第50話 お茶会リベンジ

 ミノワール宮殿の主がいなくなったのを知ったのは目覚めてから1週間後だった。


 王妃ライラは病の療養のため実家に帰ったということになっているらしいが、数々の暗殺罪で北の小塔に幽閉されたそうだ。

 表向きはレイモンドが魔物討伐の最中に暗殺者に襲われ、追跡の末、暗殺ギルドを壊滅させたことから資金提供者が王妃ライラだと判明した。


 どんな気持ちで母親を断罪したのか分からないが、コートニーの話ではレイモンドは初めから暗殺ギルドを壊滅させるようにアスライから言われており、魔獣討伐の方はドラゴンを差し向けらしい。


 めっちゃ急展開なんですけど。

 私の寝ている間に、何かあったことは確かだが深くは追求はしないでおこう。

 うん、それが世界の平和だ。


 ✳︎



「よ、夜のミノワール宮殿は夢の国みたいですね」

 コートニーが水面をバシャバシャと音を立てながら飛び跳ねるように歩いていく。

 明かりの灯った宮殿はステンドグラスが色とりどりに輝き、それを映し出す水鏡はまるで光の洪水に飲み込まれているようだった。


「コートニーあんまり濡れたら風邪をひくわよ」

「はい、アンジェラ様。でも嬉しくて」

 まあ、その気持ちはわかる。

 もしも、コートニーがアスライと結婚するようなことがあれば、ライラがお姑さんだものね。

 考えただけでも、ゾッとしてしまう。

 それが、自滅してくれたんだから今日は多少はしゃいでいても大目にみよう。


「ざまぁするところちょっと見たかったな」

「わ、私見ました! もう、悪役令嬢も真っ青なくらい完璧な断罪でした」

「そうなんだ」

 それからコートニーはライラの最後を興奮気味に語ってくれた。


「でも、アスライ様を見てるのはちょっと切なかったです。どんなに平気なフリをしてもやっぱり実のお母様ですから」

 まあ、確かに。でも、アスライに限っては母親に対する憐憫れんびんな思いはないような気がする。

 何たって腹黒だもの。少しでもそういう気持ちがあるのなら初めからそっちの道に行かないようにするくらいできそうだ。


「あ、後からアスライ様とレイモンドも参加するそうよ」

 前の住人が誰であろうと、ミノワール宮殿が王宮一美しいことに変わりない。

 前回はじっくり見ることができなかったけど、今日はこの贅沢な宮殿を堪能しよう。


「そうなんですか。レイモンド殿下と仲直りできたんですね」

「べ、別に喧嘩していたわけじゃないわよ。ただちょっと顔を合わせづらかっただけだし、それに今日ここでお茶会の開催許可をくれたのはアスライ様なの」

「アスライ殿下が?」

「ええ、せっかくの美しい宮殿だから嫌な思い出は早く忘れた方がいいからって」

 いいところもあるのか。それとも誰かさんにだけ優しいのかこの先が楽しみである。


「アンジェラ様は愛されているんですね」

「え! 私?」

「他に誰が?」

「いやいや、あなたでしょ。忘れてるかもしれないけどあなたヒロインなんだから」

「私ですか? それはまったくないです。女とも思われてない雰囲気なんで」

 そうなの?

 でもこの前、呼び捨てだったけど。


「私、こうして引きこもらずに普通に生活できるだけで十分なんです」

 コートニーは「ふふふ」と笑ってお茶を飲んだ。

 それは勿体なさすぎるでしょ。

 こんなに可愛くて。

 こんなに努力して綺麗な所作も手に入れたんだから。


 まあ、いいわ。

 いつか絶対に、コートニーに本を返してハッピーエンドに持って行ってみせるから。


 まずはこっちが先ね。

 私は隣で、バクバクと山賊焼を頬張るララとその横で甲斐甲斐しく世話を焼くアレスを観察した。

 何でここに山賊焼?

 まあ、それはいいや。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る