第10話 兄ちゃん買ってくるぞ?


「おーそーーーーい! こんな時間まで何してるの!」

「すいません……」


 玄関で妹に怒られる。なんで俺がこんな目に……。


「今日はお母さんもお父さんもいないから、私がご飯作るって言っていたのに! ねぇ、聞いてるのおにーちゃん!」

「ご、ごめんなさい……」

「どうしてこんな時間になったの! 連絡の一本もなしで! 私のこの気持ちわかる?」


 大変ご立腹な妹。いや、本当にごめん。

でも、喫茶店でパスタとサンドイッチを食べました。しかも、デザートまでとは口が裂けても言えません。


「すまん。えっと、アイスでも食べるか? 兄ちゃん買ってくるぞ?」

「パーゲンダッツ」

「うぉ。た、高いアイスだな」

「ビッグサイズの」

「ビ、ビッグですね……」

「三個ね三個」


 ぐぬぬぬぬ、こやつワシの懐を空にする気か?


「ふ、二つでは? ちょっと懐が……」

「食後の洗い物と洗濯物たたんで、お風呂も用意して」


 妹の頭に角が見える。


「あい」


 返事をすると、激高の鬼だった妹は微笑みの天使になる。


「チョコレイトとストロベリィね」


 なんでそんな発音するんだ? ま、いいか。


「じゃ、行ってくるよ」

「ごはん準備しておくね-」


 全く、わがままなんだから! 俺は自分用のアイスと妹用のアイスを近くのコンビニでゲットし、早々に帰る。

妹の作ってくれたカレーをおなかに入れ、妹と一緒にアイスで口直し。

しかし、妹の作るカレーはなんでいつもこんなに甘いんだ?

ま、作れない俺がいうのもなんですが……。


「んー、やっぱりアイスはオイシイ! これは真冬でもいけるね」

「久しぶりに食べるとおいしく感じるけど、冬は食べなくていいや」


 ソファーに座りながら、兄妹水入らず。

テレビを見ながら食後の時間を楽しむ。


「あ、私これ知ってる」


 テレビに映ったのは真凛だった。

ゲームの宣伝で、流れた時間は短かったけど間違いなく真凛だ。


「未来(みらい)はこれ知ってるのか?」 

「うん。友達もゲームしている。結構面白いんだって、タダだし」


 タダ。無課金って事か。タダで遊べるなら、ちょっとやってみようかな。

『最後まで見たらゲームをする』白石さんの顔を思い出す。

小説読んでコミック読んで、アニメ見たらゲーム? 道のりは遠い……。


「兄ちゃんもこれ知ってるぞ」

「そうなんだ。私も少しゲームしたけど真凛ちゃんが一番かわいい。お兄ちゃん真凛ちゃんわかる?」

「さっき出てた青い髪の悪魔だろ?」

「お、知ってるんだ。じゃぁ、白髪ツインテの子は?」


 わかりません。勉強不足ですまん。


「さぁ? 未来はわかるのか?」

「もちろん。私の一番の推しだからね。名前は雪美(ゆきみ)ちゃんでしたー」

「あ、そう」


 そんなたわいもない話をしながら時間が過ぎていく。

夜寝る前、撮影した写真をパソコンに取り込み、数枚写真を確認する。

ピンンボケは無し、ブレも無し。上出来じゃないか?


 全部の写真を確認することなく、取り込んだ写真を全てを一つのフォルダにまとめ、データ転送サイト経由で写真を送る。

これでオッケー。何かあったら連絡が来ると思うから、次のバイトの日まではゆっくりできそうだな。


 そして、ひと段落した俺はベッドに転がり白石さんに渡された小説を読み始める。

そんなにおもしろいのかな? 妹も知っているみたいだったし。

好奇心半分、俺は一ページ目を開き、小説の世界に入っていく。


──『天魔学園』


 人間界で生活する天使、悪魔、妖怪などなどが通う学園がある。

彼らは姿を人間に変え、社会に紛れて生活をしていた。

そこの生徒たちは人間界の社会になじむため、日々勉強をしている。


 天使、悪魔、妖怪、そして教師の人間達。

生徒はみんな歌うことや音を奏でることが好きで、生徒同士でバンドを組んでいる。


 生徒たちは音楽を通じ人間界でたくさんの人と出会い、交流を深めていく。


 そんな生徒の一人、悪魔の真凛は人間界に憧れ、自分も沢山の人と交流したいと願う。

自分が悪魔だということを隠して、沢山の人とつながっていく。


 とある日に正体がばれてしまい真凛は魔界に帰ろうとする。

しかし、魔界に帰ろうとした真凛を沢山の仲間が止める。


 涙を流しながら真凛はみんなの所に帰り、歌を披露する。


──


 俺は物語の世界を感じ、頭の中にその世界を想い描く。

その世界で俺は真凛がどんな子なのかを初めて知った。


そして俺は徐々に夢の世界へ旅立っていく……。 



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