第25話 私はお見舞いのケーキを食べている

私の足が治るのに、1ヶ月以上かかるらしい。


 折れたところが悪かったらしく、しばらくしっかり固定して動かしてはいけないと言うことだ。


 何で病院じゃないのだろう。不思議に思って聞いたら、病院より家の方がセキュリティがしっかりしているからという返事が返ってきた。


・・・私,、また襲われる疑惑があるの?


 でもあの強い力。一撃で私の足が折れ曲がるほどの力。女の子があんなに強い力を出すものなのだろうか?




 そのことも含め、あの3人が何をしたかったのか、おじいさんに聞いてみた。


おじいさんにも、百華さんの力については分からないらしい。普通の子だと認識していたようだ。




3人が私に絡んできていたわけについては、まだよく分かっていないと言うことで教えてもらえなかった。




 後の裁判で明らかになるだろうと言うことだ。さらに聞くと、この世界では15になると大人と同じ扱いを受けるそうだ。彼女らは・・傷害、もしくは殺人未遂で訴えられ、裁判に掛けられる。


「心配しなくていいよ。・・・それぞれが優秀な弁護士を付けてくるだろうさ。家もね。この世界では、対面しなくても裁判は進む。


・・・もし出なければならないとしても、弁護士が付いている。・・・何しろ6歳だ。倫子ちゃんにその場に出ろとは誰も言わないさ。」




 あの3人の上に見えた黒いもやの話もする。


 おじいさんは、


「倫太郎も見えたと言っていた・・・ううむ。


 倫太郎も一緒に話した方がいいかもしれないな。」




 あの後の対応も教えてもらった。


 井部先輩が入ったことで、あの3人は言い逃れが出来なくなったそうだ。


 救急車が学校に来る騒ぎとなり、警察もやってきたそうだ。そのおかげで一時は学園封鎖までする騒ぎになったとか。




 警察まで来ては、学園として隠し通すわけにはいかず・・(倫子の存在なども公になりそうになったらしい。)・・・でも、中都国政府が動いてすぐ報道規制になったそうで、日の本連合の中枢には倫太郎の関係者が華国の関係者に襲われてけがをしたと言うことで漏れてしまったけれど、他には情報が流れなかったらしい。


 おじいさんはかなり対応に苦慮したのではないだろうか。




・・・・・




 寝ていてもすることがないわけじゃない。ちょうどもうすぐ夏休み前のテストだと言うことで、テストを受ける代わりのたくさんのレポートを出さねばならないからだ。




 勉強も進む。相変わらず、力を具現させる方法は分からないままだが。


 歴史とか、天文は・・とにかく暗記だ。


 ありがたいことにこの頭は知識をよく吸収してくれる。




 薬学に関しては、意外と私の世界の知識が役に立つことが分かった。根っこは同じなのかな。




 菜の花に多く含まれている葉酸、ビオチン、鉄、グルコシノレートなどがこの世界の子どもに特に必要な物質だ。・・・この世界の植物には葉酸がとても少ないのだそうだ。


 特に私の世界の菜の花は、こちらの世界のものの何倍も多く葉酸を含んでいるらしい。持ち込んだ菜の花はなぜかこちらで金色に変化し、さらによく分からないこの世界にだけある有益な成分が生じたとか。




 この有益な成分を当時倫太郎君はたくさん必要としていたらしい。この世界の子どもに必要な量の何倍も。




 よく分からなかった呪術も、少しずつ理解してきた。


 やはり魔法のようなものと解釈しても良さそうだ。


 私の世界にはないもの。・・・おとぎ話のような。


 私の世界のものと少し違う言霊という考え。・・・「言霊が守る」と言う考え。


 私の世界と違う・・・イイエ ココガ アナタノ セカイ・・


 何か声がした。もう一度聞こうと思って耳を澄ませても聞こえなかった。空耳か。


 レポートも進む。これで単位はばっちりだろう。








 夏休みの2~3日前、広川さんと山名さんと英田さんがお見舞いに来てくれた。クラスのみんなからだというお見舞いを持って。


 事件のことを知ったのは、広川さんはすぐ。英田さんと山名さんは広川さんから連絡をもらってからだそうだ。


 なんと広川さんは清水嘉穂さんにだまされて職員室に行ったらしい。


 驚いた。ひとけが全くなかったのもあの3人が何かしたからなのか・・・?


3人から事件の後の話を聞く。


 翌日はいろいろな噂が学園を飛び交ったようだ。


 一番多かったのは、嫉妬に狂った藤井百華が私を襲ったという説らしい。


・・・・・6歳児に嫉妬・・・



「私たちがうっかり目を離したために、怖い思いさせてごめんね。」


 英田さんが済まなそうに言うけれど、四六時中私を見ているわけになんかいかないのは分かっている。


「そんなのお姉様方のせいじゃない。あの3人の怖い方たちが悪いのよ。」


 そう言ったら、山名さんがにやりとして


「あの怖い人たちはすぐに学園をやめていったわ。」


 と言った。やっぱり。


 あの3人は、華国に留学するという名目で学園を去ったそうだ。


 なるほど。留学とはうまい言い訳だ。


「でも、何がおこったかは、みんな知っていますわ。」


「倫子ちゃんのけがは一目瞭然ですもの。


 ・・・彼女たちはおそらく、少女院に入ることになるでしょうね。」


広川さんが言う。裁判は大人と一緒で、入るところは大人とは違うそうだ。大人に染まらないようにという配慮か?


続けて山名さんも、 


「もし、何らかの理由で情状酌量になったとしても、連合国内ではどこも受け入れる学校、学園はないと思うわ。」


と言う。


「城山の家の者に害する方々なんて。日の本連合にはいられないってことですよ。」

英田さんがしめる。


 ・・・どうも城山家の立ち位置がよく分かっていない。私のはてな顔を見て3人は笑う。 


「後で倫太郎君に聞くといいですよ。」


聞きますとも。教えてくれるかどうか分からないけれど。


・・・・・

・・でも・・聞いてみようか。


 「倫太郎君の力ってなんなんですか?」


 不意に聞いた私を3人ともびっくりして見た。


 「私は何も分かっていないんです。」


 3人とも首をかしげる。


「実は私たちも倫太郎君の力のことをすべて知っているわけじゃないの。


 ついでに言うと・・倫子ちゃんのことも・・・,

 ・・・あの3人が本当は何を狙っていたかなんてことも知らないわ。」


 ・・・知ってはいけないことみたいだし・・・小さなつぶやき・・・広川さんか。


「でも、倫太郎君の力は・・とても大きくて偉大な力らしいわ。


  親から聞いただけの話だけれどね。」


・・・・・・・・


「あの3人の話はもうおしまい。


さ。これ。お見舞いだけど。一緒に食べようと思って持ってきたのよ。」


 3人の持ってきてくれたこの街の名物のお菓子をつまむ。


 「これ、美味しいですね。」


 「街の外れにあるラプ・ブルーメって言うお店の焼き菓子よ。」


 「私も好きなの。それ。」


 今度、倫太郎君に連れて行ってもらおう。あれ・・・もしかしたら一番最初に脇を通ったあの店かしら。帰りに寄ろうねって言ってたくせに、よらずに帰ったあのお店。


 3人にその場所を言ったら、まさしくそのお店だった。


 今度、お店の中にティールームも出来たそうで、お店のお菓子とか、珍しいお茶とか、そのほか限定スイーツが賞味できるらしい。


「おすすめは、季節の果物のタルトよ。」


「この前行ってきたの。」

と、うれしそうに山名さんが笑う。


「あ~さては・・・デートで行ったな?」


英田さんが続ける。


その後も、体育の話やテストの話など、当たり障りのない話で盛り上がった。


 「倫子ちゃんと話していると、6歳の小さな子と話している気がしなくなることがあるのよね。」


 そんなことを言いながら、3人はまた来るわね。と言って帰って行った。





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