第六話:三対三! ゾスの眷属、トリオで襲来!

Perfect Black


 異様な暗闇が四方八方全てを支配する謎の空間。

 じっとりとした湿気と漆黒の粘液がしたたる、生理的嫌悪感を誘う場所に、三人の男が集まっている。

 ひとりはモヒカン頭の青年、ひとりは左目を前髪で隠した少年、ひとりは茶髪をウルフカットにした子供。

 ゾスの眷属として暗躍するガターノ、ソグサ、モグオムだ。

 彼らは邪神を崇拝する同族であるものの仲間意識は希薄、行動を共にすることは少なく、こうして一箇所に集う機会などごく稀。人類とは違って記念日や催事などの感覚もないのだ。わざわざ雁首がんくびを揃える意義などほとんどない。

 では、今回はなんのために。

 その目的は、端的に言えば作戦会議。発起人は見た目最年長であるガターノだ。


「今日の議題は他でもねぇ、魔闘乙女マジバトヒロインのクソメスガキ共についてだ」


 短気で直情的な彼にしては珍しく、比較的冷静に司会の立場で振る舞う。口汚さはご愛敬だろうか。資料やプレゼン用モニターの類いはなく、暗闇の中で突っ立っているだけなので、大げさな身振り手振りで進行している。


「オレ達はあのお方の復活のため、ドリームランドの王女を奪おうとしてきた。ディープワンを引き連れて挑むも負けて、を何度も繰り返してきた。腹立たしいが、それは確かに事実だ」

「なにを今更。魔闘乙女マジバトヒロインとは永久とわの宿命とわかりきっている」

「そうだよー、つまんないぞー」

「うるせぇ、黙って聞け」


 途中で口を挟むふたりに怒りのスイッチが入りかけるも、それをぐっと飲み込んでガターノは続ける。

 ここは年長者の自分が仕切らなければ纏まらない。勝利を求めるため、たまには頭を使わねばならないのだ。と、自身に言い聞かせながら。


「だが、どういう理屈か知らねぇが、あの王女がドデカイエネルギーの塊になってやがった。しかも魔闘乙女マジバトヒロインとのコンビで変身するわ強力な技を出すわ、オレ達はずっとぼろ負け続きだ。悔しくねえのか、てめぇらは、オォン?」

「我よりも秘めたる力を隠し持っていたとは驚嘆に値する。この†翡翠ひすい絶対的強襲者アブソリュート・アサルト†の好敵手こうてきしゅに相応しい」

「キャラも変わってたし倒し甲斐がいある強さになったし、面白いかんじになってきたねー」

「てめっ、暢気のんきに調子こいてる場合じゃねーだろが、ゴルゥアッ!」


 我慢も虚しくガターノの怒りはすぐ沸点へ到達、黒いぬめりでぬらぬらの壁をドカッと殴りつける。粘度の強いしずくが飛び散るも、気にする者は誰もいない。彼がキレやすいのは大昔からだし、顔にかかる粘液は別に不快ではないのだ。


「ふむ。ならば我の封印された混沌の力を解き放ち、魔闘乙女マジバトヒロインを闇の淵へ沈めるのみ」

「てめぇにンな能力ねーだろ!」


 なおも無意味に格好付けるソグサへ怒りの鉄拳を振り下ろす。が、ひらりとかわされてしまい、ガターノの拳は空を切る。


「でもでもー、そのエネルギーがあれば、あのお方もきっと強くなって、元気いっぱい復活できそうだよねー」

「そう、それだ。だからオレ達はなんとしても勝たないといけねえんだよ」


 彼らの最終的な目的は地球の全生物を滅ぼすこと。そのためにもゾスの眷属を束ねる邪神、滅びの力を司る存在の復活が最優先事項だ。

 封印を施した者もしくはその血縁者、つまりエルルを生け贄に捧げることで、邪神は現世に解き放たれる。

 邪神の力は元々最強の領域にあるが、大量のエネルギーを抱えたエルルで封印を解けば、どれほど強化されて復活するのだろうか。計り知れない力を得て、地球どころか宇宙すら滅ぼしてしまいそうだ。

 しかし肝心なのは、エルルをいかにして奪い取るかである。いくらエネルギー豊富でも手に入らなければ取らぬたぬきの皮算用。むしろ現状は、そのエネルギーが幻獣に姿を変えており、奪いづらさに拍車をかけている。


魔闘乙女マジバトヒロインも数が増えたのも、我らの難易度が跳ね上がった一因か」

「そーそー。遊び相手が増えて嬉しいけど、復活の時が遠のいちゃって困るよねー」

「オイコラてめえ、他人事ひとごとみてーに言ってんじゃねーぞ!」


 享楽的にヘラヘラするモグオムに苛立いらだち、ガターノはその頭にゲンコツを食らわそうとするも、これまたひょいと避けられる。勢い余って半回転して倒れてしまう。


魔闘乙女マジバトヒロインが一匹いたら三匹いると思え……うむ、我ながらいい格言だ」

「キャハハハ! それ言えてるかも」

「このまま増えられたら一大事だろーがボケ」


 今までひとりだけだったので楽勝だと高をくくっていたが、三人となれば途端に厄介。三人で常勤かそれともシフト制か、どちらにしろ隙がなくなる一方だ。もしこれ以上増えたら奪取はおろかこちらが押され、最悪ゾスの眷属が壊滅しかねない。死活問題だ。


「そこで、だ。今度は三人で攻めねぇか?」


 状況打破のためにガターノが提案したのは、手を組むことだった。

 不仲で連携がとれないのは承知の上。勝つためには背に腹はかえられないのだ。


「我らで闇の同志結成ということか?」

「ふーん」

「ぶっちゃけ、てめぇらと仲良しこよしはしゃくだが、負けるのはもっとムカつくんだよ。だからこそオレ達三人がかりで、魔闘乙女マジバトヒロインを一気に叩き潰す。完膚かんぷなきまでに、だ。異議がある奴はいるか?」


 息を巻くガターノの問いかけにふたりの反応は、


「フン、数百年ぶりの気まぐれに、貴様の誘いに乗ってやろう」

「面白そうなの大好きー、やろうやろうー」


 悪くはなかった。むしろ普段の険悪さからすれば上出来だ。

 意外な好感触にガターノは満足そうに笑みをこぼす。

 了承したソグサとモグオムも、この提案はやぶさかではなかった。魔闘乙女マジバトヒロイン側が強力になったのは身をもって体験済みで、それなりの危機感を持っていた。だが、協力して打倒するという発想は出てこなかったし、出たとしても実行しようとは思わない。その意味ではガターノの提案は渡りに船だったのだ。

 軽口を叩きながらも、ふたりはガターノについていく。


 暗闇の空間から三人の姿が一瞬にして消える。

 次に彼らが現れたのは地上。朱向市あかむきし内の人目につかないどぶ川だ。

 瞬間移動テレポート

 拠点から人気のない水場への出撃、もしくは地上から拠点への撤退。ゾスの眷属特有の能力で瞬時に空間跳躍が可能なのだ。

 いつでも、どんな時でも、彼らの好きなタイミングで強襲をかけられる。地球と魔闘乙女マジバトヒロインは常にそのリスクにさらされているのだ。

 そして今日も、狙われた街に毒牙どくがが迫る。

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