献花と調査のための旭川紀行:旭川女子中学生いじめ凍死事件を追って

朝木深水

一日目

一日目:羽田空港

 飛行機に乗るのは云十年振りだった。


 羽田空港の展望デッキでは、アマチュアカメラマンたちが、長いレンズを離着陸する旅客機に向けている。陽は傾き、既にエプロンは日陰に覆われているが、天気は快晴で、撮影にはもってこいの日よりだったろう。荷物の関係で望遠レンズを持ってこなかったことを後悔した。


 この日は低気圧の影響で、日本海側と北海道は大荒れの天気らしい。旭川も強風で吹雪になっているらしく、フライトボードによると、着陸不能で羽田空港に引き返す場合があるという。


 ただでさえ時間が足りないというのに、引き返すことになったら更に一日無駄になる。選択を誤っただろうかと煩悶しつつ、ターミナル三階の蕎麦屋で遅いランチを楽しみ、レスリー・キーの写真を眺め、空港内を一人徘徊しているうちに時間となった。


 保安検査でリュックと上着とスマホを預けゲートを通過した。リュックがNGとなった。はさみの影が見えるという。


 女性の検査官がリュックの中身をごそごそと確認するが、そもそもはさみなど入れていない。ハイジャックする予定もなかった。そこで思い出した。サイドポケットにクリップ型のキーホルダーが入っていた。


 入場すると、快適な待合室があり、目の前で旅客機が行きかうのが見える。もっと早くに入場するべきだった。


 乗客はまばらで、難なく窓際の席を取れた。後で気付いたことに、この日は月曜日だった。


 機内で作業をしようとノートPCを持ち込んでいたのだが、どうも電波を出すのはスマホすらNGだという。他の乗客も、誰一人としてそんな奴はいなかった。知らないのは私だけらしい。本と一緒にリュックを棚に上げてしまったため、機内でやることがなくなった。しかし、落ち着いて『日本書紀』なんぞ読んでいられる状況でもなかったのだ。

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