第四恋 推しのためなら、なオタク君

 推しって酸素だ。

 つまり、「あり過ぎると死ぬけど、無くても死ぬ」。まぁこの理屈で行くと二酸化炭素でも同じかもしれんけど、酸素の方がなんか良い感じだから酸素で行く。で、これはどの界隈のどのオタクも同じだと思う。酸素と推しの関係は「=」で、推しがいないと困る、生活に支障をきたす、日々の糧、人生の意義、推しのためなら頑張れるetc.かく言う俺も「推しが頑張っているなら自分も永遠に頑張れる」というタイプで、アイドル育成ゲームにハマり、推しが一生懸命にトレーニングに励むエピソードを読んだ後は、車で片道20分かかる早朝短期バイトへの道のりを1時間ちょいかけて全力ダッシュで出勤していた。

 「推しが頑張ってんのに俺が怠けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 今思うと、真冬の朝3時に叫びながら走る男がよく通報されなかった。いや、やば過ぎて通報できないか?日本人の事なかれ主義は侮れない。ちなみにバイト先では「根性がある」と全力ダッシュ出勤がウケてたりして、それはそれで先輩方に可愛がられたりしたのだが。

 さて、推しのためなら(図らずも)奇行に走れる俺である。これが夢属性しているキャラ相手だとどうなるのか。結果から語れば、次の通りだ。

 ・回転運動を一通り身につけた

 ・毎日の筋トレ

 ・趣味が変わった

 ・食べられたい願望の目覚め

 回転運動とは、柔道なんかで準備体操の一環として行う一連の運動のこと。内容は人や道場によって異なるらしいが、大体は「前転後転」「開脚前転後転」「倒立」「後転倒立」「側転」「受け身」「そり」「えび」+αだと言う。情報提供はもちろん幹孝だ。今まで運動らしい運動もしていなかったが、好きになったキャラがバリバリの運動系なので少しでも釣り合うようになりたくて頑張った。その内ハンドスプリングとかロンダートとかも習得しようと計画している。毎日の筋トレも同じような感じ。公式スチル、運動の時に束ねた髪と筋肉質な肩のコントラストが美し過ぎて鼻血が出たなぁ。あ、やべ、思い出し鼻血が・・・。

 趣味が変わった、はオタクあるあるかもしれないが、やはり推しによって特定のものが好きになったりする。初恋相手となったキャラはいわゆる幻獣の擬人化(学生)なのでアレだが、「ぴったりよりはゆったりとした服の方が好きだ」とそのクールな性格とは反対の台詞を回収した次の日には、口座から金を下ろし近くの服屋へ走っていた。もし俺が制服のある学校にいたら校則違反の制服改造も余裕でやってのけたかもしれない。ただ、オタクに限らず、服装において常に求められるのはTPO。実際の行動力はさておき、そこの壁を破るメンタルが俺にあるかは謎だ。

 そして、これが一番のやばす案件。公式では一言も「ニンゲンを食べる」といった台詞も描写もないが、大手二次創作サイトではめちゃくちゃ食べてる(食べさせられている?)。いや、単純に幻獣がそういうような描かれ方をしている作品は多いから間違い(?)ではないのだろうが。どこか人食い妖怪と混ざってる気がしないでもない。でも、そこでは大体プレイヤーが欲し過ぎて情熱的なキャラになってるしヤンデレになってるしメリバもある。そんでもってその全部で愛おしいと感じてしまう俺も相当だ。特に食べられたいって気持ちが強くなってしまったのは、我ながら重すぎる。こんな俺が、あれほど素敵なキャラに欲され、殺され、食べられる。いやどんだけ愛されてるんだ、と嬉しくなる。急募、「※二次創作」「※想像」タグ。いや、自覚はあるけど考えたくねぇー。

 推しのためならめちゃくちゃ頑張れる俺なので、それが好きな相手だとどうなるのか。今まで現実でも好きな人ができたことがないので知らなかったが、俺は存外重くて面倒なのかもしれない。


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