第16話 後ろから攻めてきた子


 僕は森盛もりもり まりなさんが、夜這いに来ると思い。

 温泉の中で、入念に身体を洗った……特に股間を。

 だが、僕のいるテントに彼女が現れることはなかった。


 おかげで、一睡もできず。

 僕は寝不足だ。

 今日は、みんなで九重山に登るから、スタミナが必要だと言うのに……。

 

 イライラしながら、共同の洗面所で歯を磨いていると、後ろから声をかけられた。


「あ、童貞くん。おはよう」


 昨晩、森盛さんが来てくれなかったので、僕はイライラしていた。


「チッ……ああ、なんだ。植田うえださんか」


 別に植田さんは悪くないのに、当たってしまう。


「ご、ごめん。朝が弱いの?」

「いや……そういう訳じゃないけど」

「今日、一緒に山へ登るでしょ。頑張ろうね♪」

 と優しく微笑んでくれる植田さん。

 だけど、僕は昨晩のことを引きずっていたので、塩対応だ。

「うん。分かった……」


 小さな胸の前で、拳を作ってみせる植田さんを放置し、その場を去る。


(はぁ、何が山登りだよ……。小学生じゃないんだから)


  ※


 パワハラ先生から、事前に九重山の厳しさだけは注意されていた。

 少しでも間違えれば、崖から落ちて死んじゃう……。

 だから、列を崩さず、みんな一緒に歩けと。


 確かに登り始めて、息は荒くなるし、膝も痛い。

 何が楽しいのか、さっぱり分からない。

 自衛隊の厳しい訓練みたいだ。


 1つの山を越えて、大きな石が転がる下り坂をゆっくり歩く。

 石と石の間を歩くため、地面が不安定だ。

 だから、みんな少しずつしか歩けない。

 僕は前の男子が降りるのを待っていた。

 すると、次の瞬間。誰かが僕の背中に抱きついてきた。


「キャッ!」


 ぷにゅっと何か柔らかい感触が、背中に伝わる。


(こ、これは!? まさか……)


 ゆっくりと振り返ると、そこには三つ編み姿の植田さんが立っていた。

 瞼を閉じたまま、僕の背中に顔を埋めている。

 いや、抱きついていると言うべきか。

 これは……逆“あすなろ抱き”だ!


「あ、童貞くん。ごめん、足がすべって……」


 僕の背中から顔を離し、頬を赤くする。

 そして、上目遣いで僕を見つめていた。

 この間数秒ぐらいだと思うが、植田さんは、僅かに盛り上がった自身の胸を僕に押しつけている。


(や、やはり……小さ過ぎて分からなかったが。これは間違いなく、植田さんの微乳だ!)


「いいよ……植田さんこそ、ケガない?」

「うん。童貞くんが下にいたから、助かったよ♪」

「ああ、それなら良かったね」


 それからの記憶はとても曖昧だ。

 頭の中は、植田さんの胸でいっぱいだったし、股間が暴走するから、常に前かがみ。


(めっちゃ気持ち良かったやん! やっぱ植田さんにしよう!)


 帰宅後、しばらく植田さんの言動について、考えてみた。

 彼女は何故、僕に抱きついてきたのか……。

 どう考えても、僕のことが大好きだから、背後からハグしたに違いない。

 ん? そうか!

 植田さんって控えめな性格だと思ったのに……。


 初めてを後ろから、攻めて欲しいということか!

 まったく、悪い子さんだな♪

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