第二章 二人の関係、どうしよ……?

第15話 意識しすぎて……

 翌朝。


「ふわぁ~っ!」


 俺は重たい瞼を擦った。


「寝不足?」

「うん。あんまし眠れなかった」

「そう……」


 一瞬、沈黙が流れた。


「いや、別に何もしてねぇからね!?」

「え? あっ、あぁ……」


 ミコトが何か言いたげだったので、慌てて俺は弁解した。


 けど、しまった! 多分、勘違いだ! そう言うんじゃなかったっぽい。


 昨日のこと蒸し返して、ちょっと気まずい空気……。


「と、ところで、なんで制服着てんの? 動きづらくない?」


 急いで話題をそらす。


 昨日貰った服の上から、ミコトはぶかぶかのブレザーを着ていたのだ。


「うん……。ちょっと、ね。寒いかもしれないからさ」


 そう言って腕まくりし、温め直したスープを皿に注ぐ。


 朝食は昨日のコンソメスープだ。けれど、ほとんど具はない。


「そうだ。果物もあるから、いま用意するね?」

「果物……? 果物なんて買ってたっけ?」


 ミコトが床をパカリと開けたので驚いた。


「床下収納なんてあったんだ……。知らなかった」

「シンくんがお風呂入ってる時に見つけたんだ。これ、多分冷蔵庫だと思う」

「確かに。めっちゃひんやりしてる」


 薄っすらと白い靄がかかっていて、手を突っ込むと冷気を感じた。


 ミコトが蓋の裏側に嵌まっている青白い石を指差した。


「この石から冷気が出てるみたい」

「これも魔粒子を流し込んだの?」

「うん。昨日やってみたら、冷気が出だした」


 床下冷蔵庫の中には、楕円形の赤い果物が一個だけ置いてあった。形以外はリンゴっぽい果物だった。


「それって、昨日おっさんに貰ってたやつ? 食ってなかったんだ」


 そう訊くと、ミコトは少し驚いたような顔をして笑った。


「ヤダな。一人で食うわけないじゃん。半分コしようね?」

「う、うん。ありがと……」

「これアプルペールって果物らしいよ。昨日ロジャーさんが言ってた」


 そう言って、ミコトが半分に切ったリンゴっぽい果物を手渡してきた。


 皮ごと食えるのかな? 楕円形ってだけで、後はリンゴっぽいけど……。


「「いただきます」」


 恐る恐る、一口齧る。


 しゃる……っ。


「「!!」」


 目を丸くして互いの顔を見合った。


「うまっ!」

「うん! メッチャおいしいね」

「てかこれ、皮のあたりはシャリシャリのリンゴの味だけどさ」

「中心部分はぷるぷるな桃の果肉だね」

「リンゴと桃のハイブリッドなフルーツだな! マジでうまい!」


 口の中で二つの味が合わさると、それぞれの甘さが引き立ってよりおいしくなる。アプルペール……恐るべし!


 多分これ、異世界のフルーツだよな……。


 昨日、市場で見た限り、前の世界にもあった食べ物も多かった。けど、こっちの世界独自のものをこうやって開拓していくのも面白いよな。


 具の少ないコンソメスープだけの寂しい朝食だと思ってたけど、アプルペールのお陰で、それとなくまともな朝食が取れた。




 戸締りと身支度をすませると、さっそく俺たちはギルドへ向かうことにした。


「んじゃ行くか」

「うん。ぁ! ちょっと待って」


 急にミコトが片足立ちになってぴょんぴょんと跳ねる。


「どうした?」

「サンダルの底に、なんか挟まってる」

「ハハハ、あるある発生しちゃった?」


 ミコトはケンケンして木陰にあるベンチへと座った。一度サンダルのベルトを緩める。


「取れた?」

「うん。なんか、木の枝だったみたい」

「怪我とかしてねぇか?」

「うん、大丈夫」

「「……」」


 俺たちは、お互いを見つめて、黙った。一瞬、変な間ができる。


「よっし!」と、ミコトが膝を叩いて立ち上がる。


 ……いかん! 変に意識しちまった!


 今みたいな時って、昨日までならお互いに手を掴んで引っ張り上げるみたいな場面だった。多分、それをミコトも分かってたから、の変な間だったよな。


 くそ! 分かってたんだけど躊躇しちゃった。 昨日のことがあったもんだから……。けど、今みたいなのはイイんだよ。逆に意識しすぎるのもよくない。普通に! 普通にだ!


「シンくん、どうしたの?」

「あっ、ごめん」


 もう庭の外に出ていたミコトを追いかけた。




 道すがら、ミコトが横でため息を漏らす。見ると腹を押さえていた。


「だいじょうぶ?」

「なんか、毎日の往復だけでもいい運動になるかも。ちょっとおれ、横っ腹痛い」


 ミコトが困ったように笑う。


「飯食ってすぐだからね。よく考えたら、普段はこんなに長く歩かないもんな」

「うん。けどさ、朝に歩くのって気持ちがいいね」

「そうだな」

「おれ、やっぱり、この身体になったせいか筋力とか体力が落ちているみたいなんだ。まずは体力作りをせねばならん……」

「なるほど」


 そんなことを言っているうちにギルドに到着。昨日は買い物をしながら、しかも大量の荷物も持っていたから時間がかかったけれど、今朝は体感三十分弱ってところ。


 ギルドに入るなり、ミコトが受付横の石板にダッシュする。水晶にぺとっと手をつけた。


「ちっ!」

「どうしたんだよ?」

「なんも変わってない……」

「そりゃ一日では上がらないだろ」

「昨日お風呂で筋トレしたのになぁ……」


 ミコトがため息を漏らす。


 コイツ、風呂ん中でそんなことを……。まさか、だからあんな匂いが!? 違うか?


 俺も念のために確認。レベルなどに変化はない。ただMPは昨日だいぶ使い切っていたけれど全回復していた。


 MPは、特に何もしなければ体力と同じで自動回復するらしい。ステータスの魔力が高ければ回復も速いらしいのだが、個人差があり、一定回復するまで時間もかかる。

 それと、ゲームみたいに宿屋で寝れば全回復というわけにはいかないのも注意が必要だ。


 どちらにせよ、戦闘でバンバン魔法を使うならMPを回復させるアイテムなどが必須になってくる。


 昨日、クエスト終わりに測った時はMPが3まで減っていた。だから心配していたけれど、今日のクエストに支障はなさそうだ。


 しばらくは【魔弾】に頼ることになるからな。


「おはようございます」


 昨日の受付のお姉さん──リタさんに声をかけた。


「おはようございます。シンさん、ミコトさん」

「おはようございます、リタさん!」

「……ふふっ。ミコトさん、今日はちゃんとした服装ですね」


 リタさんが微笑む。ミコトは苦笑いして頭を掻いた。


「今日はどのようなクエストをお探しですか?」

「僕、じゃなくて、わたしは今日も回復アイテムの製作工房で働こうかなと思ってます」

「そうですか。回復アイテムの作り手は常に不足している状態なので、ギルド運営としても助かります。それに、現時点でミコトさんにとって一番効率の良い働き方だと思いますよ」

「やっぱ、そうなんですね。今日も頑張ろっ!」

「俺が受けれそうな依頼ってありますかね?」


 俺も訊いてみた。


「そうですね……。少しでも多く報酬を稼ぎたいと仰っていましたよね?」

「ええ、しばらくは」

「でしたら、ダンジョンへ行かれてはどうでしょうか?」


 で、出た! ダンジョン……!


「どんな場所ですか?」

「ここから近くにあるランディウォル岩柱地帯カレンフェルトと言うダンジョンです。スライムの巣がたくさんあるので、初心者向けのダンジョンですよ?」


 スライムの倒し方なら昨日ひと通り習ったし、いいかもしれないな。


「依頼ではないので報酬は出ませんが、たくさん魔物を狩って素材を手に入れられれば、通常のクエストより稼ぎはいいかと思います」


 成果に応じてってやつか。やればやるぶんだけ稼げるってわけだ。


 地図で場所を教えてもらい、俺はそこへ行くことにした。


「それじゃあ、お互いに頑張ろうな。夕方にまたこの辺で落ち合おう」

「うん。シンくんも頑張ってね。あ! けど無茶はしないでね?」

「わかってる。気を付けるよ」


 さあ、今日もスライム狩りだ。【魔弾】で試したいこともあるからな。

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