第27話 全てが繋がる場所




 「チッ……だが、審判は回帰せりの弱点を言い当てた所で、アタシにはこのアホみてぇな量の羽毛があるッ!」

 「まぁ、それは仰る通りなんだよね……」


 額に汗を浮かべるアマミヤ。ただ、口調とは裏腹に、瞳には光があった。

 アマミヤには、勝利への策がある。


 「魔法学園次席の実力をお見せしよう……」

 「そんなの、アタシは嫌というほど知ってるが……」

 「ならばザラギア、君に『百聞は一見にしかず』という言葉を贈ろう!」


 アマミヤが放ったのは中級氷魔法の氷弾。確かに強い魔法ではあるか、神話の存在相手には不足だ。

 だが、彼女は盤上支配者。彼女が打つ手に不足は無い。


 「中級氷魔法を、三つ同時にだと—————!?」

 「さぁ、君の腕は一本。攻撃は三つ。躱せるもんなら躱してみなよ!」


 魔法は、その見た目の派手さとは裏腹に、繊細な操作を要求する。

 魔法を同時発動など、もっての外だ。

 例えその魔法が中級レベルだろうと、三つ同時ともなれば使用難易度は超級レベルへと跳ね上がる。


 (ドラゴンブレスなどの炎系魔法は広範囲攻撃でも単一のモノとして捉えられ簡単に羽毛に変えられる。だが、独立したこの三つの氷弾を羽毛に変えるには、氷弾それぞれに触る必要がある……)


 「考えやがったなアマミヤっ!」

 「まさか、盤上支配者の打つ手がそんなに手温い筈がないだろう」

 「!?」


 気付けば、身体が少し重く感じる。

 見上げると、コロッセオを覆う薄紫の魔法陣。

 あれは、重力魔法の結界だ。

 だが、掛かる負荷は身体が若干重く感じる程度。数字にすれば100gもない変化。

 流石の盤上支配者でも、効果の範囲をコロッセオ全体という広範囲に広げてしまえば、この程度のパワーが限界なのか。


 「こんな嫌がらせ程度の重力で……」


 当然、ザラギアの動きは封じれない。効果範囲の中にいるアマミヤも、アシェッタも同上に。


 「——————でも、羽毛はどうかな?」

 「まさかテメェ!」


 「天使の権限として羽毛一つ一つを操れる。凄いよね、それはとんでもない物量の脅威だ。でも、その一つ一つに100gの負荷がかかったとしたら、その重さは数百倍と化す。そうすれば、あんなに大量には動かせないと思ってさ!」


 「アマミヤぁぁぁ……テメェどこまでアタシをコケにしやがる……」

 「無論、いつも五月蝿い君を推し黙らせるまで!」


 そして、アマミヤが放った三つの氷弾は、ザラギアの目の前まで来ていた。


 「チッ!」


 ザラギアはその内の一つを『審判は回帰せり』で羽毛に変える。


 「だけど、残り二発は消し切れないねぇ!」


 「ぐはっ!」


 残った二発の氷弾は、ザラギアの頭部と脇腹を叩いた。

 頭が切れ、天使の白い肌に血の赤がラインを引く。


 「光の、エレメントよ……」


 瞬間、ザラギアの両サイドから放たれる光魔法のレーザー。

 そして、ザラギアの右上と左上には、発光する球体が浮き上がった。


 「よっと!」


 レーザーを上手く躱したアマミヤ。

 だが、きっと次の攻撃は回避し切れないだろう。

 何故なら、次にザラギアが放ったのは、四方八方へのレーザー乱れ打ち。

 中心のザラギアを除いて、死角は無い。


 「アマミヤ……殺す……!」


 権限を除いた、ザラギアの全力。

 アマミヤは、これを待っていた!


 「アシェッタ、聞こえてるよね!」


 ザラギアから視線を外さず、アマミヤは叫んだ。


 「ボクはザラギアに最後の攻撃を仕掛ける。だから君は、リューリ君をちゃんと守ってよね!」

 「いっ、言われなくてもそうするわっ!」


 両者は叫び、それぞれの目的へと走り出した。

 思えば正反対の二人。

 彼女らは、最後まで反対方向に向かう。

 大切なものを、守る為に。大切なものを、取り戻す為に—————————


 レーザーが四方八方に飛ぶのなら、一方向に凝縮されたソレより多少威力は落ちる。

 このパワーなら、アマミヤでもギリギリ対抗できる!

 アマミヤはコロッセオを疾走はしりながら、全ての力を振り絞る。


 「今こそ、常世全ての光を奪わんが為—————————」


 水を掬う様にしたアマミヤの手のひらに、何処かから、一滴の黒い雫が落ちた。

 その雫は、まるで世界を塗り潰す様に広がり—————————


 「ダークネス・オーバーライトぉぉぉッ!」


 瞬間、世界から光が消えた。

 一筋の光も無い、完全な闇。

 物体も、色も、認識する事は叶わない。

 夜行性動物の暗視能力だとか、コウモリの音波だとかそういう視認も許さない。

 全生物に、絶対の闇を。


 蹴り進む地面を認識できない。自分の足の有無すらも。

 だが、アマミヤの心には焼き付いている。

 あの天使の姿が。あの天使の立っていた位置が!

 故に、完全なる漆黒の中でも彼女の歩みに迷いは無い。


 (ここだ!)


 そして、暗黒大魔法は10秒と持たずに瓦解した。


 「この程度でアタシの光を封じたつもりかああああああああああああああ!!!」


 「まさか、この為だよ。」


 アマミヤがザラギアに突き付けたのは、小さな手鏡。

 鏡など、光魔法の天敵。天使であるザラギアとて、警戒しない訳が無い。

 だが、あの手この手でザラギアを追い詰め、暗黒大魔法まで使って、致命の一瞬を作り出す。

 盤上を全て支配したアマミヤの一手。

 それは、ザラギアの全力の光を反射し、天使の方翼を吹き飛ばした!


 「ザラギアの言う様に、人間如きの力じゃ天使様にゃ敵わないからね。天使様のお力を借りたのさ!」

 「テメェええええええええええええええええ

えええええええええええええ!!!」


 激昂したザラギアの拳が、至近距離のアマミヤに放たれた。

 ここまでに全てを使い果たした彼女に、これを避ける術は無い。

 アマミヤはにんまりと笑いながら、ぶっ飛ばされた。


 (にへへっ、してやったり……後は任せたよ、リューリ君……)

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