7.ギルドの仕事も自動化します


「おらお前ら、行くぞ!」


 隊長のエラソーが、部下たちに命令する。

 アルトは雑用係(ポーター)としてその後ろについていく。


 オートマジックの条件分岐機能で、効率的に採集クエストをこなせるようになったアルト。

 しかし、それでもアルトがギルドでのポーターの仕事をやめることはなかった。

 もちろん、それにはちゃんと理由がある。


「(連続強化)起動」


 心の中でそうつぶやいてテキストを起動させる。


【処理を開始します。マジック・バフを発動します――】


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 <連続強化>

  For 1000

   マジックバフ

   フィジカル・バフ

  next


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 アルトが今起動しているテキストはこんなものだった。

 パーティのメンバーに強化を加え続けるというものだ。


 実は強化魔法は、自分にかけるよりもクエスト中に仲間にかけたほうが、多く経験値が稼げるのだ。

 つまり経験値を稼ぐのにコスパがいいのである。経験値を稼ぎにくいアルトにとって、無視できないものだった。


 それにポーターとはいえパーティのメンバーとしてダンジョンを攻略していると、多少経験値を得られる。

 

 一人で過ごしていても経験値は稼げるが、パーティのほうが経験値はたまりやすい。

 だからアルトは引き続きポーターの仕事を続けているのである。


「お、リザードマンだ」


 隊長はモンスターを見つけると、自ら勇ましく斬り込んで行く。

 それに部下たちも続いていき、モンスターはあっという間に倒される。


 はっきり言って、威張るほどの実力の持ち主ではなかったが、ノースキルであるアルトに比べれば高い戦闘能力を持っているのは間違いなかった。

 アルトのレベル一桁台のスキルとは比べ物にならない。


「おらポーター。グズグズしないでさっさと回収しろ!」


 隊長が偉そうにアルトに命じる。


 すると、隊長の腰ぎんちゃくのドッグが追い打ちをかけてくる。


「お前みたいな無能を雇ってやってんだ! ありがたく思えよ!」


 もちろん、それに対して苛立ちはあったが、怒っても何もいいことはない。アルトはそれに黙って従うのだった。


 †


「おし、解散」


 一日のダンジョン攻略が終わり、ギルドの本部に帰ってくる。

 しかしポーターであるアルトの仕事はまだこれからが本番だ。


「これ、明日までに仕分けしとけよ」


 隊長が偉そうに命じる。

 冒険者たちは、拾ってきた様々な魔石を倉庫に下ろして行く。

 拾ってきたアイテムを種類ごとに仕分けるのもアルトの仕事だった。


 魔石は、少し鑑定しただけでは種類がわからず、一つ一つ数分をかけて鑑定しなければならず、仕分けはかなり骨の折れる仕事だった。


「おし。じゃぁ今から飲みに行くか」


 隊長はアルト以外の部下たちにそう言って、そのまま街へと繰り出して言った。


 ――隊長たちの態度には、はっきりいってアルトも苛立ちを覚えていた。

 しかしオートマジックがレベルアップした今なら、こういう雑用はさほど苦ではない。


「……さて」


 アルトは誰もいなくなった倉庫の中心に座って、オートスキルのウィンドウを開く。

 そして即席でテキストを書いて行く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 <仕分け>

  For 鑑定 (地面に並んで居る石全て)

   If 硬鉱石

    ライズ(北側)

else if 魔解石

 ライズ(東側) 

else if 炎魔鉱石 

 ライズ(南側)

   else end If

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 自動で仕分けするテキストを書き、あとは実行していく。


「……これ、オートマジックがないと、マジで丸一日かかるんだよな……」


 しかし今のアルトならもうそういう労働からは解放されている。

 鑑定そのものに時間がかかるのでしばらく待つ必要があるが、作業はオートマジックがやってくれるので、その間アルトは何もする必要がない。


「さて……」


 ――その間、手持ち無沙汰にするのも時間が勿体無いので、バッグから本を取り出す。

 魔法理論についての本だ。


 アルトは将来国立魔法学校の騎士課程に入って、騎士になるのが目標。

 ノースキルでも騎士になれるのだと証明する。それが今の生きる意味だった。

 なので、こうして「自動修行」している間は、座学の勉強をしているのだ。


 仕事でスキルの経験値も稼ぎながら、その間に座学の勉強。

 これぞアルトの生み出したコスパ最高な訓練方法だった。


「よし……今日は3章まで覚えるぞ……」


 †

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