拘束プレイと白熊

私はとっさの判断で、思いっきり横に飛び退いた。


氷は私のいた場所に落ち、地面を軽く陥没させた。


「ふつーに、当たったら死ぬやつじゃん」


だらりと、頬を冷や汗が伝う。


あのー、さ。私一応、Lv1なんだけど……。


「グアァァァァッ!!」


か、関係ない感じですかー。


わっかりましたー。


にげます。


「【捕獲】!【威圧】!」


飛んでくる氷を転がり避けながら、スキルを発動。その後全力で逃げ出した。


対照的に白熊は、まるで、じっくりと追い詰めるように、二足歩行のままゆっくりと歩みだした。


背後に無数の氷塊を引き連れて。


くぅ!まずいまずいまずい!


むり!かてない!むりっ!


なにか、逃げる方法!


あっ!そーいえば、1番初めにとった3つの権利!使ってない!


しょ、消去権は使い道わかんないし、アイテム創造権は、素材がないから使えない。


残ったのは


「スキル獲得権行使!」


スキル獲得権、ランダムにスキルを獲得する。


おねがい!なんかいいの当たって!


『スキル【痩せ我慢】を獲得しました』


……ハズレな気がする。どう考えても逃げるためのスキルじゃないよね。


【痩せ我慢】

効果

一日に1度だけ、死に至るダメージをHPを1残して耐える。


やっぱりっ!今貰っても意味ないやつじゃん!


「グアァァァッ」


……っ!


ピキピキピキっ!


白熊が1度吠えると、そんな音と共に、あたりの地面が凍り始めた。


やばっ。地面凍ったら走れない。走れないと、逃げれない!


あぁ、もう!むりじゃん!


後ろから氷塊が飛んできた。横っ飛びに回避すると凍った地面に落ち、ピキっと音が鳴った。


慌てて立とうとして、ずっこける。


ずっこけた私の頭上を、氷塊が通り過ぎた。


顔がひきつるのが自分でもわかった。


……。


「スライムさんだけでも逃げて」


ごめんね。私のせいで変なことに巻き込んで、ごめんね。


スライムさんから手を離す。スライムさんは一目散に逃げ出そうとした。


逃げ出すと、そう思った。


「すらいむさん?」


スライムさんはあろう事か、白熊に向かって突進して行った。


な、なんで?!


白熊は、突進してくるスライムさんを見て、その巨大な腕を振り上げた。


や、やばっ。


慌ててスライムさんの元へ行こうとするが、当然、間に合うはずもない。


白熊はスライムさんめがけてその腕を振り下ろした。


「スライムさん!」


ぷにっ。


ん?あれ?ん?


振り下ろされた腕は、スライムさんを傷つけることはなく、そのヤワボディーは完全に無傷だった。


「スライムさん……」


やっぱり神なのか。可愛くてつよいとか最強かよ。


白熊は小首を傾げると、今度は鋭くとがった氷塊を生み出した。


ふっふっふ。スライムさんにそんな攻撃効くはずが─────


スライムさんはめちゃめちゃ焦っているように見えた。


あ、それは効くのね。


私は白熊目掛けて思いっきり石を投げた。


こつん。


すこし、1ミリくらい、HPが減った。


「グアァァァァ!!!」


そ、そんな怒らなくてもよくない?!


ぴこんっ!


『スキル【挑戦者】を獲得しました』


およ?


【挑戦者】

所得条件

大きくLvと能力値に差がある対象と、一定時間戦うこと。


効果

レベル差が大きいほど能力値に補正(小)。


おー。これなら、勝て─────


「グアァァァァ!!」


る、わけないかぁ。


スライムさんを拾うと、飛んできた氷塊を避ける。


とりあえず!尖ってないやつはスライムさんで防げる!尖ってるやつは……どうしようもない!頑張って避ける!


氷塊をスライムさんで受け、いなす。それでも全てを受けきれず、何度か掠った。


その度HPが減少したが気にしない。


この状況、どうしたら切り抜けられる?


完全に詰みな気がする。


既に足場は氷に埋め尽くされており、油断するとすぐこけるような状況。逃げることも、不可能。


……いや、ひとつ、思いついた。この状況を良くする方法。


私は白熊に向かってできるだけこけないよう、全力で走り出した。


くっ、めっちゃすべる!


「グアァァァァ!」


近づいてきた私に白熊は、氷塊を飛ばしてくる。


この際、ある程度のダメージは無視して突っ走ってやる!


何度か攻撃が当たり、その度HPが減少する。白熊の攻撃は強力なのか、どんどんHPは減って行った。


その代わり、私は白熊に近づくことが出来た。白熊が私のことをあまり警戒していないから、案外楽だった。


そして手が届く、その寸前。


私はばっと手を広げ、白熊に抱きつき、捕らえた。


よし!これで!【封印】が発動したはず!


あとは!


私は身を捻って白熊の腕を躱す。


そしてその辺に生えてあった長めの雑草を抜いた。


半分凍りついて、冷たいし、ちぎれたけど、気にしない!


抜いた雑草を白熊の腕にまきつけ、捕らえた。


そこで、シロクマの背後に控えてあった氷塊が、消えた。


よし!スキルを封印できた!らっきー!


もしかしたら今までもスキルを封印してたのかもしれないけど、目に見えたのは初めてだし、なにより氷塊を出せなくできたのはうれしい。


えーっと!つぎはー!どうしよう。


とりあえずステータスを開いてみた。


そう言えば、吸血鬼(公爵)って、何ができるの?


今まで私の中で存在が消えてたように思う。なんか、他にも忘れてる気がするけどー。いまはいい。それより検索!


調べると、どうやら、HPが自動で回復する。血を操れる。幻術を見せれるらしい。


吸血鬼と言うと、日に当たるとダメとか銀やニンニクダメとか、色々あるけど、私は公爵位というものらしく、弱点はほぼない。陽の光はおっけー。銀武器によるダメージちょっと多い。ニンニクおっけー。その他もオッケー。


強い部分だけ抜き取った吸血鬼が私である。


私のステータスには吸血鬼特有のスキルがあって、【HP自動回復】【血鬼操術】【幻惑】って名前だった。


早く知っとけばよかった!


「【血鬼操術】!」


そう叫ぶと、私の体から血が溢れ出した。血はうねうねと、私の意思に従って動いている。


うっ。HP減ってる。扱い気をつけないと。


【血鬼操術】

効果

HPを消費して血液を放出、操作する。HPの消費量に合わせて放出される血液の量が変化する。


私は血を操って白熊をまた、捕らえた。


「グアァァァァ!」


白熊は体をぶん回すと、私に肉薄した。


氷は封じれたけど、充分強いよー!


上からの振り下ろし、横に飛ぼうとして、ずるっと、足が滑った。


「やべ」


コケた私に、白熊の攻撃が直撃した。


「と、おもうじゃん?」


白熊の攻撃が当たった私はすっと消え、本当の私は白熊の背後に現れた。


【幻惑】3秒間幻を見せれる。ちょー便利。


【幻惑】

効果

1日に1度だけ、3秒間自身の思い描いた幻を相手に見せる。


「【血鬼操術】!」


血を操作して、槍状に尖らせた血を白熊に飛ばした。


そして白熊のHPは五分削れた。全体の、たった五分だけ。


くぅ。自分の低いSTRが恨めしい!


こっちはもう半分もHP残ってないのに!一応【自動回復】でちょっと回復してるけど!


【自動回復】

効果

10秒毎にHPを全体の1%回復する


というか結局!DEXあんまり役に立ってないし!


【捕獲】では大変お世話になりましたけど!


「グアッ!」

「っ」


振り払うように振るった白熊の腕を、後ろに飛んで回避した。


しかし、滑る足元に体制を崩してしまい。次の攻撃はスライムさんでガードすることになってしまった。


あぁっ!もう!足元うっざい!


でも、ギリ戦えるっ。


それから私は、とにかく死なないように気をつけながら、チクチクと攻撃を繰り返していた。


ほんとーに、小さなダメージだったけど、塵も積もればなんとやら、このまま行けば倒せるんじゃないかって思った。


しかし、運と少しの実力で保っていた均衡は、白熊の強化という形で終わりを迎えた。


「グアァァァァァァァァァッッッ!!!!」


白熊のHPが半分を切った時、白熊は大きな雄叫びと共に、その姿を凶悪なものへと変えた。


真っ白で、もふもふしてた毛皮は鋭利な氷に所々覆われ、白熊の腕には今まで存在していなかった大きな爪が出現した。


その爪は、スライムさんで防ぐことが不可能なことは、火を見るよりも明らかだった。


「っ。やば」


私目掛けて、その鋭利な爪が振るわれた。


私は咄嗟に、前に出していたスライムさんを下げて、せめて、少しでもダメージが無くなるよう、体を後ろに倒した。


ドンッ!


私は吹き飛ばされ、しばらく転がると、木にあたって動きを止めた。


半分ほど残っていたHPは、1ミリ程を残して全てが消えた。


【痩せ我慢】


キラキラと舞う赤いエフェクトをぼうっと眺めながら、あぁ、このスキル役に立ったなぁ。当たって良かったって思った。


白熊を見て思う。


あれ、倒すの無理だよね。


あーあ、頑張ったのになぁ。


死にたく、ないなぁ。


そして、あきらめと共に目を瞑った私が最後に見たのは、迫り来る大きな爪と



光り輝く、スライムさんの姿だった。

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