MOON~月光~ATTACK


「ペガサスに変身しただと!?」


 想定外の展開に、ソグサは緑色の瞳をまん丸に見開き、忙しなく手足をばたつかせている。格好付けている割に肝の小さい少年だ。もっと堂々としないと大物さは出ないぞ。


「嘘……」


 一方のアキュートも驚きを隠せないらしく、ぽかーんと口を開けっ放し。妖精の王女が突然ペガサスになったのだ、思考停止するのも無理はない。


「アキュート、このまま決めるエルよ!」

「え、ええ、そうですわね!」


 呆けていたアキュートだったが、はっと我に返るとその目には戦士の色。地球の生命を守る正義の光が宿っていた。


『-Ceruleanセルリアン Final Vividファイナルビビッド-』

「アキュートペガサステンペスト!」


 アキュートは杖を天高く掲げ、空をかき混ぜるようにくるくると回すと、一気に前方へと振り下ろす。

 オレはその指揮棒に合わせて螺旋らせん状に空中を駆け上がり、馬のひたいに風の力を集約していく。構築されていくのは巨大な三角錐。月光を浴びる清らかな勇姿はさながら一角獣のよう。ユニコーンじゃなくてペガサスなんだけど。


「食らうエル!」


 頭部より放たれた三角錐は、ドリルのように回転しながら怪人の腹部に突き刺さる。だけではなく、更に高速で回り続けて貫き通し、胴体にぽっかりと大きな穴を開通させた。


「ディ、イィ……」


 黒い粘液を噴出させながら、ディープワンはどうと倒れる。と同時に大爆発し、散り散りになった触手が散乱していく。びちびち釣りたての魚みたいに触手が跳ねる中、爆心地には素体だった少女が転がっていた。

 巨体すら貫通する槍が刺さったので内心ヒヤヒヤだったが、どこにも外傷は見当たらない。無事に救い出せたようだ。便利だな、この必殺技。


「え、我の見せ場は……?」


 まともに戦うことなく手下を倒されてしまい、ソグサはショックで放心状態。粉々のディープワンだった物体を見つめているだけだ。


「身の丈に合わない見栄えを求めているから、ご覧の通り無様に負けるのではございませんこと?」

「ぐぬっ……! わ、我が再臨する時を楽しみにするがいい!」


 そして煽りに対してなにも言い返せず、ソグサはさっさと帰っていくのだった。

 実力足らずなのに自信過剰で強がりを言うあたり、やっぱり中二病っぽいな、あいつ。





 元の妖精形態に戻ったオレと、疲労で倒れ込んだほむら、そして変身解除した風華のふたりと一匹は、市内にある公園のベンチに腰を下ろしていた。

 戦っている間にもう夜だ。薄暗い敷地内を、心許ない街灯だけがぼんやり照らしている。日中子供達が遊んでいただろう遊具も、静けさの中ではどこか寂しそうに見えた。

 一方、周囲の景色とは対照的に、オレ達の空気は至って明るい。魔闘乙女マジバトヒロイン同士で殴り合った後とは思えないほどにキラッキラ。それもこれもソグサという共通の敵がひょっこりやってきたおかげだ。雨降って地固まる、とはまさにこのこと。敵ながら天の恵みかもしれない。


「龍崎ほむらさん。あなたの魔闘乙女マジバトヒロインにかける思い、しかと受け止めましたわ」

「それって、つまり?」

「エルルさんのお世話は、あなたにお任せしますわ……ってことに決まっているでございましょう?」

「あ、ありがとうございます、生徒会長!」


 青春ドラマあるある、拳を交えて気持ちが通じる、肉体言語的なアレだ。河原で寝転んでお互いの健闘を称える、ベタなシーンが思い浮かぶ。

 今の彼女達はそれと同じ状況なのだ。

 至らないところだらけでも、一度やると決めたことは意地でもやりきる。不屈の精神で立ち上がるドレイク――ほむらの姿を目の当たりにして、使命に固執していた風華の気持ちも変わったのだろう。これからはふたりの関係も柔和で和気藹々わきあいあいになっていくはずだ。


「あー、でも心配ですわ。あなたって掛け値なしの馬鹿ですもの」

「……え」

「やっぱり私が預かった方がいいかもですわ」


 前言撤回。

 まだ溝は深そうだ。


「ちょっと生徒会長!? あたし結構お馬鹿な方だけど、やる時はやるんですよ!」

「ええ、それ込みで気を揉んでいるのですわ」

「ひーどーいーでーすーっ! もうちょっと手心! 信頼という名の手心を~っ!」

「ありませんわ」

「凄いあっさり!?」


 変身アイテムの出自とかドリームランドの方針とか、色々引っ掛かることがあるのだが、ひとまず一件落着扱いでいいだろう。

 魔闘乙女マジバトヒロインとして共同戦線、一緒にゾスの眷属と戦っていくと決まったし、オレの住処は引き続きほむらの家なのだ。

 ほぼほぼ現状維持、特に問題なし。

 残る不安を敢えて言うのなら、風華の人となり、彼女がどんな人物なのか、くらいだろうか。

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