこれまでの経緯全てを余さず受け取った。

 こんなにも。

 こんなにも、求められていた……。

 あの地球で、ボクと“同じもの”を背負った人が。

 やっぱり、見間違いじゃなかった。

 あの時、SATとして現れた彼は、確かにボクに笑いかけてくれたんだ!

 ボクは、地球では独りだと思っていた。

 けど、違ったんだ!

 そんな事に、今さら気づくなんて……。

 ボクもまた、彼と同じ要領で、自分のこれまでの情報全てを圧縮したそれを放った。

 そして。

 ボクたちはお互いに駆け寄り、力一杯ハグをした!

「ずっと、探してくれてたんだね……」

「当たり前さ! キミは、キミだけがボクだったんだ! 地球にいた時から、ずっと、ずっと……!」

 ああ……そして客観的に見ると、なんてキレイなんだろう!

 これが、これこそが男性同士の真なる愛ボーイズラブ

 エルシィとしてのボクが、新たな境地に目覚めたのをひしひしと感じる。

 どうやらエルシィには腐女子の素養が高かったようだ。そう、無限の可能性を秘めたこの概念こそ、わたしの真理なのかもしれません!

 もっと、もっと識らねば!

 ボクのエルシィ的な部分が、これまでを遥かに凌ぐ超常的な処理速度でボクとMARK Ⅱにまつわる様々な“可能性世界”を構築してゆく。

 スキルで言えば【腐女子 レベル7/10】相当はあるか?

 良い感性だ。

 まだまだ発展途上だがな。ピィン!(格の違うオーラを見せる音)

 いや、凄いな。

 今、妄想の中の登場人物がさ、ボクとMARK Ⅱだけじゃ飽きたらずフョードルにレヴァンやロレンツォ、ンバイまで勢揃いしだしたんだけどさ。

 よくこの組み合わせで、これだけ膨大な量の話が妄想出来るな。しかもこの間、一秒足らず。

 特にンバイの存在感ハンパない。ろくに接点なかったろ。ボクもわたしも。

 どんなアタマしてたら、こんな芸当が可能になるんだ。

 いや、今はボクのアタマなのかこれ……。

 ……。

 ああ、それはそれとして。

 離れがたい。

 このままずっと、抱き合っていたい。

 けれど。

「ごめんよ、ボクMARK Ⅱ」

 名残惜しいけど。

 後ろ髪引かれるけど。

 ボクは、ただ喰われるわけにはいかなくなった。

「……エルテレシアって、そんなにいいわけ?」

 MARK Ⅱが、少し不服そうに言いつつも、間合いを離す。

「邪魔、とは言わないよね?」

「とんでもない! 他ならぬキミボクの選択だ。今の自分が理解できないからと言って全否定とか、知力:200の生き物のすることじゃないでしょ」

 そうそう。

 否定から入ってちゃ、何も進歩は無いからね。

「わかったよ。ボクも大人しく殺られるわけにはいかない。キミを完全に識るには、もう口頭や魔法では不可能。

 喰って直接“同じ”になるしかない。

 だからキミを一旦殺して一つになって、存分にエルテレシアを理解させてもらうよ」

 これじゃ、どっちが勝っても結末は同じ。

 無意味な決戦の口火が切られる。

 そして。

「よし、せっかくだから、これでも喰らってよ」

 出し抜けに手をかざしたMARK Ⅱ

 何らかの魔法が、情景に大きな波紋を浮かべる。

 流石に反応が遅れた。後悔はないけど、フョードルを失ったダメージは、事実として大きい。

 ボクの身体は微動だにしていない。

 なのに、景色が物凄い勢いで過ぎ去ってゆく。

 新幹線の車窓から、外を見るような感じかな?

「【タイム・リープ】」

 

 そして。

 ボクわたしはレイとエルシィが初めて出会った場所にいた。

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