第31話 エルシィの過去を思い出すボク

 わたしはずっと“難しい子”だと言われてきました。

 魔法……とくに、錬金術に関して、年齢からすると結構才能があるそうです。

 けど。

 それってエルダーエルフとしては、いけないこと、だったらしいです。

 現世の知識は、真理を探すための道具。

 もしくは“旅立つ”準備のための道具。

 現世にしばられて真理に目がいかないのって、ヘンっていうか……知力が140以上あるのに“こう”なのって、心の障がいなんだそうです。

 統計的にわたしみたいな子って、錬金術が得意な傾向にあるそうです。

 物質界への執着が過剰である表れ、だそうです。

 わたしには、体感的にどういうことなのか、わかりませんが。

 

 地元では、別に何もいわれませんでした。

 いじめられることもありませんでした。

 無視もされません。

 エルダーエルフが、そんなことに意義を見いだすことはありませんから。

 けど。

 会話もふつうに成立するのに、生きてる次元がちがうんです。

 誰もわたしをいらない子あつかいしない。

 けど、決定的な断絶がたしかにある。

 ……こんなこと言っちゃいけないかもしれませんけど、

 いじめられてたほうが、マシだったのかもしれません。

 

 あなたボクが逮捕されたあと、わたしは、実家に引き返しました。

 とにかく、何かしなきゃ。

 おばあさまが関わってるのなら、何かしらの話をきいて、そこから、あなたボクを助ける手だてを考えなきゃって思いました。

 おばあさまは、ミリアさんにたのまれて“均衡の守護者”をこちらの世界へ呼ぶことに協力していました。

 だから、あの予言があったのです。

 そして、予言には続きがありました。

 均衡の守護者はあなたボクだけではなく、もうひとりいる。

 そして、その人とあなたボクは、共に全ステータスが200になったときにお互いを食い合うための戦いをする。

 勝利のカギは“邪聖剣”。

 ミリアさんの目的は、均衡の守護者、および、邪神の出現によるこの世界の変革。そこから、真理への糸口を模索すること。

 それがどうして、二人よばれたのかは、わかりませんけれど。

 ただ、おばあさまには、さしたる目的はなくて、友だちの頼みをきいただけでした。

「まあ、大方、種族限界の法則から外れた存在を作り出すことで、摂理に歪みを生じさせて、そこから真理を探すってとこかねぇ。

 でも、わからない。あの娘は案外と、ロマンチックなところがあったからねぇ」

 だから、ミリアさんがどんなことを考えているのかも特には詮索しなかったそうで、これ以上のことはわかりません。

「もう、やり残したことはない。私は、普通のやり方で“旅立つ”事にするよ」

 そしておばあさまは、エルダーエルフの法にのっとって、わたしにすべての知識を相続させました。

「エルテレシア。私にとっては、お前は大事な孫だったよ」

 どんな風に生まれたとしても。

 心の中でそう続けたであろうことは、嫌でもわかりました。

 お父さんと、お母さんは、早くに“旅立って”しまいました。ふたり連れだって、わたしを置いて。

 わたしにも、おばあさまにも、知識を相続させないまま。

 

 エルダーエルフにとって200ぽっちの知力にしばられるこの現世は、人生の本番ではないのです。

 この、大陸がドンとひとつあるだけな、ちっぽけな世界。

 別次元には無数の星があるけれど、それすらもちっぽけな箱庭世界。

 おばあさまの知識を相続した瞬間、それがわかってしまいました。

 けれど。

 おばあさまの知識を相続すれば、わたしもエルダーエルフらしく考えられるようになるって、

 期待していたのに。

 わたし、

 ちっぽけでも、ショボくても、やっぱりこの世界、好きなんです。

 もう、それを変えることはできない。

 おばあさまの知識を受け継いで、限界まで知力をもらって、それを悟らされました。

 

 ……大地の営みって、なに?

 真理って、なに?

 エルダーエルフらしさって、なに?

 そんなの、わからないよ!?

 わたしの、何がいけなかったの!?

 一生懸命勉強して、おばあさまのものまで借りて、知ろうとしたよ!?

 明らかに何かがいけないって、みんな思ってるくせに「本当にすまない、エルテレシア。うまく言葉にできないけど、君は“違う”んだよ」

 それだけ一方的に宣告されて、あとは放置。

 みんな、別に義理も義務もないですけれど。

 

 あなたボクに賭けよう。

 そう、思いました。

 レイさんが均衡の守護者となって、この世界を変えてくれたなら。

 どう変わるのかも具体的にぜんぜんわからないけど。

 それでもあなたボクに存在を食べてもらって、いっしょにそれを見届けられたなら、わたしが生まれた意味もあったのかなって。

 それに、レイさんじゃ、ほかのエルダーエルフに挑んだら殺されてしまう。

 けど。

 まさか、わたしキミあなたボクを食べさせるようなことするなんて、予想外でしたけど、ほんと。

 こればかりは意味わかんなかったけど、レイさんの頼みって、いちいち疑問はさんでたらキリないし、結局鵜呑みにするしかないんですよ。

 でも。

 うれしかったです。

 最後の最後で、こんな、あなたボクが絶対にしなさそうなサプライズ、くらわされて。


 知ってました? わたしを“エルシィ”の愛称でよび続けてくれたの、あなたボクだけだったって。

 ……だまって聞いてくれてありがとう。

 ……自分自身に“ありがとう”とか、おかしいけどね。

 やっぱり二人が一人になるって、混乱しますね。

 これから、慣れていかなきゃ。

 けど、ボクはエルシィに自分を食わせた事が正しかったと確信したよ。

 パッと見すげーわかりにくかったけど、ボクらって“同じ”だったんだ。

 で、まああの森での出会いからこの世界一周までを通して、ずっと“同じ”ものを見てきて、薄々それに気付きかけてた。

 ボクも同じだよ。

 エルシィは、レイが素で生きてる事を一度も。肯定もしなかったし、物事によっては呆れてはいたけれど。

 それって、地球では凄い重要な事だったんだよ。

 それはボクにとって、生存に関わる問題だった。

 皆と“同じ”になろうとすればするほど、ボクは道から逸れていった。

 調和を求めれば求めるほど一番異常な奴になっていったのは、まあ皮肉だよね。

 外ヅラを誤魔化すのは比較的ラクだったけど、その化けの皮もいつ剥がれるかと考えるうち……何もかも面倒になった。

 そして、半ばヤケになって、ヒトをミンチにしてみようという“形から入った行動”に走った。

 わかってたよ。

 地球がボクに適合してなかったなんて、バカな事を本気で信じきれていなかった。

 ボクは社会通念上、いてはいけない奴だ。

 エルシィのトコでだけ、レイは生きていても赦されてたんだ、と。

 

 エルダーエルフになれなかったエルダーエルフ。

 人間になれなかった人間。

 出会いこそ偶然だったけれど、

 

 わたしボクたちは、なるべくして“一緒”になった。

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