第4話 堅石さんは可愛い



 堅石さんの肌色の姿を忘れるため、僕はリビングで明日までの宿題をやっていた。


 だけどリビングまで聞こえてくるシャワー音が、彼女の裸を思い出させてしまい、あまり集中は出来なかった。


 その後、堅石さんが風呂から上がってきた。


「本日も空野さんが洗ってくださったお風呂はとても気持ちよかったです。ありがとうございます」

「うん、それはよかったけど」

「勉強をしてらっしゃるのですか。私もご一緒していいですか?」

「あ、うん、それはいいけど、堅石さんは明日の宿題終わったんじゃない?」

「終わっていますが、勉強自体は宿題などがなくても出来ますので」


 堅石さんは自室に戻り、勉強道具を持ってきた。

 一緒にソファの前にあるローテーブルに教科書などを広げ、床に座って勉強をし始める。


 だけど……なんで堅石さんは、僕のすぐ隣にいるんだろうか?


 目の前に座ればいいのに、なぜ彼女は僕の隣に?


「その、堅石さん」

「ん、なんでしょう。どこかわからないところがありますか?」

「あ、まあ、そうだね。数学のここがちょっと難しいかな」

「そこですか、そこは……」


 そう言って隣で堅石さんは説明をしてくれる。


 なるほど、勉強の説明をするために隣に座ったのか。

 対面に座ると教えづらいからね。


 だけど、こうも近いと全然集中が出来ない……!

 お風呂に入ったばかりだからか、堅石さんからめちゃくちゃいい匂いもするし……!


 この後も二人で並んで勉強をしたが、僕は宿題を終わらせただけで、申し訳ないけど何かが身についたわけではなかった。



 その後、十時を過ぎたあたりで堅石さんが寝る時間がきた。

 彼女はとても健康的な生活で、十一時は超えて起きてることはほとんどない。


「じゃあ僕は自分の部屋に戻るよ」


 バイトが終わってからずっとこっちの部屋にいた僕だが、さすがに彼女が寝る時は自分の部屋に戻る。


 荷物を持って玄関のほうに行き、靴を履いていると堅石さんが見送りに来てくれた。


「本日もありがとうございます、空野さん」

「うん、明日もよろしくね」

「はい……またお手数おかけすると思いますが、よろしくお願いします」


 やっぱり最後までお堅い堅石さん。

 だけど今日は何度も失敗してしまっていたからか、いつもよりお堅い気がする。


「堅石さん、明日は僕もバイトはないし、一緒に部屋の掃除をしてみようか」

「っ、ですが私は空野さんもご存知の通り、掃除もまともに出来ません。また空野さんの手間を増やすと考えると、やらない方が……」


 やはりまだ少し落ち込んでいる堅石さん。


「あ、いえ、もちろん本当なら空野さんの手間を減らすために手伝いたいのですが、手伝えば失敗してしまうと考えると、最初から手伝わない方がいいと思いまして」

「堅石さん、さっきも言ったでしょ。最初から全部出来る人なんていないんだから、失敗していいんだよ」

「……ですが」

「それに、堅石さんが一人で家事が出来るようになるまで、俺はいつまでも付き合うつもりだから」


 僕がそう言うと、堅石さんは少しだけ目を見開いた。


 そして……、


「空野さん……本当に、ありがとうございます」


 今日一の、とても綺麗で美しい笑みを見せて、お礼を言った。


「では、頑張ってやらせていただきたいと思います」

「う、うん、そうだね。頑張ろう」

「はい」

「じゃあ、おやすみ、堅石さん」

「はい、おやすみなさい、空野さん」


 僕は今の笑みを見てものすごいドキマギしながら、別れを言ってからドアを開けて外に出た。


 もう十時を過ぎた夜なので、春だけど少し肌寒い空気。

 その空気が僕の赤くなった頬を少し冷ましてくれる。


 はぁ、やっぱり堅石さんは、とても可愛い。



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