第10話 恩師の指導

メイ先生から見せていただいた魔王に関する資料。

そこに間違いなく記されている、「700人を生贄にしながら半日で封印を突破された」という記録。

この記録が間違いでなければ、僕たちはこのままでは魔王を討つどころか最悪の失敗を繰り返しかねないということだ。


「そうだとしても、魔王は討つ。今回の戦闘を封印で終わらせることはできない。そこは譲るつもりは無いのよね、ダン君。」

「はい、そのための用意をすでに始めています。勇者の魔法の改造と、神から授かった武具の研究に着手しています。」

「魔法の改造、というのは具体的にどういうものを考えているのかしら?」

メイ先生の興味はやはりここに向かう。

「虹の刃をベースに先日開発したものが、これです。」

僕は先日アルカさんと実験した魔法の構造を書き記し、メイ先生に見せる。

「ふむふむ、確かにこれなら魔王に痛撃になるかもね。ただし、条件があるけど。」

条件、というのはなんだろうか。

「虹の刃は初歩的な魔法。発動に最低限必要な魔力が少ない分、威力も低いわ。

私やダン君、ドロテアちゃんくらいの使い手がぐっと力を込めて魔力を注ぎ込んでようやく、魔王にかすり傷。

この魔法も魔王の表皮を貫通できなければ、実験通りの威力にはならない。」

魔王の表皮を、破る。

「犠牲者を踏みにじることで力を得る魔王、その巨体に近づくリスクの高さを甘受してでも、歴代勇者が必ず剣士から選ばれる理由は、単に象徴的な理由だけではないの。」

魔王の表皮を突破するには、確かにイアナ様の大槍やエルグランド様の剣のようなものでなければならない。


今回の戦闘にはアスミアさん率いる王国騎士団も参加する。

騎士の方々に勇者の剣や槍などで突破してもらえれば活路は開けるかもしれない。

ただ、それが同時にリスクにもなる。

「討伐するにしても、深手を負わせてから封印するにしても、魔法より先に、かつ魔王に傷を負わせるだけの攻撃力のある手段を考えなければならない。ですか。」

「まずは、の話をするならそうなるわ。現実は実践の段階で戦局はそう単純に進まないと思うの。討伐まで持っていくには現場の疲弊やその他不確定事項を鑑みると、この第一段階に時間や魔力はかけられないわ。それに、参加者に犠牲を出せばそれだけ討伐も遠のく可能性があるの。」

そう、不確定要素の大きさや安全性の高い戦術が求められる状況、これらを考えた際の戦術を考えないといけない。

「ここまでの話をまとめると、できれば一回の攻撃で魔王の体全体を傷だらけにして、そこから畳みかける形で魔法で痛めつけ、騎士団の近接戦闘はそこから……という流れが考えられると思います。」


「そう、ね。今の時点ではそういう流れで考えていくのがいいと思うわ。

ただ、次に来るまでに参加者の安全を守るための方策をもう少し練ること。

それが解決したら、私が講師を担当して魔王討伐参加者養成学級を設立するわ。

ドロテアちゃんやノースちゃんを慕っていた後輩たちからの突き上げも、そろそろ無視できない頃合いだし、ね。」

ひとまずの成果と、考えるべき課題がはっきりした。

恩師の偉大さを改めて実感し、僕は夕陽に照らされる母校を後にした。

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