第52話 女神様

「ララってまさかのこの大陸の女神様?」

 大人の女性の姿に戻ったララをアレスがぎゅうぎゅうに抱きしめながら、頬擦りしている。


「離れろニャァァァ!」

 金髪を振り乱しながらララは両手でアレスを押し返した。


 なんでその姿なのに「ニャ」?

 違和感ありまくりなんだけど。


「二人とも落ちついて」

 ベリッとアレスをララから引き離す。

 ミノワール宮殿には軽々しく噂する者もいないけど、それでも今のララの姿を見られるのはまずい。


「ララ、その姿は目立ちすぎます。元には戻れないのですか?」

 いや、違った。こっちが元の姿か。


 豊穣の女神レラ。

 大陸12柱の一人でビクトリア王国ではどの教会に行っても女神像が祀られている。女神の存在が身近だった昔と比べ、今では枢機卿さえ声を聞くことすらできない存在。

 その女神様がだなんて……。

 しかも、目の前でドラゴンとイチャついている。


 何かの間違いよね?


「これでいいニャ?」

 ララの姿はパッとゴスロリの女の子の姿に戻った。

 しっぽも復活しいる。

 おおー、やっぱり女神様より黒猫に変身してる方がしっくりくる。




「確認するのも恐ろしいのですが、どうして女神様がそんなお姿に?」

「変装だニャ」

 うん、そうね。まさか女神様の姿で周りをうろちょろできないもんね。


「では、あの本はどんな理由で?」

 魔女のララであればかなりぶっ飛んでるけど、ハッピーエンドの恋愛小説が読みたかったっていう理由で納得できる。

 でも、女神が自分の魔力を注いで本を作るなんて、一体何を考えているのか?


 女神様の気まぐれというにはタチが悪い。



「アンジェラはララが何の女神か知ってるニャ?」

「豊穣の女神レラ様ですよね」

「違うニャ、ララは愛の女神レラニャ」

 え、違うの?


「でも、豊穣祭では女神レラに感謝を捧げますが」

「豊穣はララが人間に授けられる奇跡の一つでしかないニャ。でも、愛の女神として信仰されないとその力も衰えてくるニャ」

「豊穣の女神としての信仰ではダメってことですか?」

「アンジェラ、敬語は使わないくていいニャ」

「でも、一応は女神様なので……」

「じゃあ、この姿の時は気持ち悪いから敬語は無しでいいニャ。豊穣の女神としての信仰がまったくダメってことはないニャ。でも、愛の女神として信仰されて起こせる奇跡とは比べ物にならないニャ」

 なるほど、どうやらそこのところにララがこんな面倒臭いことをしている理由があるのかもね。


「このままではいずれ女神として忘れ去られる日が来るかも、と彷徨っていた時にアレスに会ったニャ」

 それが1000年前。


「神々の敵と人間に嫌われるドラゴンなのに、大空を飛ぶアレスはすごく自由に見えたニャ」

 へー、この世界にそんな設定があったんだ。

 チラリとコトーニーを見ると目を輝かせて聴き入っているので、アニメの世界でも語られてはいないことだったらしい。


「でも、やっぱり神々に背く行いを続ければドラゴンも滅びるしかないニャ」

「だから、世界のことわりや礼儀を教えてくれたのか」

「そうニャ。それに……ピンときたニャ」

 ララは恥ずかしそうに俯いた。

 食い気が一番と思っていたのに、こうして頬を赤らめる姿を見ると、なんだか新鮮で可愛い。


「だから、アレスとならハッピーエンドの物語が出来上がるんじゃないかと思って渡したニャ。それなのに、突き返されたニャ!」

 ララは自分で説明しているうちに、その時のことを思い出して口を尖らせた。


 まあ、ララの気持ちもわかる。

 あの本の始まりは自分自身のハッピーエンドの物語だったわけか。ちょっと、思考が変だけど。


「ララも、可愛いところがあるじゃない」

「可愛いところ? 賢いの間違いニャ?」

 ん?

「賢い?」
















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