第4話 ボクのスキル

 さて、改めてステータスウインドウをスクロールして行こう。

 と言うかこのエルダー・エルフ製の仮想情報端末ウインドウの感度、かなりイイよ。

 ボクの思考にダイレクトに連動して動き、なおかつ、ボクがその瞬間その瞬間で遮りたくない物は的確に避けてくれる。

 素晴らしく直感的な操作感だ。

 程なくして、ボクが一菱いちりょうの人間として持って生まれたと言う“スキル”の欄に辿り着いた。

 

【狂気:10(10)】【我儘:10(10)】

【チェーンソー:3(10)】【自動翻訳】

 

 さて、気になるものから“神”に質問しよう。

「【チェーンソー】って何」

《文字通りだよ。チェーンソーを使いこなす技能。

 キミ、死ぬ瞬間に持ってたでしょ? チェーンソー。

 遺品としてかは知らないけど、キミと一緒に転移しちゃったんだよ》

 ああ、あれか。

 当座の武器にはなるだろうけど、充電式なんだよねあれ。

 ハイファンタジー世界では電源も望めないだろうし、バッテリー切れになった時点でただの重たいノコギリだ。

 それでなくても、オイルがないと焼き付いてダメになるし。

 これは初期装備と割り切って、途中で捨てるしかないかな。

 スウェーデン製の有効切断長さ50センチの高級品で、20万円以上もしたんだけどね。

 レベル3/10って言うのも微妙だし。

《そりゃあキミ、林業やってたわけでもなし、チェーンソーをまともに触るのも初めてだったろ?

 地球では、チェーンソーで彫刻するヒトも居るし、それくらい極めていれば10レベル評価になってたんじゃないかな》

 まあ、そもそもチェーンソーにそこまで思い入れも無いし。どうでも良いや。

 次。

「【自動翻訳】って何」

《ヒトとの会話や文字を、自動的に母国語に変換してくれるパッシブスキル。オンオフ切り替え可。

 ちなみにこれも、エルダー・エルフ作》

 何か、触りを聞いただけでも何でもアリだね、超越種エルダーエルフ。

 しかしまあ、これは必要不可欠なスキルだろう。

 初期スキルに入っている事に温情を感じる。

 次。

「【我が儘】と言うのは?」

《それはキミの生前の特質がスキル化したものなんだけど……正直、未知数》

「ここへ来て、それは無いんじゃない?」

《ファジーすぎるんだよ。キミ自身がそれと向き合って、何らかの“魔法的理論”を定義するしかない》

「よくわからないね」

《話の流れで説明しそびれてたんだけど、そもそも“スキル”と言うのは、突き詰めれば恒久的な補助魔法の一種だ。

 そして更にそもそも、一菱における魔法と言うのは“ヒトの思考が実体化したもの”である。

 例えばキミ達が炎を想像した所で、普通、現実にその炎は発生しない。

 しかし“思考”と言う世界に、それは確かに生じている。

 この“現実”と“思考”の垣根を取り外すことで、思考した炎を現実に持ち込む。

 これが、魔法の基本的な構造だ》

「だから“ファジーな思考”では、魔法になり得ない」

《正解。

 炎と言う明確な目的があってでさえ、その原理を論理的に・あるいは体感的に理解しなければ発せられない。

 “我が儘”だなんて曖昧な概念は、何らかの形で実体を得ないと魔法にしようがない。

 相手が首を縦に振るまで解放しない能力だとか、欲しいものを片っ端から奪う能力だとか》

「原則、魔法は自分で作れって事かな」

《その通り。

 エルダー以下の知性が足りない種族だと“ファイアストーム”だの“タイダルウエイブ”だの、何処かの誰かが定義した出来合いの魔法思考オープンソースを使い回す程度の発想しか浮かばないけど、現代人として一菱を俯瞰出来るキミならアイデア次第で無限大に魔法を作り出せるだろう》

 なるほど。

 そう考えると、スキルに分類できない、元地球人としての感性こそが一番のアドバンテージなのかも知れないね。

《ただまあ、その【我が儘】だけど、切り札になる魔法にした方が良いかもね。

 最初からレベル10マックスって事は、魔法の威力・規模に必要な“思考強さ”も相当のものだろうから》

「忠告は受け取っておくよ」

 ともあれ、これで全部かな。

 【自動翻訳】以外は、あまり使いでが無さそうだ。

《まあ、これだけじゃ可哀想だし、ボクからプレゼントがある。

 さっき言った“下等種族御用達の出来合い魔法”のソースコードを3つだけ、脳みそにぶちこんであげるよ》

 訳:初級魔法を3つあげるよ。

 ってとこか。

 と言うか、しれっとエルダー以下四種族の事を“下等種族”って言っちゃったよ。酷いな。

《ウインドウから、一菱の世界についてのTipsに飛べるから、そこから軽くお勉強がてら考えてみてよ》

 促されるまま、ボクは従った。

 考えるまでもなく、まず欲しいのは回復魔法だろう。

《それなら【緩慢な治癒スロウ・ヒール】になるかな?》

 すぐさま、ウインドウから一菱的Googleアカシックレコードにアクセスし、魔法的に検索しググった。

 【緩慢な治癒スロウ・ヒール】の概要がヒット。

 効果は……名前の通りだ。程度の大小にもよるけど、例えばそこそこの切創が完治するまでに一時間はかかると言う。

 もげた腕の場合は、丸一日でくっつくかどうか。

 これでは、戦闘中の即効性を求めるのは絶望的だ。

 せいぜい「宿屋で泊まれば全回復出来る権利」とでも言うべきか。

 まあ、無いよりはマシだけども……。

 万が一、五体のどこかが欠損しても復元する目があるのは大きい。

《所詮、人間族のキミの知力では、そんなものだよ。

 呪文一言でスッキリ全快、だなんて芸当はエルダー・エルフくらいしか出来ない》

 エルダー、エルダー、またエルダー。

 上等な魔法の話になると、二言目にはエルダーの種族名だ。

 虫酸が走るね。

 ポジティブに考えれば、これも“均一”な事象なので、それだけがせめてめの慰めではあるけれど。

 とにかく、次。

「ヒトの“ステータス”が“ハビエル法”によって数値化出来ると言うことは、他人のそれを参照する魔法もあるはずだよね?」

《飲みこみが早くて助かる》

「こう言う初めての事を習得する時って、理屈はわかんないけどそんなもん、と思った方がかえってうまく行く事もあるからね。

 スマホとか冷蔵庫とか、仕組みを知らなくても使いこなせるわけだし」

《良い割り切り方だ。とにかく【分析アナライズ】と言うそのまんまな魔法がある。これで良いよね?》

「いいよ」

 勘違いしてほしくないけど、ボクは「この世の全てを均す」使命のもとに生まれてきたのであって、快楽殺人犯や戦闘狂の類では無い。

 手段にすぎない“殺し”に対して矜持だとか悦楽だとか、そんなものは一切持ち合わせていない。

 使命の為に慎重に最善手を打つだけであり、それには相手のステータスを掌握するのは必須になるだろう。

《けど気をつけてね。この魔法でスキャンされると、魔法的な副次光と生暖かい感じが相手に伝わる。

 最低限度知恵のある相手には【分析アナライズ】だとすぐに察知される。

 同意無しにステータスを覗き見する行為は、あの世界ではすでに刃物を突き付けたのと同じだからね》

 言われるまでもない。

 基本的には、奇襲だとかの直前に使う事になるだろう。

 そして、最後は……ちょっと思い付かないから、アカシックレコードを適当に斜め読みしてみた。

 ……。

 ……。

 ……、…………。

 あっ。

 一つの記事が目に留まった。

 気象操作士。

 一菱において天候とは、魔法で管理されるもの。

 その為の降雨や快晴祈願をするお仕事が、この気象操作士らしい。

 となると“雨乞い”の魔法くらいは普通にあるはずだ。

《あるね。文字通り【降雨】と言う魔法名タイトルで流通しているよ》

 今さら“神”も「そんなんで良いの?」などと無粋な事は訊いてこなかった。

 とにかく、初期魔法三種が決まった。

緩慢な治癒スロウ・ヒール

分析アナライズ

【降雨】

 恐らく、これだけあれば、さしあたりボクのやりたい事は揃う。

 後は、直に魔法を経験した上で、自作していくのみだろう。

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