SUPER CUTIE SUPER GIRL


 市街地に辿り着くと、そこはドッカンバッカン大騒ぎ。逃げ惑う市民の悲鳴が木霊こだまして、誰もがみんな避難に必死の形相だ。しかもよく見ると、トラブル体質の呼子先生も巻き込まれている。むしろ彼女がいるせいで悲劇が起こっている説。あると思います。

 という冗談はさておき。

 今度の怪人騒ぎはいつもと違う点がひとつあった。

 それはディープワンが暴れておらず、代わりにゾスの眷属の三人自らフィーバータイムに明け暮れていることだ。

 ガターノ、ソグサ、モグオム。

 結託して攻め込んでくるとは意外だ。悪の組織といえば手柄の奪い合いや下克上狙いで険悪なイメージがあるし、時には足を引っ張り作戦を台なしにしてそう、と想像していたのに。もしかして、なにか特別な日なのだろうか。ゾスの眷属結成何周年記念感謝祭みたいなかんじで。ここは祭りの場所かなにかですか?


「三人揃って登場とは珍しいエルな」

「そいつぁこっちの台詞だ、妖精コラ」


 どうやらゾスの眷属側も同じ思いらしく、ガターノが不機嫌そうに瓦礫がれきを蹴飛ばす。


「なんだてめーら、友達同士仲良くお茶会ダバダバ腹に流し込んでたのか、オォン?」

「別にしてないし」

「貴方の貧相な妄想を押し付けないでくださいまし」

「仲良しとかあり得ないですぅ」

「お、おう、そうなのか……わりぃ」


 ガン飛ばしで威勢良く出たものの、女子三人の不機嫌面にガターノは押され気味だ。いがみ合う女子ほど扱いに困るものはないだろう。率いる側の身になってほしい。誰か代わってくれ。


「喧嘩は一旦やめにして、今は奴らを倒すのに集中するエル」

「わかってるもん」

「言われなくても当然ですわ」

「切り替えが大切だよね」

「じゃあ最初からそうしてくれ、エル」


 有り難いことに、いや当然のことなのだが、魔闘乙女マジバトヒロインとしての本分はわきまえているようで良かった。もっとも、手を取り合って戦うのは難しそうだ。できたらミラクルよ。


『-Magentaマゼンタ-』

『-Ceruleanセルリアン-』

『-Mazeメイズ-』


 三人同時にクロノミコンブックにトラペゾンボトルをはめ込むと、各々の色が一斉にアナウンス。とくとく心地良い音を奏でてインクが溝を滑り、三者三様の紋章が画面に映し出される。

 続けて三人のブックからそれぞれの待機用BGMが鳴り響く。ほむらからはアイドルソング風、風華からはブラスバンド風、まいんからはヘヴィメタル風。同時に流れるせいで音が混ざってもはや耳障りな雑音だ。


『-Dragonドラゴン-』

『-Pegasusペガサス-』

『-Minotaurミノタウロス-』

「「「ビビッドチェンジ!」」」


 それぞれの紋章をタップし、息を合わせたように掛け声をハモらせた三人は、目映い光に包まれてその姿を魔闘乙女マジバトヒロインへと変えていく。

 ほむらは極太のポニーテールを揺らす、スパンコール煌めく姿に。

 風華はスーパーロングヘアーを棚引かせる、鋭い羽毛を纏った姿に。

 まいんは角のように跳ねたツインテールを持つ、乳牛柄が可愛い姿に。


『「『-Dreamドリーム Coloringカラーリング-』」』

『-Magenta Dragonマゼンタドラゴン-』

『-Cerulean Pegasusセルリアンペガサス-』

『-Maze Minotaurメイズミノタウロス-』


 アイドルソングとブラスバンドとヘヴィメタルの曲に乗せて、彼女達の変身完了を告げるアナウンスが同時に流れるも、混ざり合い過ぎて聞き取れないしやかましい。聖徳太子も「うるせぇ」としゃくでひっぱたくレベルだ。


「舞い踊る烈火のカラー! マジバトドレイク!」

「駆け巡る疾風のカラー! マジバトアキュート!」

「突き抜ける盤石のカラー! マジバトヘヴィ!」


 ここでやっと名乗りと決めポーズの披露だ。長かった。ゾスの眷属達もわざわざ待ってくれてありがとう。


「ねぇ、エルル。この辺でいいかんじに、締めの一言がほしいんだけど」

「はい?」

「初の三人同時変身だし、ね、お願い」


 ここでまさかの、ほむらからの無茶ぶりだ。

 確かに往年のスーパーヒーローヒロイン達も言っていた気がするし、気持ちをひとつにするためにも必要な儀式かもしれない。特に現状の魔闘乙女マジバトヒロインは実にバラバラ。扇の要ポジションとしても是非やるべきだろう。

 とはいえ、急にやれと言われても、格好良い決め台詞なんて思いつかない。先人達はどう締めていたのか。慣習に従う方がいいか、それともオリジナリティ重視にした方がいいか。そもそも語彙力ごいりょくが足らないし、じっくり一晩考えてから発表したいし。なんて悩んでいる時間はない訳で。さすがのゾスの眷属だって、これ以上待ってくれそうにないぞ。


「えー、あの、うーん」

「ほら早く」


 せかすなよ。

 ああもう、こうなったらノリと勢いだ。

 ダサくても文句は受け付けないぞ。


「せ、世界を彩れ! マ、魔闘乙女マジバトヒロイン……えーっと、ビ、ビビッドリームズ!」


 どうだ、そこそこ良い雰囲気は出たはずだ。

 ついでにチーム名もつけてみたぞ。由来はなんとなく、それっぽい言葉を繋げただけの代物だけど。

 はてさて、皆さんの反応はどうだろうか。


「……い、いいんじゃない?」

「別にどうでもいいですわ」

「可愛さが足りないのですぅ」


 うん、微妙。

 お世辞に無関心にクレームの三連撃だ。

 個人的にはいい台詞だ、感動的だなと思う。だが無意味だ、少女達に不評ではオレの立つ瀬がない。


「し、仕方ないエル、急に完璧な名前なんて思いつくわけないエル!」


 渾身の決め台詞がダダ滑りして、恥ずかしさのあまり死にそうだ。必死に手足と羽をバタつかせて誤魔化ごまかすしかない。この動きも、成人の一般男性がやっていると思うと、身の毛もよだつ光景だ。妖精姿で本当に良かった。


「オイコラ、オレ達のこと忘れてねぇか?」

「あ、そうだったエル」


 長い変身シークエンスと締まらない名乗りで、ゾスの眷属をほったらかしにしてしまった。そろそろ真面目にしないと、本当に世界の終わりが来てしまう。律儀に待っている方もどうかと思うのだが。


「今日こそぜってぇ潰してやっからな」

「ふんだ、あたしはそう簡単にやられないもん!」

「我との一騎打ち、光栄に思うがいい」

「それはこちらの台詞でございましてよ」

「僕のこと、いっぱい楽しませてほしいなぁ~」

「えー、ヘヴィと戦って無事でいられるか心配ですぅ」


 ドレイクはガターノと。

 アキュートはソグサと。

 ヘヴィはモグオムと。

 それぞれの相手と一対一で対峙する。


「うーむ、困ったな」


 さてオレは、誰についていったらよいのだろう。

 いつもお世話してくれているドレイクと一緒にいるべきか。

 文武両道で才色兼備の安定したアキュートと共に戦うべきか。

 一番年下でやらかさないか心配の多いヘヴィについてあげるべきか。

 とても悩みどころである。

 そもそもエルルのボディ本体が連中の目的だし、この選択は重要になるだろう。オレの一挙手一投足が世界の命運に絡んでくるのだ。ここは慎重に選ぶべきだし、敢えて参加しない手もある。

 などとグダグダ悩んでいる間に、バトルの火蓋ひぶたは切って落とされる。


「先輩方、エルルは借りていきますね~♪」

「ぐぇ」


 オレの体はヘヴィにがっしり握られて、モグオムとの戦いにかり出されるハメになっていた。こっちの意志は無視ですか、そうですか。

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