曖昧さの中の違和感

「レオルドさま……! 」


遺体の顔を見たレディイザベラの瞳からこらえていた大粒の涙が零れ、よろよろと遺体に向かい、ついには遺体横に座り込み、声を殺して肩を震わせて泣いていた。

チャラい……いや、軽い男性かはわからないじゃないか。

彼の人となりは彼女の話だけでは輪郭すら留めない、曖昧なものだ。

しかしながら、年頃の娘の囁かな幸せであったことには変わりない。

公爵令嬢ともなれば政略結婚の対象。

今ではそこまで拘る貴族も少なくなって久しいが、現ヘルミール公爵といえば現老国王の三番目の姫君を奥方に娶って、侯爵から公爵にランクアップした貴族さまで、。故にレディイザベラは皇族の血を引いている公女さまだ。

そんな彼女が爵位もわからぬ、家名も知られていない男性と懇意にしているのは好まれない。

いづれ、皇太子か伯爵以上の高位貴族の令息に嫁がなければならない身の上ならば、叶わずとも両想いになれずともときめきの時間は必要だろう。

しかし、なんと残酷な終わり方か。

きっとレディイザベラの胸に消えぬ傷跡が遺ろう。


「……こんな形で夢の時間が終わるとは思いませんでしたわ。依頼は破棄します。少なくとも、は分かったのですから、亡骸を暴くような真似はしたくありません。連れてきて下さり、ありがとうございました」


切れが良すぎてこちらが後味が悪い結果となった───。

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