全自動魔法【オート・マジック】のコスパ無双〜 放置しても経験値が集まるみたいです。

アメカワ・リーチ@ラノベ作家

第一章 追放編

1.追放


 アルトにとって、その日は15年間生きてきた人生の中で一番大事な日だった。


 ――適性の儀。


 その日、少年少女たちは魔法の力に目覚める。

 そして同時に、神官の鑑定によって、魔法の適性がどれだけあるかを測られる。


 どんな系統の魔法に適性があるのか。

 いくつの魔法を同時に使えるのか。


 それによって今後どんな職業につけるかが、あらかた決まることになる。


 魔力適性が高ければ、平民であっても貴族たちと並ぶような地位につくことが可能になる。


 実際、アルトの父は平民の生まれでありながら、高い魔法適性に恵まれ、たった一代で公爵の地位にまで上り詰めた。

 適性の儀の結果によって、平民から臣下としては最高位にまで上り詰めたのである。


 一方、魔力適性が低ければ、誰でもできるような平凡な職種に就くことになる。


 だから適性の儀は、人生の大半が決する日と言える。


「いよいよこの日が来たか……」


 アルトは一つ息をついて、決意を胸に歩き出した。


 ――館を出ると、門のところで一人の少女が待ち受けていた。


「アルト、なにその気の抜けた格好」


 笑みを浮かべながらそう聞く少女。


 ――リリィ。

 その名の通り、透き通るような白い肌を持つ美しい少女だ。


 アルトの幼馴染で、同じ日に生まれたという縁があった。

 すなわち、彼女も今日、適性の儀を受ける予定だった。


 二人はお隣さん同士、一緒に神殿に行こうという約束をしていた。

 

「なにって、俺はいつもこんな感じだよ」


 アルトはぶっきらぼうに答える。

 アルトは年中黒い麻の服を着ていた。公爵家に生まれたにも関わらず、服はこの一種類しかもっていない。

 服を選ぶのがめんどくさいのですべて同じ服で統一しているのである。


「人生で一回しかない儀式の日にだよ? 今日くらいオシャレしたらいいのに」


「今日しか着ない服なんて買ったら、コスパ悪いだろ……」


 アルトは効率的なことが大好きな――いわばコスパ厨だった。

 そんな彼からすれば、おめかしのために高い服を買うなんて、あまりにコスパが悪いことだった。


「相変わらずコスパ厨だなぁ。でも、アルトがオシャレに興味ないのはいいけど、女の子がおめかししてきたら、褒めなさいよ」


 リリィは笑いながらそう言う。

 いつも通りの服であるアルトに対し、リリィは美しい純白の衣装に身を包んでいた。


「……服なんてほめられて嬉しいのか?」


「そんな疑問も持たずに褒めなさい。一言で気持ちよくなるんだから、コスパいいでしょ?」


「そうか。じゃぁ。キレイだな」


「……雑」


 ――そんな話をしながら、二人は神殿へと歩いていく。


 街の神殿につくと、そこには今日まさに誕生日を迎えた少年少女たちが集まっていた。


 彼らは神官が待つ壇上に一人づつ登っていく。

 そして、緊張した面持ちで鑑定の結果を聞く。


「ジョン。魔法回路――2」


 魔法回路の数は、同時に発動できる魔法の数を示している。

 これが多いほうが戦闘に有利なので、冒険者などの職に就きたいならば高いほうよい。


 ちなみに2というのは、最低レベルである。

 というのも、冒険者は常に身を守る結界(ライフバリア)を張りながら戦う必要がある。

 そうでなければ敵の攻撃を一撃受けただけで死んでしまうからだ。


 そして最低でも2はないと、結界を張りながら攻撃魔法を使うことができない。

 なので2というのが最低レベルなのである。


「続いて成長適性――

 結界魔法E

 火炎魔法D

 水氷魔法E

 神聖魔法F

 物理魔法E

 強化魔法E

 鑑定魔法E

 ……」


 成長適性というのは、その人がどれくらいその種類の魔法を効率よく習得できるかを示している。


 今壇上にいる少年の場合は、なんとも低いステータスで、おそらくこれでは冒険者は難しいだろう。


 案の定鑑定を受けた少年はうなだれながら、壇上を後にする。

 


「次――」


 それからも続々と少年少女たちが神官の前に進んでいき、鑑定を受けていく。


 アルトとリリィも列に並びその瞬間を待つ。


 そして、ようやくその時が訪れる。


「リリィ――」


 壇上に進むリリィ。

 アルトは固唾を飲んで見守る。


 神官がリリィに水晶をかざし、その力を確認する。


「おおッ!!!」


 と次の瞬間、神官が驚嘆の声を上げた。


「魔法回路――7!!」


 神殿がにわかにざわつく。


 魔法回路7。

 これは最高レベルであった。

 7つもの魔法を同時に操ることができる。

 これはトップクラスの才能だった。

 

 かつて魔法回路7を持った人々は、すべて超一流の魔法使いになっている。

 何百万人に一人の逸材だ。


 いつも一緒にいた幼馴染が、世界を変えられるような才能を持っていたことに、アルトは驚いて言葉を失った。

 急に彼女が遠い存在のように感じられた。



「――おおッ!!!!!!!」


 そして、驚くことはそれだけでは終わらなった。 

 神官はさらに驚くべき鑑定結果を下す。


「続いて系統適性――

 結界魔法A

 火炎魔法A

 水氷魔法A

 神聖魔法S

 暗黒魔法A

 物理魔法A

 強化魔法A

 鑑定魔法A

 ……」



 すべての魔法系統で適性A、そして神聖魔法に至っては適性S。


 一つでもBランクを持っていれば強力な冒険者になれると言われるのにも関わらず、である。


 つまりリリィは才能の塊ということだ。


 神官ももはや開いた口がふさがらないという風であった。


 リリィは壇上から降りてきてもポカンとしていた。

 アルトも驚きすぎて、何も言えなかった。


「次――アルト」


 そして驚いているうちに神官がアルトを呼ぶ。


 アルトはまったく心の準備ができていないうちに壇上へと向かう。


「まず魔法回路――」


 神官が水晶をのぞき込む。


 ――そして、アルトの適性を告げる。


「――――1、だ」


「……え?」


 アルトは思わず聞き返してしまう。

 聞き間違いだと本気で思った。


 だって、そんなのありえない。


「……あの、もう一度言っていただけますか?」


 アルトが聞くと、神官は気まずい表情を浮かべていた。


「……1だ」


 聞き間違いではなかった。


 魔法回路は2の人が圧倒的に多い。

 逆に言えば1というのはほとんどいない。


 魔法回路1。即ち、結界魔法を張ったら、それで終わり。

 他の攻撃魔法は一切使えない。


 つまり、アルトに戦闘は事実上不可能だということだ。


 ――だが、アルトに告げられる残酷な言葉はそれだけではなかった。


「続いて系統適性――

 結界魔法F

 火炎魔法F

 水氷魔法F

 神聖魔法F

 暗黒魔法F

 物理魔法F

 強化魔法F

 鑑定魔法F

 ……」


 まったく笑えない。

 すべての成長適性がF。

 すなわち、アルトはすべての魔法に向いていない、ということだ。


 アルトは全ての魔法の成長が著しく遅い、いわゆる<ノースキル>というやつであった。


「そ、そんな……」


 一流の冒険者になる。

 そのアルトの夢が完全に否定された。

 それどころか、おそらく普通の仕事に就くことさえ難しい。


 それがアルトに告げられた鑑定結果だった。


 †


 アルトはそのあとのことをほとんど覚えていなかった。


 気が付いたら、自室に帰っていた。


 人生が決まる適性の儀。

 そこで下されたのは、魔法適性ゼロという現実。


 魔法を一つしか発動できず、しかも全ての系統で上達するスピードが他人より遅い。

 これでは冒険者はおろか普通に稼ぐのだって難しいだろう。


 絶望とはまさにこのことを言うのだ。


「おい」



 と。

 アルトの前に、実の父親であるウェルズリー公爵が現れた。



「……父上」


 魔力適性に恵まれ、一代で公爵に上り詰めた父親。

 その男は、息子にあまりにひどい現実を突きつける。

 

「この家から出ていけ。息子がノースキルなんてバレたら、ウェルズリー家の恥だ」


「――ッ!!」


 アルトは父の言葉に絶句する。


「我が家の跡取りは、弟に継がせる。お前は二度とウェルズリーの名を名乗るな」


 ――こうして、アルトは問答無用で実家を追い出されたのだった。


 †

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