眠り

「い、今のは?」

「今のはオーガー。ランクAだから、それなりのモンスターだ。まぁ、俺達三人が揃っていれば問題ないけどな」

「結構皮膚が硬かったからびっくりしたけど……」


 肩を落とし、ルーナは拳銃を腰のリボンに戻した。

 星壱郎は心配そうに彼女を見ており、ふと目が合う。すると、急に顔を赤くし、慌てた様子でフォンセの背中へと隠れてしまった。


「あれ、俺なにかしちゃった?」

「いや、こいつは少しだけ人見知りなんだよ。自分に視線がなければ問題ないが、目が合ったり話しかけるとこうなっちまう」


 フォンセの服にしがみつきながら、ルーナは半分だけ顔を出し星壱郎を見ている。

 その様子を見た彼は、安心させようとできる限り優しく笑み浮かべ、フォンセを挟み近づく。

 目線を合わせ、右手を差し出した。長い黒髪が肩からスルッと落ちる。


「いきなり俺みたいなのがお世話になってごめん。今すぐじゃなくてもいいから、ゆっくり距離を縮められたらいいなぁ」

「…………うん」


 差し出された手を握ることは無かったが、ルーナは顔を頷かせ意思表示を見せた。その事に、カマルとフォンセは目を開き、驚きの表情を見せる。


「これは驚いたな」

「おう」

「え、何がですか?」

「ちょっとな」

「? そうですか……。それにしても、ここまでの人見知りか……。まぁ、完璧に俺の小説内ってわけじゃないってことだよな……」


 フォンセが口元に手を置き、くすくすと笑いながら答えている。

 星壱郎は眉をひそめながら見上げ、姿勢を戻し、顎に手を当て考えながら小さな声でボソボソと呟いている。だが、その呟きは二人に届いておらず、最初の質問にだけ正確に答えた。


「だって、だってよ!!! あの、人見知りなルーナが出会ってまもない男に心を開こうとしているんだぞ。そりゃびっくりするだろ!! 俺なんて、何ヶ月も近づくことが出来なかったんだぞ!!」

「確かに、カマルの時は本当に大変だったな。何度話しかけても無視、または存在否定。あの時は大変だったよ」

「思い出させないでくれよ兄さん!!」


 少し泣きそうな顔を浮かべるカマルを横目に、フォンセは軽く笑い、ルーナは小さな声で「ごめんね」と呟いている。


 そんな三人に、星壱郎は先程の恐怖が吹っ飛んたのか、安心したように口を押え、大きな声で笑った。

 それを見たルーナは、少しだけ目を輝かせ、先程とは違い、薄く頬を染める。


「ん? どうしたんだルーナ」

「な、なんでもないよ」

「? そうか」


 そんな時、星壱郎が突然顔を歪めた。


「っ!」

「ん? どうした?」

「いや、ちょっと足首に少しだけ痛みが……。おかしいな、さっきまで何も無かったのに……」

「見せてもらってもいいか?」

「あ、お、お願いします」


 フォンセが心配そうにその場に膝をつき、星壱郎にも座るように促す。

 足に負担をかけないように座り、それを見た彼は足首に優しく触れた。

 

 その隣では、カマルが眉をひそめ覗き込み、フォンセの後ろからはルーナが胸元に手を置き覗いていた。


「っ!!」

「あ、悪い。恐らく足を捻ったんだろうな。…………いつだ?」

「…………アドレナリン出ていたので分かりません……多分」

「そうか……」


 あえて何も言わないで、フォンセはルーナへと顔を向けた。


「ルーナ、治せるか?」

「…………多分、大丈夫……」


 彼がそう問いかけると、ルーナは少し戸惑いがちにフォンセの背中かから出て、星壱郎に近づき、痛みのある足首に両手を近づかせる。


「な、何を?」


 星壱郎が不思議に首を傾げていると、ルーナの手の平から、薄紅色の淡い光が出始め、彼の足首を照らす。


癒しの光ヒール・ヒーリング


 そう呟くと星壱郎は目を見開き、ルーナの手元をじっと見続けている。

 スカートがふわふわと揺れ、藍色の瞳がキラキラと輝いている。


 それから数秒後、光は徐々に薄れていき、完全に消えた。


「ど、うですか?」

「え、あ……。痛みが、無くなってる?」


 本当に痛みが無くなったのか確認するため、星壱郎はその場に立ち上がり、左右に少し歩いたり、その場でジャンプしたりと。

 色々と試しているが、顔を歪めることはなく、逆に驚き、目を開きながらルーナとフォンセを見下ろしている。


「痛みはなくなったみたいだな。ルーナがいてくれて助かった」

「ううん。これが私の仕事だから」

「本当に助かったよ。ありがとう」

「い、いえ。大丈夫、です……」


 星壱郎が彼女に優しく微笑みかけると、顔を赤くし、またしてもフォンセの後ろへとルーナは隠れてしまった。その事に星壱郎は慌てるが、カマルとフォンセは顔を見合せ、優しく笑いあった。


「さて、まだ太陽が昇るまで時間はある。もう一眠りするか」

「「はーい」」


 フォンセの言葉に、カマルとルーナは元気そうに手を挙げ返事をし、元いた場所へと戻っていき、流れるように横になり瞳を閉じた。


 星壱郎もまた元の場所で横になり、また眠くなるのを待つことにした。

 目を閉じ、寝返りを打ち続け、今回は約三十分程度で眠りにつくことが出来た。


 その際、フォンセは目を閉じていただけらしく、星壱郎が眠りにつくタイミングを見計らい、藍色の瞳を開けた。


「……異国からの来門者……か。今後、こいつはどうなるのか……考えたくないな」


 そう呟いたフォンセの瞳は、何故か悲しげに揺れていた。

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