【 第5話: ミャ~ 】


 俺が振り返って、その声の主を見ると……。


「あっ……」


 そこには、かわいらしい女の子が、何やら『常滑焼とこなめやきの招き猫』のような丸っこいグーの形で胸の前に手をやり、俺の顔を見て、首を少し傾けながら微笑ほほえんでいた。

 歳は中学生くらいだろうか。

 その少女の肌は白く、髪はショートでモカブラウンのような色をし、目はくるりと丸く、服装は何やらどこかの赤い民族衣装風の変わった格好をしていた。


 かわいい……。癒される……。俺はそう思いながらも、少し後退あとずさりしながら聞く。


「き、君は……、誰……?」


 すると、その少女はかわいらしい八重歯やえばを見せて、こう口を開いた。


「私は、『ミャー』だにゃ?」


「ミャー……、だにゃ……?」


 俺は、この聞き覚えのあるイントネーションに、もう1歩後退りする……。


「そうだにゃ。そんなにうしろへ行っちゃうと、また穴ぽこに落ちちゃうだにゃ」


「あ、穴ぽこに落ちちゃうだにゃ……?」

「そうだにゃ。気をつけてないと、落ちちゃうだにゃ」


 どういうことだ……。この『ミャー』と名乗る少女は、一体何者なんだ……。

 そして、このどこかで聞いたことのあるような独特のイントネーションは……。


 よく見ると、その少女の頭には、何やら猫の耳らしきものが付いている……。

 そして、お尻には、猫のしっぽらしきものも付いている……。

 

「(こいつ、猫の格好をしたコスプレ少女か……? さては、渋谷によく現れるという、『猫ニャンニャン野郎』だな……?)」


 しかも、その少女の口元からは、かわいらしい八重歯が出ている。

 うん、これは、かわいい……。


 そして、その少女は、俺の顔をジーっと見つめた後、また首をかしげるような仕草を見せると、猫ニャンニャンの手をしながら、ニッコリ笑った。

 それも、かわいい……。とても癒される……。


「ねぇ、あなたのお名前は、何ていうにゃ?」


 俺は、その言葉にようやく我に返った。


「あっ、お、俺の名前は、『名古屋 太郎なごや たろう』。き、君の名前は『ミャー』って言うの?」

「うん、そうだにゃ。よろしくね。タロー」


「(こ、こやつ……。俺は、32歳の年上のおっさんだぞ。いきなり呼び捨てか……?)」


 俺とその『ミャー』という謎の少女との奇妙なにらみ合いは続いた……。



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