第44話 レイモンド視点 反撃
「王子様からの熱いキスです」
「……却下だ」
まったく、何をいいだすんだ?
冗談にも程がある。
「何でですか? 白雪姫も、眠れぬ森の美女もみんな王子様の熱いキスで目覚めるんですよ。アンジェラ様もきっと目を覚まします」
そのあまりの真剣な眼差しに、俺は一歩あとずさった。
こいつ、本気か!?
プッ、と誰かが後ろで吹く。
振り返ると、アスライが大口を開けて笑っている。
「あ、ごめんごめん。万が一ってことがあるから試してみるのはいいけど、さすがのレイモンドもこんな人前じゃ無理じゃないか? あとで二人っきりのときにしてみてよ」
「そ、そうですね。あとでよろしくお願いします」
ぺこりとコートニーは頭を下げた。
二人っきりって……まあ、それなら試してみるか。
でも、いいのか?
本人の意識のないときにそんなことをして?
「じゃあ次に私からの話を。ちょっとそこのドラゴンに聞きたいんだけど、私達と取引をしないか?」
「取引?」
カラスは無表情に首を傾げた。
「おい、アスライどういうつもりだ? 俺はドラゴンと取引なんてしないぞ」
「ちょっと、レイモンドは黙っていてよ」
「ここは俺の部屋だ」
「ちょっとだけだから黙って。もう何百年もずっと洞穴に閉じこもっていた君がここにいるってことはララのそばにいたいか、もしくはそれ以外の理由があるからだろ?」
アスライの質問に、ドラゴンもララも顔を背ける。
ドラゴンはわかるがララまでどうして顔を背けるんだ?
「ララ、まだ何か隠しているのか?」
「隠してるわけじゃないニャ」
「アンジェラが手した真珠はドラゴンの魔力の塊だって話だったけど、それ以外にも意味があるんじゃないのかい?」
「……」
「ララ、本当のことを話さないなら、今すぐ本を燃やすぞ」
「わ、わかったニャ。話すニャ。あれはドラゴンの忠誠ニャ」
「忠誠? それって人間同士が使う意味と同じかな? 騎士が主人に誓うやつみたいな」
アスライがララの目の前のテーブルに大量のお菓子とオレンジジュースを並べる。
食べ物で釣ろうっていうのか?
「全然違うニャ」
ララがいちごタルトに釘付けで返事をする。
いつの間にかベランダにいたカラスまで人間の姿になり、紅茶を飲んでいる。
こいつら……調子に乗りやがって。
「違うのか?」
「ドラゴンは基本仲間はいないニャ。でも、まれに仲間やつがいに巡り会えたとき自分の魔力を寿命として分け与えることがあるニャ」
寿命の長いドラゴンが多種族と少しでも一緒にいられるための方法なのだそうだ。
「じゃあ、アンジェラはドラゴンと同じ寿命を持ったのか?」
「いや、種族の限界を超えた寿命ではない。あくまでも長生きをしたと言われる人間程度だ。ただ、滅多なことでは死なない体になる」
「それじゃあ、アンジェラ嬢に不利になることはないってことでいいのかな?」
「人間に忠誠をやったことがないのでわからないが、不利益はないだろう。ただ、本人の同意がなかったので、目が覚めたらきちんと説明するためにここに残っている」
「ふーん、そういうことならしばらく王宮にいる許可を出そう」
アスライがララの耳をつんつんと上機嫌に突いた。
「おい、勝手に決めるな。こいつらのいうことなんか信じられるか」
「ただでとは言っていないよ。ここにいるにはそれなりの理由がいるし」
「それなりの理由?」
「そう、仮にもここは王宮だからね。そこに出入りするには家柄が超いいとか、頭が良くて文官として働くとか、あとは素晴らしく剣の腕が立ち手柄を上げた人間とかかな」
王宮に出入りできる人間はそれだけとは限らないけれど、アスライが何か含みのある言い方をしているので口は挟まないでおいた。
「手っ取り早くレイモンドと一緒に魔獣討伐に行ってきてくれないかな」
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