第22話 恋敵襲来!?

「マジか……!?」


 二階のワンフロア──そこにはとても近代的なトレーニング設備がそろっていた。ランニングマシンみたいな動力を必要とするものはないし、見た目も少し形が違ったりするけれど、色んな部位が鍛えられる器具が並んでいて驚く。


 どんな世界観なんだ? 中世ヨーロッパ風な建物の中に筋トレマシン……。なんか、異世界の雰囲気にミスマッチしてんだけど。


 まてよ。これって、もしかして……。


「おや、君」


 驚きながら覗いていると声をかけられた。筋骨隆々の黒光りしたマッスルボディーなお姉さんだった。


「見ない顔だね。新人のハンター君かな?」

「そうです」

「そうか。ようこそ、我がアイアンジムへ! 私はここの責任者兼トレーナーのアビーだ。よろしく!」


 握手を求められて手を出すと、めっちゃ力強く握り返された。すごい馬鹿力。


「ジムを利用したいなら、ここに名前と入退室の時間を書いてくれ。時計はそこにある」


 柱時計を指差す。


「ハンターカードを提示してくれれば、使用できるからね」

「わかりました」

「それにしても君、新人にしてはなかなかに良い身体つきだね」


 アビーさんが少し身を引いて、俺の全身を眺める。


「ちょっと触ってもいいか?」

「え? ど、どうぞ」

「ほう……。ふむ。これは……」


 肩とか腕とか太腿とかを触りながら、アビーさんが感心したような声を漏らす。


「君……、剣の心得がありますね? おそらく剣士、ではありませんか?」

「え!? まぁ、そうですね」


 中学から剣道やってるから剣士……と言っても差し支えないのかな。


 そう思いつつ答えた。


 にしても、身体を触っただけで分かるなんてすごいな。口調も心なしか杉下右京さんのようだ……。


 戸惑う俺に向かって、アビーさんが笑顔で親指を立てる。


「バランスの良い筋肉だ! ここで鍛えて、ますますレベルアップしてくれたまえ! 君もトレーニー仲間になろう!」

「は、はあ……」


 どうしよう。時間もあるし、ちょっとだけ筋トレしていくか。


「なら、さっそく使わせてもらおうかな」

「もちろんだ! 今日は私が空いているから、このアイアン・アビーが直々に指導してあげよう! さ、限界まで追い込もう! 今日も楽しく、オールアウト!」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 そして1時間後……。


 アビーさんに足腰立たなくなるまで笑顔でしごかれて(←メチャクチャ怖かった)、俺は膝ガクガクでジムを後にした。


 明日、全身筋肉痛かも……。次はこの人が暇してない時に来よう。


 一階に戻ると、オリヴィアさんたちの姿はもういなかった。


「君」


 中庭に出たところで声をかけられる。銀色の長髪に青い眼の青年だった。腰に短剣を帯びているから、恐らくハンターだろう。


「あなたは……?」

「ボクはジャイル。ジャイル・グラミング。よろしく……」


 笑みを浮かべて手を差し出される。まるで女性向け恋愛ゲームのキャラに出てきそうなイケメンって感じの人だ。


「シン・スサノです」


 握手しながら答えた。


 何歳くらいだろう? 俺たちの世界で言う大学生くらいに見えるけど……。


「君は昨日、ミコトちゃんと一緒にいた少年だね? 彼女とは一緒のパーティーなの?」

「……そうです」


 この人、なんでミコトのこと知ってんだろ? まあ、ミコトもここで働いてるんだから、知り合ってても当然なのかもしれんが。


「二人はどういう関係なんだい?」

「ど、どういうって、その……。と、友だちっすけど?」


 ちょっとムッとして返してしまった。なぜかは分からんが。


「そ? 単にパーティーを組んでるだけの、ハンター仲間ってことだね」

「……」


 俺は見ず、正面の建物を見やりながらそう言った。


 ただのって……。なんか癪に障るな、この人。


「それなら良いんだ。それじゃあね、シン君?」


 良いって何だよ。


 その人は、長い銀髪をなびかせて行ってしまった。


「なんだったんだ、あの人……」


 まあいいや。


 俺は俺で、武器屋を見て回ることにした。


 剣、盾、槍、杖、弓、メイス、チェーンフレイルなどなど……。


 色々な武器が並んでいてテンションが上がる。本当にゲーム世界の武器屋って感じだ。やっぱこう言うのって、見てるだけでワクワクするな。


 少し面白いと思ったのは、出来合いのものだけでなくて、パーツだけでも売っていることだった。

 槍の穂先や杖用の魔石だけで売っていたりする。槍や杖の柄の部分も、木製や鉄製、魔物の素材製などがあって、自分で組み合わせて作ることが可能なようだ。セミオーダーってやつだな。


 俺のお目当ては剣だったので、売り物を手に取って感触を確かめる。


 竹刀と同じくらいの長さの剣は両手剣という部類だった。だが鉄だから重量があって重い。こんなの振ってたらすぐに疲れるだろうし、逆に自分が振り回されて戦いどころではなさそうだ。レベルが上がらないと、ちょっと厳しいかな。


 現状、一番扱いやすそうなのは片手剣だ。リーチは竹刀よりも短いけど振りやすくて、重さもそこまでではない。片手剣って部類だけど、両手持ちすれば当然、威力も上がる。


 けれど、出来合いのものでも、やっぱりそれなりの値段がした。


 正直買えないわけじゃないけど、今は止めておこう。昨日は満足なもの食えなかったし、今日はミコトに、美味いもん食わせてやりたいもんな。ま、自分もだけど。


 欲しい片手剣の値段だけチェックして、俺は武器屋を後にした。

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