君に会えて良かった

紫泉 翠

プロローグ

プロローグ

あの日、あの場所で僕らが出会えたのは運命だと、今でも思う。

偶然兄から頼まれて、図書館に本を返しに行った。いつもは図書館なんて行かないから、珍しく見て回った。

そこで雨上がりの夕日を窓越しに浴びている君に出会ったんだったよね。


君はヘッドホンをつけてないと、人の心がわかってしまう。ポジティブな感情もわかるけど、ネガティブな感情もわかる、普通にみんなと何気ない生活を送るには君のその能力は邪魔だった。そして疲れた心をいやすために君は毎日家の近くにある図書館に通っていた。そんなときに僕たちは出会ったんだ。


それから僕も毎日は無理だったけど、君の所に頻繁に通うようになった。君は、いつも窓がわにある、長机の一番端に座ってる。僕は、いつものそんな君の変わりない姿を見ていたくて、通い続けた。


話している間に気づいたこともいくつかあった。君は本に夢中になっていると、人の気持ちを読めなくなるってこと。だから毎日来てたんだね。あとは、僕と好きな本のジャンルが同じってこと、夏目漱石や、太宰治なんかのような純文学を僕たちは好んで読んだ。


そんな、ありふれたような、貴重な、かけがえのない日がずっと続いていくのだと思っていた。


けど、運命はそんなに甘くなかった。

僕たちが会ってから1か月くらい後、君は急に来なくなった。

何かあったのかと思った、何か知ってるんじゃないのかと、図書館中の人を捕まえては話を聞いた。

君に会いたい一心だったんだ。


やっと知ってる人に出会えた、その人は図書館の司書で君の幼馴染のお母さんなんだよね。

その時に聞いた話が信じられなかった。いや、信じたくなかったんだ。


君はもう長くは生きることが出来ないんだって、そんなこと聞きたくなかった。

そこで僕は決めたんだ、今君に僕ができる最高のことをしてあげようって。

そんな風に思ったのは君が最初で最後だよ。

それから僕はありったけのことをしたよね、覚えてる?


そっか、覚えてない?ほんとに?まぁ、いいや。話してあげよう。


ーこれは僕たちの『あの』夏の物語だ

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