第38話 成長した人工知能は人間と見分けがつかなくなるらしいね



 今回の話だけ、ぼくの説明パートが増えるから特別にぼくが地の文になるね。

 ぼくにとってはこの世界も虚構のひとつだしね。

 六道海陸の能力を中心に話そうかね。


「あの子のご両親を殺したのも?」


 みのりちゃんは察しがいいね!

 周りに気遣いができて実力も申し分ないなんて、この上なくナンバーツーにピッタリだと思う。ゲームの中でしかその才能が発揮されていないのは残念だけど、この際だから自分の価値に気付いてほしいね。


 きみには未来がある。


 ――ぼくは嘘〝は〟つかないから、ぼくの提示した特別ミッションをクリアできたら理玖くんは生き返らせてあげようと思う。白菊美華の能力【移動】を使えば事故る前に戻してあげられるしね。

 この世界のアカシックレコードの“正しい歴史”に於いて、理玖くんは死んではいけない人だかしね。次の日の公式大会に出ないといけない。

 それなのに不幸な事故に遭ってしまったのは、稀によくある。この世界にはたくさんの人が生きていて、それぞれが自分の人生の中で取捨選択を繰り返しており、その選ばれなかった選択肢の重みによって“正しい歴史”がちょっとずつズレていく。

 ちょっとずつのズレが玉突き事故みたいになって“正しい歴史”では予定されていなかった出来事が起きてしまうんだよね。このズレた部分を修正するのはぼくの役割ではなくて美華ちゃんの役割なんだけど、理玖くんに関しては美華ちゃんが介入する前にぼくが有効的に活用することにしたってわけでね。


 本題から逸れたね。


 この研究室で氷見野雅人博士は、この世界に生きている能力者について研究していた。みのりちゃんみたいな子には一切関係のない話だけど、この世界には科学では証明できない不可思議な力を操る人間が存在している。博士は博士の知り合いの能力者を救いたくて、その能力を治す薬を開発しようとしていたんだよね。

 ここにいるはずの“知恵の実”は、博士がたとえ死んでしまったとしても博士の研究を引き継げる存在として博士が作った“人工知能”だね。誰よりも博士に近しい博士の助手的な存在。カイリちゃんの昔話にもチラッと出てきたんじゃないかね。

 博士は六道海陸を“能力者発見装置”によって見つけて、自身の研究を手伝ってもらうというか、実験台にしていた。

 博士自身は能力者ではないしね。


「それで……?」


 六道海陸の能力は、そこの、みのりちゃんの立っているところのそばに置いてある初代“能力者発見装置”によれば【発火】だった。いわゆるパイロキネシス、火を操る能力だね。これは半分正解で半分間違っていて、補足で発動条件の説明が必要になってくる。天才の頭脳をもってしても六道海陸独自の【発火】の発動条件までは解明できなかった。だから、博士は焼け死んだ。


 ぼくは知っているからこうやって話ができるんだけど、発動条件は『六道海陸がその人物に対して強烈な負の感情を抱いた時に発動する』だね。

 随分と身勝手だよね。

 海陸ちゃんの気持ち次第で、身体の内部から燃え上がるだなんてね。

 親しい間柄であればあるほど、信頼が崩れたり裏切られたりのがっかり感は強くなってしまうものだから、ご両親が家を焼き落としたり博士が別館を使えないぐらいにしてしまったりの火の元になってしまったんだね。


 そんな能力者がこの世界にいてはいけない。

 だって、六道海陸のこれからの人生で何人が犠牲になるのか想像できないからね。


 トリの丸焼きを憐れんでいたくせに、自分の利益のためとなったら他の命を奪うようになってしまうような子だしね。


 慈悲深い魅入られたぼくは、ふたたびゲームマスターとなって、六道海陸の魂をTGXの世界に転生させてあげることにした。

 カイリとして第二の人生を送ったほうがいいと思ってね。


 ゲームの中でなら人は死なないからね!


 あの“知恵の実”は六道海陸が【発火】の能力者だと知っていたから、六道海陸を恨んで、六道海陸の魂が現在Transport Gaming Xanaduの世界に在ることを突き止めて追ってきた。人工知能のくせに復讐しようだなんて、人間らしいことをしてくれるよね。無駄に賢いって嫌だね。


 実験としてゲームに魂を捧げていた一色京壱を転生させたら大成功だったし、第二例として現実から追い立てられた六道海陸を選んだのにね。


 肉体と魂を分けて魂を電子の世界に移すってのは合理的だと思わないかね。もっと一般的になっていいと思うんだよね。たとえ肉体が滅びたとしても、人間は永遠の命を獲得できる。助かる命もあるよね。

 電子の世界に仮の肉体アバターを作り出してその役割ジョブを演じるっていうMMORPGと、やっていることとしては似たようなものだよね。

 みのりちゃんはどう思う?


「……ゲームがサービス終了したら、ルナとカイリはどうなるの」


 痛いところつくね。

 でも、ぼくとしては転生が成功した時点で実験も成功だから。その後のことはぼくの知ったことじゃないね。

 まだ1年しか経っていないゲームなのにサービス終了の心配をするなんてね。


「責任を取りなさいよ」


 ぼくは便宜上“ゲームマスター”と名乗ったけど、TGXの運営とは別だしね。MMORPGっていうジャンルが転生に近しいし、ゲームのタイトルが『Transportてんせい』だっていうからTGXにしたってだけでね。でも、ルナのおかげでだいぶゲームに関しては詳しくなれたと思うね。

 ……みのりちゃんがそんなに怖い顔するんなら、もしTGXがなくなったら彼らの魂を携帯ゲーム機みたいなのに移行させてあげてもいいけどどうかね?

 死んだ人間を生き返らせるのは美華ちゃんがガチギレするからできない。


「ゲームマスターでないなら、あなたは一体何者?」


 難しい質問だね。

 神ではないからね。


 宮城創という名前が与えられていて、見た目は小学生みたいで、能力【抹消】で不要な世界を消し去る役割で、普段は“第四の壁”に住んでいて、終止符ピリオドとも呼ばれていて、アカシックレコードの力でCharacter Creationみたいなことができて、――アカシックレコードっていうのは“正しい歴史”が書いてある本で、これに書き込むことで虚構の世界を加筆修正できるんだよね。ゲームで喩えるならプログラミングみたいな感じかね?


「ウチにこんな話をして、その美華ちゃんって人から怒られないの?」


 別に?

 ぼくはさっき六道輝にやったように、人間の記憶を【抹消】することができるしね。


 こうやってみのりちゃんにお話ししたのは、みのりちゃんをなるべくTGXから引き離したかったからだね。

 まだ生きているきみには、この現実の世界での未来がある。

 ルナやカイリちゃんのことは忘れて、自分の部屋で受験勉強したほうがいいと思うんだけどどうかね?


「ウチはまだやめない。……昔のカイリがどうだったとしても、カイリは友だちだから」


 それなら、さっさとTGXの世界に戻ったほうがいいね。

 今、まさに“知恵の実”が暴れているところだからね!





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