ダンジョンにて一泊

「夜になってんじゃん」


 ダンジョンを出ると、外はすっかり日が暮れていた。


「え、そんなに時間経ってたんですか?」


 驚くタフィとボイヤーに対し、カリンは慣れているので驚きもせず普通にしている。


「ダンジョンは明るさとかの変化がないから、時間の経過がわからなくなるのよね。それより、今日はここをキャンプ地とするから、あんたたちは枝拾ってきて」


 カリンはダンジョンの入り口付近で一泊することを決めた。


「キャンプって、ただの野宿じゃん」


「うるさいねぇ。“野宿”って言ったら味気ないでしょ。うちは少しでも楽しい気分になるように、あえて“キャンプ”って言葉を使ってるの。ほら、わかったらさっさと“キャンプファイヤー”で使う枝を拾ってきなさい」


「はいはい。ボイヤー、“たき火”で使う枝を拾いに行くぞ」


 タフィはわざとらしく言い直した。


「はい……」


 ボイヤーはカリンの様子を気にしながら、タフィと一緒に枝拾いへ向かった。


「ったく生意気なんだから……」


 カリンは愚痴をこぼしつつ、石などをどかして寝床の準備を始めた。


 タフィたちが戻ってきたのは、それから30分後のことだ。


「どうだ、これだけあれば十分だろう」


 タフィとボイヤーは、落ちそうなぐらい大量の枝を両脇に抱えていた。


「サンキュー。じゃ、そこ置いて」


「はいよ」


 カリンは乱雑に置かれた枝の山から何本か取ると、それを適当に組んだ。


「ボイヤー、ちょっと火つけて」


「はい」


 ボイヤーは弱めのファイヤーボールで枝に火をつけた。


「うん、いい感じいい感じ」


「なぁなぁ、夕飯は?」


 タフィのお腹からは盛んに空腹の合図が発せられている。


「干し肉と干し芋、それに焼きキノコ。量はそんなにないから、よぉく噛んで食べるんだよ」


「何、噛むと量が増えんの?」


「増えないよ。けど、よく噛んで食べるとお腹いっぱいになるんだって。はい、これあんたの

分」


 カリンは大きな葉っぱの上に、10センチくらいの長さの干し肉と干し芋を一枚ずつ、焦げ目のついた白いキノコを一つ置いた。


「いただきます。……かってぇ」


 タフィは干し肉を口に入れたが、歯だけでは噛み切ることができず、手で強く引っ張ることでなんとか噛み切った。


「これさぁ、言われなくてもよく噛まなきゃ食えねえよ」


 干し肉は噛みごたえ十分だ。


「あの……カリン姉さん、これなんていうキノコなんですか?」


「これ? これは、アシキザラタケ」


 アシキザラタケは、カサの直径が5センチくらいの白いキノコで、カサの表面にはイボが無数についている。柄の部分は太く、また名前のとおり、根元に近づくにつれて黄色く染まっていく。食用ではあるが、それほどおいしいキノコではない。


「……おいしくないです」


 ボイヤーは渋い顔をしている。


「そうなのよ、これは食べれるってだけでおいしくないの。だから、これは量をカバーするためだけに置いたの」


 そう笑いながら話すカリンの葉っぱには、キノコは置かれていなかった。


「え? このキノコうまいじゃん」


 おいしそうにキノコをほおばるタフィを見て、カリンはポツリとつぶやく。


「確かに、これは幸福な舌だわ」


「ん、なんか言った?」


「なんでもない。それより、これがバラ姫が欲しがった包丁なのね」


 カリンは木箱から包丁を取り出し、様々な角度からまじまじと見た。


「なんとなくだけど、良い包丁だってわかるわね」


 刃の部分は美しく仕上げられており、柄の部分も良い木が使われている感じがした。


「石の中に入ってましたけど、どうやって隠したんでしょうか?」


 ボイヤーは見つけた時からずっと、そのことを疑問に思っていた。


「うーん、たぶん偶然よね。あの辺に木箱を埋めておいたら、同化して石柱と一緒に生えてきちゃったって感じじゃないの」


「なるほど」


「ところで、あの石柱ってなんなの?」


 干し芋を噛みながらタフィが聞いた。


「石柱? ボイヤー、説明してやりな」


 カリンは質問を受け取ることなくそのままパスした。


「あれは人間でいえば、イボや腫瘍みたいなものです」


「へぇ、イボができるなんて、やっぱダンジョンは生き物なんだねぇ」


 タフィはダンジョンの奥の方へ視線を向けながら、ごくんと干し芋を飲み込んだ。

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