拘束プレイとタコ

「わぁ、たこだ。たこ焼きにしたら美味しいかな」

「……プリンが作らないなら、美味しいと思う」

「……さてはバカにしてるな?」


アカは視線をあさっての方向へ向けた。


「さ、戦闘準備!」

「……後で詳しく聞くからね」


アカは黒い刀身を生やし構え、私は銃を取り出し構えた。


「ホワイト」


私の周りにシールドが張られる。


「【捕獲】【氷の世界】【霰雲】【威圧】【公爵の威厳】」

「【死界】」


地が凍てつき、霰が降り、濃霧が立ち込めた。


そして、私たちを無数の触手が襲った。


私を襲った触手はシールドが弾き、アカを襲った触手は綺麗に避けられた。


「プリン!まずは1だけ込めて装填して!様子みたい!」

「おっけー。【氷雪装填】」


私は襲い来る触手に狙いを定めて引き金を引いた。


パァンッ。


かわいた音と共に射出された弾丸は触手に直撃すると、少しだけ凍らせた。


しかし、タコのHPは1ミリも減らなかった。


「あれ?なんで?」


当てたよね。もしかして威力不足すぎた?


アカをみると、触手を切り落とし、応戦していた。次々と減っていく触手とは対照的に、タコのHPは減らない。


「ちっ。プリンっ。たぶんこいつ、触手攻撃してもダメージ入らない!体の方攻撃しないと!」


あぁ、なるほど。そゆこと。


「まかせてー」


体狙えばいいんでしょ、らくしょう。


私は触手を避けて体の方に狙いを定めて引き金を引いた。


しかし、体へと届く寸前で、弾丸は触手に防がれた。


「げ」


これ、まずいかも。


私の放つ弾丸は、着弾した箇所を凍てつかせる。そのため、着弾した物体にダメージを与え壊すことは出来ても貫通はしない。


つまり、触手で防がれると体には届かない。


「相性悪っ。アカっ、へるぷ」

「ごめんっ!こいつ私とも相性悪い!」

「まじ?」

「まじ、だってこいつ切ったら増えるもん」


そういえば、心無しか触手の数が増えてるような気がする。


アカは魔術師だと言っても、死霊を召喚して戦わせるので、基本物理ダメージしか与えれない。魔法を使える死霊を召喚出来れば別だけど、今はできない。


アカは遠距離攻撃には乏しかった。


近づこうにも触手が邪魔で近づけない。触手を減らそうにも切ると増える。


触手は切らなければ増えずに弱るみたいで、アカは峰打ちで対応していた。


このタコを倒すには、触手を貫いて体にダメージを与える遠距離攻撃か、打撃系の武器かが必要。


あるいは雷系統スキルなら、触手越しにダメージを与えれるかもしれないが、どちらにせよ、私たちは持ってない。


触手を弱らせて、倒すしかないんだろうけど、長期戦は避けたい。


……よし、あれ、使おう。


「アカ、できるだけ触手引き受けて」

「いいよー【挑発】【死霊魔法・死霊召喚ゾンビ】と、【死霊魔法・死霊強化】」


触手がアカに惹き付けられ、ゾンビが十体現れさらに強化された。


現れたゾンビは各々が触手にかじり付き、触手を止めた。


そして私は、1つのスキルを発動する。


「よし。【クリスタル】」


そう呟くと、私の周りに半透明の青い、1メートルほどのクリスタルが10個ほど生まれ、浮かび上がった。


このクリスタルはある程度自由に操作でき、このクリスタルから1mの範囲に居ると、魔法の効果に補正が少しかかるというもの。


8万リルだった。


普通に使ってもまぁ、有能ではあるけど、私はこのスキルを移動用のスキルとして獲得した。


私は氷鎖を取り出すと、自分の腰の辺りにグルグルとまきつけた。そして、氷鎖を伸ばしてクリスタルに巻き付けると、思いっきりクリスタルの方向へ私を引いた。


当然、私の体はクリスタルの方へ引っ張られ、宙に浮く。


クリスタルに近づくと、私はまた別のクリスタルへ氷鎖を伸ばしてまた私を引っ張った。


それを繰り返し、私は空中を高速で移動した。


「いぇーいっ!たっのしぃー!」


触手を避けながら、タコの体に近づく。


「【氷雪装填】」


ここまで近ければ、触手に防がれる前に当たる。


百の能力値を込め、引き金を引いた。


パァァァンッッ!


強烈な音とともに放たれた弾丸はタコの体に直撃すると広範囲にわたって凍てつかせた。


そして、タコのHPは半分ほど一気に減った。


お、結構減った。HP低いのかな。


あと1発当てれば私の勝ちか。


「プリンー。そっちにタゲったー」

「おっけー。問題ないよー」


アカを襲っていた触手群が大ダメージを与えた私に襲いかかる。


うへぇ、この数はキッツイかも。


「ホワイト。避けきれなかったやつだけよろ」


そう言うと、ホワイトは1度震えた。


ホワイトはなにか伝えたいみたいだった。


「ん?どうしたの?」


頭の上でぴょんぴょん跳ねるホワイトに気を取られていると、私の目の前まで触手が迫っていた。


「あ、まず」


シールドが守ってくれるだろうと思っていると、ホワイトはシールドを解いた。


私は【自動氷壁】をオフにしていた。


「へ?」


私は触手の攻撃をもろにくらった。


しかし。


何ともなかった。


「あれ?」


……あっ!そっか!〖スライム愛〗!打撃効かないんだった!忘れてた。


「アカー。勝ったわ」

「……そうだね」


アカも忘れてたらしい。めづらしい。アカがゲーム関連で忘れることってあんまりないのに。


触手は私のことをバシバシと叩くけど、痛くも痒くもない。


「へっへっへ。私を倒すなんて100万年早いのだよ」


気分は魔王。私は無敵なのだ。


そうやってふざけていると、タコはさすがに私に攻撃が効かないと分かったのか、私の体に触手を巻き付けた。


「うぇっ?!」


スルスルと私の体に触手が巻きついていく。


や、やばい。


「あ、アカっ!へるぷ!私これ解けない!」

「……触手プレイだぁ」

「言ってる場合かっ!」

「おとりよろ」

「わかったから。はやくっ!早く倒して!」


う、ヌルヌルしてて気持ち悪い。


幸い、アレな漫画とかみたいに、服の中に侵入するようなことは無いが、気持ち悪い。


アカは体目掛けて無数の斬撃をお見舞していた。グングンとタコのHPは減っていく。


時にタコの妨害を受けていたが、この調子なら遅からず倒してくれるだろう。


ただ、私の心が持つかはわからなかった。


「うぅ、はやくぅ」


私の顔をぬめぬめした触手がなでる。腕や足に巻きついた触手は私の体を引き裂こうと大の字に私を引っ張り出した。


すると、HPが減りだした。


「あ、これほんとにまずいやつだ」

「プリン、もう少しの辛抱」

「……限界です。【氷王】ぶっぱなしていいですか」

「温存しないとだよ」

「うぅ」


なら早く倒してぇ。


というか、絶対楽しんでるでしょ。アカ。ひどい。


そして、ついにタコのHPが1割を切った。


「そろそろいけるかな。【死神流刀剣術・仇の音・禁忌の序曲】」


アカがそう呟いて、振り下ろした刀は、タコの残りHPを全て消し飛ばした。


触手が消え、私は地面に落ちた。


「た、たすかったぁ」

「あはは。いやー。面白かった」

「……きっと今度はアカが痛い目見るよ」

「……ホントになりそうだからやめてよ」


次アカに何かあったら全力でからかってやる。


そう決意する私に、アナウンスが流れた。


『複数いるボスのうち、一体を討伐しました。2階層への侵入が許可されました』


「お、2階層行けるみたい。結構楽勝だったね。まだ3時間くらいしか経ってないし」

「そうだね。どうする?もう2階いっちゃう?」

「んー。ボス、複数いるって言ってたよね」

「そうだね」

「倒さない?」

「……あんまりメリットないと思うよ?」

「どうして?」


そう私が聞くと、アカは前方を指さした。


そこには恐らく材質は鉄だと思われる宝箱が鎮座していた。


「ボスを倒してゲットできるのは鉄の宝箱。たぶん。2階層ならごろごろ鉄の宝箱はあると思う。ボスは結構強いし、リスクとリターンが釣り合ってるとは思えないんだよね」

「なるほど……」


たしかにそうだ。ボスがどこにいるかもわかんないし、見つけても倒せるかわかんない。たとえ倒せても得られるのは鉄の宝箱。リスクとりターンが釣り合ってない。これが銀とか金なら話は別だけど。


「わかった。それなら二階層行こ」

「うん」


と、そのまえに。


「宝箱の中身は何かな?」

「いいのだといいね」

「変なのだったら泣く」


私たちは宝箱の前まで行くと、一緒に宝箱を開けた。


すると、そこに入っていたのは。


「たこ?」

「たこだね」

「……泣いていい?」

「まだ、泣くのは早いよ。せめて効果見手からにしよう」


──────────

再生たこ。食べると1時間【自動回復】が付与される。500p

──────────


「……まぁ、うん」

「効果はいいけど」


たこかぁ。


ポーションとかの方が、テンション上がったのに。


たこかぁ。


私たちはやるせない気持ちを胸に、2階層へと向かった。



























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