第30話

「すみれちゃん少し出かけましょう?」

「・・・どこにですか?」

悦びが絶頂まで達したすみれは椅子に座りながら半ば放心状態で答える。

「どこって、荒牧なおの所。自慢しに行くの。」

「え・・・なおの所!?」

「自慢しましょうよ。貴女は馬鹿ではないって。自分の意志で何でもできるって。」


やはりれいこの頭の回転は速い。

自分の真意は伝えずにすみれの喜ぶ言葉に差し替えて、結果としてはれいこの思う通りになるのである。

「行きます!!私、なおに自慢します!!」

「さ、行きましょうって言いたいところだけれど。そんな恰好でいけないわね。行く前にシャワー浴びましょう。」

すみれは椅子からぴょんと立ち上がる。

いくら悪魔になったとはいえ、彼女の心は純粋な少女のままだ。

「わかりました!れいこさん、すみません、またシャワー借りますね。」

ふらふらとシャワー室に行こうとするすみれの腕をれいこは掴む。

「れいこさん・・・?」

「誰が一人で行けと言ったのよ。私も行く。一緒に入りましょう?」

最初はなぜだろうかと疑問ばかりだったが、すみれは所詮すみれ。単純に彼女と入れることが嬉しくて、にこにこと笑う。

「嬉しいです!!私、れいこさんと入りたいです!!」

「いい子。」


シャワー室の前。

すみれはもうすべて脱いでいるので、ソワソワとれいこを待つ。

れいこは微笑むと自分の服をゆっくり脱ぎだした。


美しい裸体。

無駄のない完璧な美しい姿。

それにすみれは見惚れて感嘆の声をあげた。


「れいこさん・・・、綺麗です。すごく綺麗です。私もれいこさんみたいになりたい。」

それを聞いたれいこは彼女の輪郭をなぞりながら言う。

「なれるわよ。わたしがそうさせてあげるから。」

「私、嬉しいです!!」

「入りましょう?」


二人はシャワー室へと足を踏み入れた。

シャワーを流し始めると、すみれの美しさ淫靡さが現れる。

こんなに濡れた彼女は先ほどと同じようにそそられる。れいこは舌で自分の唇をなぞった。

そして、彼女を後ろから抱きしめるように体を密着させる。

「れいこさん!?」

「私が洗ってあげる。」

そして、ボディソープを手に付けると、すみれの身体をマッサージするように優しく時には力を入れて撫でまわした。

「ん・・・。」

「すみれちゃん、気持ちいい?」

「れいこさん、気持ちいいです。」

「荒牧なおと入るよりずっとずっといいでしょう?」

「はい。れいこさんは優しいから。」

れいこはこの期に及んでも、なおに勝ったということを感じたかった。彼女のプライドは誰よりも高いし、それを崩した人間は一生許さないと言っても過言ではない。

「あっ・・・。」

れいこはすみれの胸も下腹部もためらうことなく触る。すみれはその度に喘ぎ声に似た声を漏らした。


あれほど自分の気持ちを抑えてすみれに接してきた。大切に。そしてすみれはそれを喜んできた。慕ってきた。純粋な目で純粋な気持ちで慕ってきた。

二人の仲は美しい姉妹のよう。

それが、今はどうだろうか。

自分の欲望のままにすみれに接している。大切に。そしてすみれはそれを悦んでいる。れいこに陶酔しきっている。

二人の仲は何より歪で醜い。だがそれ故に美しさは増す。


れいこはすみれを背後から抱きしめながら彼女の首筋に顔を埋もれさせる。

「すみれちゃん、好き。大好き。もっと、感じて。私を感じなさいよ。貴女の頭の中、全部私が埋め尽くしたい。」

「私、知りませんでした。こんな悦び。れいこさん、わたしをもっと天国に連れて行って。」

その言葉にれいこの気持ちはこの上なく高ぶる。

「いいわ。連れて行ってあげる。でも、貴女が行くのは天国じゃない。地獄よ。業火の炎に焼かれるように貴女の全てを燃やし尽くしたい。私と貴女は地獄の底で喘ぎ続けるの。天使なんて神なんて糞くらえよ。悪魔ほど美しく崇高なものはない。一緒に堕ちましょう。地獄の果てまで堕ちましょう。」

すみれはその言葉に打ち震えた。

れいことどこまでも堕ちていきたい。れいこの言うことはいつも正しい。いつも自分を悦びに導いてくれる。

きっと、奈落の底そして地獄の果てにはさらなる悦びの世界が待っている。

「れいこさん、行きたい。イキたい。れいこさん、はやく私をイカせて。」


陶酔しきったすみれの表情。それは“行きたい”の意味で言っているのではない。

すみれはここまで自分に服従しているのか、自分が躾けたのだ。あのすみれを躾けたのだ。

手に入らないものなんてない。全ては自分の意のまま。

れいこの美は全てを統べることができる。


「そんなこと言わないで。」

「れいこさん?」

「そんなこと言わないでよ。私、興奮が止まらない。私の方が先にイっちゃいそう。」


れいこはすみれに身体を押し付けて上下に動く。

「はぁ・・・すみれちゃん。もう私、駄目みたい。」

そう言うとすみれを自分の方へと向かい合わせた。

そして今までで一番深く彼女の唇に食らいつく。舌を絡ませる。すみれは息が苦しくなって少し離すとまたれいこは舌を出して彼女を引き寄せる。何度も何度も方向を変えてはすみれの唇を食み続け舐め続ける。

ようやく唇を離してすみれの表情を見ると、言葉では表しがたいほどのいやらしいものであった。

「貴女、いつからそんな表情できるようになったの?私だからよね?それって私がそうさせているのよね?」

もはや今のれいこは、すみれが好きで酔いしれているのではない。すみれを意のままにしたことに酔いしれている。だが、それが彼女は一番興奮する。ここまできたら歯止めが利かない。


「あぁ・・・我慢できない。もう・・・あぁ・・・。」

れいこはすみれの手を取るの無理やり自分の胸へと押しやった。

「れ、れいこさん!?」

「触って。許してあげる。触って、舐めて、食べて。許す。全部許す。」

「私がですか!?」

「早くしなさいよ!!許すって言っているじゃない!!早く!!」

すみれは戸惑いながらもれいこの言うようにする。あの時れいこがしてくれたように。そっと触れて舐めて食んで。

すみれは今まで自分はそのようなことをしたことがなかったので、震えていたしそれは大変無様なやり方あった。

だがその感触がまたれいこを一層狂わせる。

すみれの手を払いのけると、今度は彼女の太ももの間に自分の足を絡ませて、擦り付けるように動いた。


「あっ、あっ・・・こんな・・・こと、久しぶり。私、駄目。止まらない。」

れいこはすみれと胸と自分の胸を何度もすり合わせてはキスをして喘ぐ。

勿論、気持ちいいのはれいこだけではない。すみれもまた地獄の底に導かれるように同じ喘ぎ。

「貴女だけじゃ足りない。」

そして暴走の果てにれいこは自分の手をじぶんのそれに入れると淫靡な音とともにかき回す。すみれはそれを見て座り込むとれいこの足にずっと縋り付きながら舌で足首をなぞり続ける。

「いや・・・っ、あ・・・あっ・・・駄目、もう駄目。もう駄目っ!!」


シャワーの音がうるさい。

れいこの喘ぎ声は止まらない。

シャワーのお湯と舌が混ざり合ってすみれがすする音。


破綻。

彼女たちの全てが破綻した。

地獄の底にたどり着くまであと少し。

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