第二十四恋 ハッピーバースデー、オタク君

 さてさて。年度も変わり、学年も変わり、チャックが壊れたリュックも新しいものに変えたが、俺の初恋相手はまだ変わらず。それどころか初恋自体も絶賛継続中の今日この日。無事に俺は20歳の朝を迎えた。

 これからはアルコールもタバコも賭博もオールオッケー。もちろん自由と自己責任はセット売り。そんな世界が俺を待っていた。それと同時に、家族からのおめでとうメッセージ並みに大切なイベントが今俺の手の中にある(学友にして悪友?の幹孝みきたかからはまさかの全文ギャル文字のおめでとうメッセージが届いた。読めなさ過ぎてマジなえぽよ)。それは、「誕生日ログインボーナス」&「おめでとうボイス」!これを楽しみにしないオタクはいないだろう。

 ウキウキルンルンwktkwktk。早速アプリをタップ。数秒待って表れる荘厳な背景と大好きなキャラによるタイトルコール。そして

 「今日はお前の誕生日だな。この青龍が一族の俺が祝福しよう。受け取るがいい」

 はぁぁぁぁぁぁあああ。生まれてきて良かったぁぁぁぁぁぁ。

 好感度MAXキャラ(好きなキャラ)によるお祝いボイス、運営様からの各種アイテムセット。いやもう幸せが過ぎる。

 ヤバイ脈拍と幸福感でいっぱいのまま、他のソシャゲの誕生日ボイスとログインボーナスを回収していく。おおよそ50人から「おめでとう」を貰ったせいで「おめでとう」がゲシュタルト崩壊を起こした。いや有難い、有難いんだけど、やっぱりこんないっぱいだと受け止めきれんのよ。幸せ過ぎて辛いのよ。

 おかしなテンションで上手く回らない頭を使って考えるのは、これまでの自分について。軽い対人恐怖症になって、色々思い悩んで、出会いがあってどんどん変わっていって、好きな人が出来て、生きていて良かったと思えるようになって、これからも生きていたいとオタ活したいと願えるようになって。

 「これからも、よろしくお願いします。」

 スマホの画面に向かって一礼すれば、なんとなくだが涙が込み上げてきた。部屋の壁に掛かっている好きなキャラのお気に入りカードにも目を向ける。

 「・・・出会ってくれてありがとう」

 ああもう早く動け俺の口!

 「これからも、」

 これからも

 「好きです」

 すきです

 

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああクッソ恥ずいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

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