第12話 七色の願い(大規模編集)

『長野先輩。少しだけ2人で話をしませんか』


いきなり七色さんにそう言われて。

俺は七色さんと一緒に凛花にトイレに向かうと話して2人で美術館の屋上にやって来てからベンチに腰掛けた。

それから七色さんは俺を見てくる。

俺は?を浮かべて七色さんを見てみる。


「長野先輩。長野先輩は.....その。凛花ちゃんをどう見ますか」


「どう見るって?それは一体どういう意味かな」


「言葉通りの意味です。私は凛花ちゃんが大好きです」


「.....そうか。有難うね。そう言ってくれて」


「はい。だからこそです。私は凛花ちゃんにこの戦いで勝ってほしいです」


戦いに勝ってほしいとはどういう意味か、と思ったが。

ハッとしてから、成程、と納得した。

すると七色さんは先程買った飲み物を取り出す。

よく見たら2本買っていた。

そして1本を俺に渡してくる。


「長野先輩の分です」


「そうなんだな。有難う」


「はい」


そして七色さんは真剣な顔をする。

俺はその真剣な顔を見ながら前の風景を見る。

そこには住宅街やらビルの群れやら。

そんなものがある。

俺はそれを見ながらお茶を飲みつつまた七色さんを見た。


「私は勝ってほしいです。そして長野先輩には凛花ちゃんに恋をしてほしいんです」


「そうなんだな。でも俺は誰も受け付けるつもりは今は無いよ」


「長野先輩の事情は分かります。実はですね。凛花ちゃんですが.....相当昔から長野先輩を知っているみたいで.....それで応援したくなっちゃうんです」


「相当昔?どれぐらい前だ?」


それは本人の口から聞いて下さい、と言いながら。

俺を苦笑しながら見てくる。

実際話したいですけど.....でも。

私自身は語る人間では無いです。

と言いながら前を見る。


「でも相当前です。.....それも相当。だからそれだけ長野先輩を知っている凛花ちゃんを応援してあげたいんです。だから好きになってほしい。長野先輩には凛花ちゃんを支えてあげてほしいです」


「うん。そう言われなくても支えるよ。俺は.....凛花をとても大切にしたいと思っている。でも恋人とそれは違うと思う。御免な」


「そうですか。.....でも仕方が無いですよね」


「そうだな。本当に俺は失恋してから.....頭が痛いんだ。かなり最悪な失恋だったからな」


「.....そうみたいですね」


そうだな、と答えながら思い出す。

オタク趣味も馬鹿にされ。

そして俺自身の人格も否定したあの女を。


それを見抜けなかった俺も情けないけどな。

清楚だったから良かったと思ったんだが。

甘かった。

だから俺は怖いんだ。


「凛花の気持ちも。きっと朝日という俺の幼馴染も。みんな俺を好いているんだ。.....だけど応えられない。気持ちにはな。今はそんな気分じゃない」


「長野先輩は本当に大変な時を歩んで来られたんですね」


「人生はそんなもんだとは思うけどね。.....でも俺の場合は特殊だったからなぁ。本当に特殊だった。だから何とも言えないんだけど複雑だったよ」


「長野先輩。でも人生はもっと気楽でも良いですよ。長野先輩は全てを背負い過ぎています。だからその荷物を軽くしてハイキングしても良いんですよ」


軽く、か。

例えばですけど軽くする事によって負担が減りますよね。

それはきっと心も同じ事なんです、と言いながら七色さんは人差し指を立てる。

それからニコニコした。


「長野先輩。もし良かったらですがその荷物ですが私も持たせてくれませんか」


「.....何故そこまで.....」


「私は長野先輩が大変な事を知っている理解者になりたいんです」


「君は本当にいい娘だね。凛花の気持ちも理解してくれた最高の友人だね」


「.....私はそんないい娘じゃないですよ。アハハ。家では.....いえ。これは止めておきましょう。とにかく私は凛花ちゃんが好きなんです」


俺は?を浮かべて見る。

そしてそんな彼女に聞いてみる。

何故君は凛花をそんなにサポートしてくれるんだ?、と。

すると七色さんは、私は凛花ちゃんと出会って人生が変わりました。アニメと漫画の素晴らしさを教えてくれました。だから彼女が好きなんです。幸せになって欲しいんです。喋ってもほしい。だから頑張りたいんです、と答える。


「今は喋れなくても.....きっと喋ってくれます。彼女ならきっとです」


『貴方の人生に幸あれ』


「.....君は俺の養護教諭みたいだ。昔出会った」


「私ってそんな感じに見えます?アハハ。嬉しいなぁ」


ニコニコしながら俺をみてくる七色さん。

田中優(たなかゆう)さん。

お転婆だった姉の様な存在の女性。


中学校でお世話になった先生だ。

転勤するまでだが。

だけど本当に田中さんの存在。

それから凛花の存在が大きいのだ。

心の中では。


「長野先輩は大変な人生です。.....でもきっとこの先にそんな不安な事は起こらない筈です。周りが全て絶望では無い事を.....気付かせてあげます」


「.....涙が出てくる。年下なのに。女性なのにね。御免ね。格好悪い男で」


「いえ。長野先輩が良い人だからですよ。これは」


「有難うね。七色さん」


そうしていると目の前に誰か立った。

見ると凛花だ。

頬を膨らませて立っている。

何しているの、と書かれたスマホを掲げて、だ。

探したよ、とも。


「ああ。御免な。凛花」


「凛花ちゃん御免ね。ちょっと話してた」


(何を話していたの)


「長野先輩と凛花ちゃんの事」


(そうなの?)


凛花は目を丸くする。

俺はその姿を見ながら伸びをした。

それから中身が無くなったペットボトルを捨てながら。

凛花と七色さんを見る。

ファミレスってか食堂に軽く行かないか?、と尋ねた。


「あ。それ良いですね。是非とも」


(良いですね)


「.....じゃあ行くか」


そして歩き出すと。

七色さんが俺の袖を引っ張った。

それから小声で話してくる。

また相談乗って下さい。今度は凛花ちゃんが話せるようになる様に相談したいです、とウインクしながら言ってきた。


「ああ。そうだな」


「.....有難う御座います」


そして俺達は歩いて食堂に向かった。

それから美術館内の食堂に.....というかファミレスに来てから椅子に腰掛ける。

そうしてからメニューを見始めた。

何か美味しそうなメニューばかりだな、と思う。

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