第14話 癒しタイム=ランチタイム



 これにて午前中の試合が終了し、昼休憩となった。

 俺はいつもの教室に戻り、アシェッタと一緒に昼飯を食べている。

 因みにドラックは試合に勝った後クスリの副作用でぶっ倒れ、ボンは自分の試合が終わるとすぐに居なくなってしまったらしい。

 リューリの身体は、全て瞬殺だったとは言え三試合分の疲労を訴えていた。

 気休めにしかならないだろうが、ここはしっかり昼飯を食べて、午後の試合に備えよう。


 「リューリ、あーん。」

 「あーん。」


 アシェッタがミートボールを食べさせてくれた。

 今日の弁当は肉尽くしだ。


 「タンパク質は筋肉の疲れを取る。戦いの途中なら、食物繊維など不要だ!」

 「野菜のジュース作ってきちゃったんだけど、要らなかった……?」


 リューリが余計な事を言ったばかりに、アシェッタはしゅん……となってしまった。

 

 「いや、アシェッタが作ってくれたモノならなんでも嬉しいぜ!」

 「あーん」


 アシェッタがミートボールの時と同じ様にジュースを飲ませようとしてきた。

 リューリが口を開けると、ボトルに水を注ぐ様に、ジュースが流し込まれた。


 「どぉ? リューリおいしい?」

 「ガボッ、ガボボ!!!」


 ジュースで溺れる!

 い、息が……

 だが、リューリが窒息する前にジュースが切れた。


 (あんまり味わえなかった……)


 リューリが肩を落とすと、アシェッタは肩をくっ付けてきた。

 そして、目を瞑って彼女は問いを投げる。


 「見た感じ残りの魔力がかなり少なそうだけど、午後からの試合大丈夫?」

 「ぶっちゃけると、かなり厳しいだろうな。今回は連戦だから、使ったら試合後にぶっ倒れちまうドラックのクスリは決勝まで使えねぇし、ここからの相手は更に強くなっていく……」


 珍しく弱気な意見を溢すリューリ。

 しかし、それは悲観ではなく、正しい認識だ。

 ただ、一つ重要な情報が足りていない。

 アシェッタはそれを埋める。


 「リューリ、一つ忘れてるよ」

 「? 教えてくれよ」

 「四回戦以降、流石に対戦相手にも疲労は出てくるって事さ」


 一理ある。とリューリは思った。

 しかし、一回戦からずっとSランクと戦ってきたリューリと違い、対戦相手は格下とばかり戦ってきていて消耗が少ない相手も居るだろう。

 結局のところ、相手が疲れているかどうかは、祈るしかなかった。


 「これでも元気出ないかー」

 「気ぃ遣ってくれてありがとな、もう大丈夫だ。」


 そう言って立ち上がるリューリの顔は、険しい。

 とても平気そうではない。

 リューリは無理をしている。

 今までだってそうだが、今日は特にだ。

 それに気付かないアシェッタではない。

 だが、止めても無駄だと言う事は、彼の表情を見れば誰でも分かる。

 前だけを見ている人間の眼だ。

 前だけとは、この場合決してポジティブなことじゃない。

 その一本の道以外全ての選択肢を失っているかの様な、脇道を見る事さえ許されない様な、そんな哀しい前のめり。

 リューリはきっと、目の前の敵と戦うと同時に、後ろから迫る脅威から必死に逃げている。


 「リューリ……」

 「アシェッタ、そろそろ時間だから行くよ。昼飯、ご馳走さん。」


 リューリが行ってしまう。

 彼を止める事など私には出来ない。

 だから、


 ちゅっ!


 「えっ?」


 アシェッタはリューリの頬に軽く口付けをした。


 「元気が出るおまじな〜い。頑張れよ、リューリ!」


 アシェッタは、リューリの背中を力一杯叩いて送り出した。


 「あ、ああ! 俺絶対勝つから、見ててくれよ!」


 リューリの表情から疲れが失せ、再び瞳に炎が灯る。

 リューリはコロッセオに向け走り出した。

 "元気が出るおまじない"など所詮はまやかし。

 しかし、彼の力強さが戻った背中を見ていると、なんだかおまじないは本当なのかもしれないと思える。

 魔法使い達の物語だ、おまじないにだって意味があってもいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る