第17話 本当に好きな人 (キュン4)

「今日はそれを確かめるために公爵に俺が解呪方法を知っていると提案してみたんだ」

 レイモンドの言葉はにわかに信じられなかったが、言われてみれば解呪方法を知っているというレイモンドに、お父様はやけにあっさり引き下がっていた。


「その場で追及しなかなかったのは私には聞かれたくなかった?」 

「まあ、解呪にはドラゴンの心臓が必要だから秘密裏に手に入れようと思っているんじゃないかな。それよりも、本当に知られたくなかったのは呪いのことさ」

「呪い?」

「うん、アンジェラ。呪いには続きがあるんだ」

 そんなの聞いたことがない。


「呪いの続きはこうだ。呪われたものが王家の紋章を持つものを愛した場合、自らも殺人者となり破滅するだろう」


 うそ!

 それって、アスライに振り向いてもらうためにレイモンドを毒殺することを言っているの?

 それが呪いの続き?



「何かの間違いだわ」

 アニメではアンジェラがレイモンドを殺してしまうのは呪いなんかじゃなかったもの。

 でも、原作に対しアニメのストーリーは放送回数に合わせて設定をカットされていることも多い。

 レイモンドの王家の紋章は初めからなかったし、私がレイモンドを毒殺するのも本当は嫉妬からじゃなくて呪いのせいだったてこと?



「王家の紋章が現れる可能性のある俺とは絶対に結婚させたくないはず。目に見えない呪いで死ぬのと違い、君の手で殺された場合、いくら公爵でも揉み消すのは難しいだろうからね」

「だから、王家の紋章があることも秘密にしていたっていうの?」

 私と結婚するために?

 そんなの信じられない。


「それじゃあ、レイモンドは本当に私のことが好きみたいじゃないの」

「そうだよ。俺はアンジェラに会ったときから恋に落ちていた」

「ふざけないで」

 昼間の拳の痛みの失敗を繰り返さないように、私はレイモンドの手の甲をピシャリと叩こうと手をあげた。

 その途端、その手を掴まれ身体ごと引き寄せられる。

 気づいた時にはベッドの上でレイモンドに抱きしめられていた。


「ちょっと……ふざけるのはやめて」

「うん」

 とレイモンドは返事しただけで、全く手の力を抜いてくれない。


「アンジェラ」

「何?」

「俺が好きなのは君だけだ」

 レイモンドの言うことなんて信じちゃ駄目。

 そうわかっているのに頭の上で囁く声が切なくて、も少しだけ抱きしめられていることにする。

 だって、今までの記憶の中でこんなふうに私のことを好きだと言ってくれた人はいなかった。


 二人の心臓の音が重なり心地がいい。


「これ以上くっついていたら自制が効かないかも」

「!」

 クスリと笑ってレイモンドは私を離した。


 慌てて、ベットの隅まで移動する。

 危ない。

 今私何を考えていたのよ。

 嘘でもいいなんて……。

 こいつは危険だわ。


「この線から入ってこないで」

 私はレイモンドとの間に、羽枕を置いた。


「了解」と言って、レイモンドはおどけて両手を上にあげる。

 油断も隙もない。

 咳払いをして、呪いについての話に戻す。


「私でも知らない呪いの続きを、なんであなたが知っているの? 陛下に聞いたの?」

 婚約者候補にあがった私のことを王家が調べていないはずないから、陛下が知っているのは不思議じゃない。

 でも、当時8歳のレイモンドにそこまで詳しく話すことなんてある?

 私なんて、婚約しそうだったことも忘れているのに。


「俺が知っている理由はこれだ」

 レイモンドは懐から一冊の本を出した。


 エンジ色の表紙に金色で刺繍された文字で「真実の愛の物語」とありその下には王冠を戴いた女の子の絵が描かれていた。


「私、この本見たことあるわ」

「そりゃそうだ。これは昔アンジェラからもらったものだ。覚えていない?」

 レイモンドが手を伸ばし、その本を私の膝の上に載せる。


「この本のことは覚えているけど、あなたにあげたのは覚えていないわ」

 当時、お気に入りでどこにでも持ち歩いていたが、家庭教師が本格的につくようになり思い出すこともなかった。


「そうか、忘れていたのか……」

 がっくりと肩を落とすレイモンドに、罪悪感が湧く。彼にとってはとてもいい思い出だったらしい。


「大事にしていてくれたのね。ありがとう」

「いや、お礼を言いたいのは俺の方だったから。それよりこの本の内容は覚えている?」

「なんとなく。呪いにかかったお姫様を王子様が真実の愛で助けてくれるのよね。ちょっと私に似ていてドキドキして読んだ記憶がある」

「似ているんじゃない。これは君と俺の物語だ。いや、正確にはランカスターの呪われた令嬢と、王子様の話さ」

「まさか? そんな童話を誰が書いたの?」

「さあね、それはわからないが問題はそこじゃない」

「え?」

「これをくれたとき、君は私達みたいねって言っていた。俺も似すぎてると思う。だからその後、婚約の話がなくなったとき、この話にある呪いを解く方法が本物なのか知り合いの魔術師に確かめたんだ」

 童話の中に呪いを解く方法があるなんて、ちょっと信じられないけど。もしそれが本当なら、この本を書いた人を探せばもっと詳しいことがわかるかもしれない。


「魔術師は何て?」

「わからななかった。正確にはこの童話は俺たちにしか読めないんだ」


 ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る