第24話 吐き気を催す邪悪

 オークションは滞りなく進む。


 宝石類や、絵画、壺などクレアが見てもどれも素晴らしい一品という事がわかる。

 本来国宝として国が管理すべき物や、入手経路が犯罪であったりと問題はあるが、凄い物ばかりであった。


 だが、次の出品を見てクレアは怒りや悲しみ、疑問など入り混じった気持ちになる。

 レミエルが気にしていたのはこういう事なのだろう。


「さぁ、次は獣人の少女です! 歳は11と若干若いですが、その分皆様は長くお楽しみいただけるでしょう!」


 ピエロが鎖を引っ張り、下卑た声で言うと参加者から笑いが漏れる。

 鎖の先には頭に獣の耳を生やした少女。粗末なローブを着て、手には鉄で出来ているであろう手錠が嵌められている。

 その目はこの世に絶望した光の無い目をしていた。


「そんなっ……! あんな小さい子まで……信じられない」

「娘。お前もわかっていたのではないか?」

「でもっ、あんな小さい子が奴隷になるなんて! どうして他の人達は笑ってられるんですかっ!」

「だからこその非合法なオークションなのだろう。そして、奴隷がいるであろう事は知っていたはずだぞクレア殿。そもそもエルフの奴隷を助けに来たのだからな」


 レミエルはそういうが、クレアは納得しない。

 クレアはエルフの奴隷を助けるという目的であったし、他にも奴隷がいる事は何となくわかってはいた。

 だが、実際に目の当たりにして頭では分かっていたが、心から理解していなかったのだと悟った。


「さぁ、それでは金貨100枚からどうぞ!」

「150!」「160!」「180!」「200!」


 オークションは進んでいく。

 クレアは笑いながら金貨の枚数を発言する奴らが許せなかった。


「バティンさん! 何とかできませんか?」

「む? あれは目的のエルフではなかろう?」

「でも……」

「クレア殿、我々はレプラ殿の妹を救うために参加しているんだ。此処であの奴隷を買う事は出来るだろう。だが、他にも奴隷がいたら全て買うのか? それをして、レプラ殿の妹が買えなくなったら? 目的を見失ってはいけない」


 冷静にクレアを諭す様に言うレミエルに腹が立つ。言っている事は正論だろう。だけど、心がそれを否定する。

 クレアは八つ当たり気味にレミエルを糾弾してしまう。


「レミエルさんは可哀想だとは思わないんですかっ!? あんな…あんな小さい子がこれからどうなるか…何とも思わないんですかっ!?」


「何とも思わない訳がないだろうっ!!!」


 レミエルはクレアの胸ぐらを掴み、感情が爆発し大声を出してしまう。


「ど、どうかなさいましたか?」

「問題ない。続けるがいい」


 大声に気付いた司会のピエロが心配そうにこちらに問いかけるのをバティンが流すように言う。


 思わず感情的になってしまったレミエルは掴んでいたクレアの胸ぐらを離し、唇を噛み締め、深呼吸をしてクレアに言う。


「何とも思わないわけが無い…。出来る事なら此処の参加者全員皆殺しにしている。だが、此処は他国で私も好き勝手に出来ないのだ…!」

「…ごめんなさい……。私、分かっていたつもりだったけど……」

「分かっている。クレア殿、今は目的の為に耐えるのだ」


 クレアは掴まれて皺になった服を伸ばす、そこで気がつく。

 胸元に血が付いている。

 クレアの血ではない。では、どこから?


 クレアはレミエルの手を見ると、握りしめ過ぎて血が滲んでいた。

 レミエルもどうしようもない無力な自分が悔しいのだろうとクレアは察した。





 それからもオークションは進む。

 何人かの奴隷がオークションに掛けられては、参加者に買われて行く。

 悔しくて涙が出ていたクレアは、奴隷の少年少女がせめて悪い様にならない事を祈っていた。


「さぁ! 最後の商品、本日の目玉ですっ! なんとエルフの少女が入荷致しました!!」


 参加者から、一層のどよめきが上がる。


「エルフは人里には中々現れませんし、そして捕まえようとしても戦闘力も高い! しかし! ドレイク商会は成し遂げました!! まだ若いエルフの少女を捕らえる事に成功したのです!」


「…エルフを何だと思っている……! ドレイク商会か、覚えたぞ…」


 レミエルが密かな殺意を抱いていると、競売が始まる。


「それでは、金貨1,000枚から!!」

「1,200!」「1,500!」「2,000!」「2,500!」


 物凄い値上がりかたを見せたが、5,000を超えたあたりで上昇が鈍くなる。


「5,100!」「くっ!……5,150!」「ぬぅぅ…5,180!」


 今のところ残っているのは3人。

 物凄く太っただらしない男、顎髭が仮面からはみ出している男、さしたる特徴のない老人であろう人物。


「ふむ、6,000だ」


 バティンが動いた。

 ここに来ての急激な値上げに残っていた3人は戸惑う。


「6,050!」


 張り合ったのは太った男、鼻息が荒くなっており、「ブフー、ブフー」と聞こえてくる。


「6,060」

「6070!!」

「6,080」

「ぐふぅぅぅ! 6,100だっ!!」


 バティンの予算は金貨8,000枚だ。なのにこんな細かい競り合いは何の意味が?とクレアは疑問に思いバティンを見上げる。

 バティンは仮面の奥で鋭い牙を見せ笑っていた。


 太った男はかなり無理しているのがわかる。

 それを見てバティンは楽しんでいるのだ。


「6,110」

「ろ、6,120っ!!」

「6,130」

「ブファー! 6,200! これでどうだ!?」


 バティンは充分楽しめたとばかりに頷く。

 それを見た男は勝ったと思ったのだろう。


「8,000だ」


 会場の時間が止まる。

 司会のピエロも聞き間違いかと思い、バティンに問う。


「えぇ…と…もう一度お願い出来ますか?」

「8,000だ」


 バティンは再度同じ金額を告げる。

 淡々とした声に参加者達は驚きを隠せない。

 そこに最後まで争っていた太った男が待ったをかける。


「ば、馬鹿な! 8,000だと!? その男は悪魔だろう!! そんな大金、持っている訳がない!!」

「そ、その……そちらの悪魔のお客様。金貨8,000枚で間違いございませんか?」

「無論だ。ほれ」


 バティンが空間から取り出したのは、伯爵から貰ったそのまま金貨の入った袋。1,000枚入りが80袋である。


「心配なら検めるが良い」





★★★★★


話のタイトルで何か感じ取れたらスタンド使いの素質有り

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